シナリオ52


 アグリは村中央の古井戸に到達、そのままダッシュで通過した。

 そして、シャチョーとその取り巻きが古井戸の横を通過しようとしたその時……


「パチャマンカ!」


 羽トカゲに合図を送った。

 古井戸上空に待機していた羽トカゲが、井戸の中にファイヤーボールを打ち込む。

 その直後、信じられない現象が起こった。当然アグリは知っていたが。


「ドカーン!」


 なんと井戸が大爆発したのである。まるでゴレ〇ジャーか仮面〇イダーのラストシーンのように。


 意味不明の方は、クエストの道中、シルヴィに説明した『肥溜こえだめの恐怖』を思い出していただきたい。

『肥溜』は発酵時に大量の『メタンガス』を発生させる。そのメタンガスはロケット燃料に使用されるほど、とても燃えやすい。

 過去にも肥溜に溜まったメタンガスが原因で発生した爆発事故が、多数報告されている。


 そして、肥溜化した『古井戸』の底にも同じように大量のメタンガスが溜まっていて、羽トカゲのファイヤーボールで攻撃すればどうなるか。

 想像に難くない。


 爆発の規模に関しては、リアル世界ではあり得ないほどだった、とだけ付け足しておく。

 もしかしたら、アグリの持つ農民スキル『コエダメ戦法』と、称号『コエダメ名人』が爆発の規模に影響したのかもしれない。

 しかし、アグリ自身が「そんなの知らない!」「興味ない!」と言っているので、真相が判明することはないだろう。


 とにかく、『コエダメ戦法』はあまりに効果があり過ぎた。それはもうの一語では言い表せないほど。


 シャチョーはおろか、取り巻きのゴブリン兵も大爆発に巻き込まれ、右に左に吹き飛んだ。

 さらに追加攻撃が

 井戸の中に存在する大量の『肥溜のもと』が、悪臭を放つ猛毒となってモンスターたちに襲い掛かったのだ。


 村中が阿鼻叫喚あびきょうかんと耐えがたい悪臭に包まれた。

(*阿鼻叫喚=地獄の苦しみで泣き叫ぶさま)


 この一撃で、モンスター組織が全滅したわけではない。

 しかし、無傷のゴブリン兵、爆発音を聞きつけ応援に駆け付けたオーガさえも、シャチョーや集落の有様を見てフリーズしていた。

 モンスターは皆、遠巻きに、そして茫然ぼうぜんと眺めているだけで、誰も手を差し伸べようとはしない。

 農夫ごときに蹂躙じゅりんされるブラックな組織に嫌気がさした、というより、きっと臭くて近寄り難いだけだろう。


『コエダメ戦法』を成功させたアグリも、決して無傷ではなかった。


 再びレベルが上がらなかった。

 そればかりか、『マスター農夫のユニークスキル・コエダメ戦法がランクアップ。究極魔法パチャマンカに発展しました』なんてテロップまでもが意気消沈させた。


(なんでゴミスキルばかりが強くなるの? おにぎりとか……)


『それしか使わないからですよ……』


 ピコピコの助言に激しく幻滅しながらも、そそくさとその場を立ち去った。


「とにかく、もう肥溜ネタは止めて! 臭いゲームは嫌だから!」


 耐え難い悪臭で鼻をつまみ、鼻声で叫びながら戦場から脱出したのだった。


  ☂


 シルヴィを追いかける途中、村の南ゲートで一匹のゴブリン兵と遭遇した。

 口煩いセンムもやる気のないゴブリンチーフもいないというのに、竹槍を杖のように立ててゲートを見張っていた。


(コイツ……クエスト開始時に同じ場所に立っていた番兵ゴブリンか?)


 古井戸では「二十時間ぶりの休憩ゴブ」と自慢げに言っていたが、もう勤労シフトに戻ったようだ。


「おい、もうこの組織は終わりだ。これ以上働く理由などないぞ」


「そうゴブ? そういえば、センムが慌てて出て行ったゴブ……」

(*音声変換機能によりピコピコが同時通訳しています)


「センムも、もう戻って来ないと思うぞ」


 あのセンムでは、万が一でもシルヴィ相手に勝ち目などない。


「それでもゴブは番兵ゴブ。きっと死ぬまでこうして立っているゴブ」


 同じ元社畜として理解できる気がした。

 自分に命令する立場の人間がいなくなり、現状が理解できないわけでも、狼狽うろたえているわけでもない。


「お前は誇り高いんだな……」


「給料は安い、やりがいもない。でも、ゴブの父もゴブの祖父もこの仕事をしていたゴブ。ゴブはこの生き方しか知らないゴブ」


 そういう生き方しかしてこなかったため融通が利かないだけ、と言いたいのだろう。


「悪かったな……」


「なぜ謝るゴブ? コッペもゴブをバカにしていたゴブ?」


「バカにしてはいないが、やる気がない奴だと思ってた」


「まあ、的外まとはずれの指摘ではないゴブ。安い給料をもらって、旨くもない酒に酔って、ただ一日が過ぎるのを待っているだけゴブ」


「俺も似たようなものさ……ところで、どうしたらここを通してくれる?」


「コッペの流儀を見せるゴブ」


  ☼


ピコピコ:漢気を見せる番兵ゴブリン相手に、どのように対応しますか?


 番兵ゴブリンと戦う。

「農民とゴブリン、どちらがこの世界の最底辺か拳で勝負だ!」

【シナリオ53へ】


『ちょっとエッチな本・レアアイテムA』を見せる。

「漢気なんて古臭い。実はお前もこっちの方が好みだろ?」

【このまま読み進む】(*アイテム取得者のみ選択できます)


 ふんどし一丁になり、踊る。

「これが俺の流儀だ! 燃えよ、俺のゲーム魂っ!」

【シナリオ54へ】


  ☼


「これならどうだ?」


 アグリはアイテムストレージから『ちょっとエッチな本・レアアイテムA』を取り出し、番兵ゴブリンに差し出した。


「これは……コッペ、まだ持っていたゴブ?」


「グルコッペとまで言われて、捨てられるわけがないだろ。エロいオークなんてぜんぜん好みじゃないがな!」(*グルコッペ=仲間)


「ゴブもオークは大嫌いゴブ。だからその本を渡したゴブ。ゴブのお宝、ハーピィとネコ娘のユリユリ本はそう簡単に渡せないゴブ」


「なにそれっ! 超欲しい! 邪心像と交換して!」


「嫌ゴブ! やかましくしているとチーフに叱られるゴブ! さっさと通るゴブ!」


  ☼


 村の外へ出る。

【シナリオ57へ】

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