シナリオ54


「なんでこの局面でなんだよ!」


 と、文句を垂れてもこれがプレイヤーの選択だ。これまでもこの選択肢から散々な目に会わされている。

 しかし、クエスト全般を思い返してみると、この『踊る』こそがクエストの成否を決していた。アグリのふんどし踊りがとまではいかなくとも、クエスト攻略のキーぐらいにはなっている。

 少なくとも現在のアグリの中に、ふんどし一丁になって公衆の面前で踊ることへの抵抗感はなくなっていた。


「仕方ないな……これが俺の戦い方ならば従うまで……」


 最弱職『農夫』から、RPGスター職への登竜門『踊り子』へのジョブチェンジが可能になるかもしれない。

 そんな期待を胸に抱きながら、いそいそと『農夫のつなぎ』を脱ぎ始める。


『やはりあなたは病気です……』


「コッペ……グルコッペはスゴイゴブ……魔王軍にもそこまで出来る者などいないゴブ……コッペこそがまことの勇者ゴブ」


 ピコピコには呆れられ、モンスター(ゴブリン)からは称賛される。コレも定番化されつつある。ワンパターンとも言うが。


「さあ、いよいよオーラスだ! 一丁、派手に踊ってやるぜ!」

(*オーラス=オールラストの略語、最後。麻雀用語/和製英語)



『アバター嘆き節・最終章』


 ふんどし~出た出た~もろだしだぁ~「ヨイヨイ」

 時間がなくても~脱出中でも脱ぐ~

 あんまり~逃走手段が~ひどいので~

 さぞや~アグリさん~見苦しかろ~「サァヨイヨイ」


(観衆が一人だけって少し寂しいな……)


 あなたが~どうしてもって~選ぶのなら~「ヨイヨイ」

 どんなぁ~局面だって~脱ぎましょう~

 だけどね~コエダメ爆発させた直後に踊るのはどうなの~

 臭いのよ~さっさと脱出させて欲しいのよ~「サァヨイヨイ」


(なんか……嫌な予感がして来た……)


 さぎょうぎ~ふんどし~おパンツさえも脱ぐ~「ヨイヨイ」

 でもね~こんな俺でも~ラスボス倒したんだよ~

 コエダメではめごろし~ざまぁみやがれ~

 ブラック組織のトップだから~ぜんぜん気にならない~「…………」


(あれっ、合いの手が止まった? 俺の背後に誰かいる? 臭い……)


 でもね~ちょっと反省してる~やり過ぎだったね~

 オーガだってゴブリンだって~家庭があるのよ~

 パパがコエダメで殉職~子供が知ったら悲しむのよ~

 でも選択肢を選んだのは~プレイヤーなんだからね~忘れないでね~



「グォー!」


「お、俺が選んだ選択肢じゃないんだからね!」


 踊り終えたアグリの背後には、シャチョーが仁王立におうだちしていた。


「におうから……仁王立ち?」


「グォー!」


「調子に乗ってごめんなさい……」


「グォ……お前ら一体何してる……」


 息も絶え絶えアグリを睨みつけるシャチョー。

 いくら瀕死とはいえ、やはり組織のトップ。貫禄だけは半端ない。

 少なくともマッパ同然のアグリが勝てる相手ではない。


「ゴブは時間稼ぎゴブ! このヤーサイの足止めをしていたゴブ!」


「あっ、ズルい……さっき俺のこと勇者って言ったじゃん……」


「こんな公衆の面前で脱いで踊れる図太い精神を、勇者と形容しただけゴブ。嘲笑ゴブ。ブタもおだてりゃ木に登るゴブ!」


 アグリはシャチョーに捕まった。

 そして、シャチョーの大木のような二本の腕に締め付けられる。

 羽トカゲがペシペシとしっぽ攻撃を、イヌが足にガブリと噛みつくが、シャチョーは全く動じない。

 組織を失い、挙句に肥えまみれのシャチョーには、通じないのだ。

 これ以上の痛みなど存在しないだろうから。


「く、臭い! 臭いからベアハッグは止めて! 普通に殺して~!」


  ☂


ピコピコ:アグリは肥にまみれて死にました。

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