シナリオ30


「ラミア様! オラは一生ついて行きます!」


 プレイヤーの選択肢(本能)に従うままに、ラミア様の胸へと飛び込んだ。

 アグリの精神はたちまちその二つの柔らかな感触に支配される。

 それこそ骨のずいまで……。


(ん……?)


 アグリはこの『リアルクエスト』の世界ではドーテーだが、それ以外の世界では違う。バーチャル(エロゲや電子風俗)という意味においては、むしろ経験豊富な方だ。


 それら経験と比較して、やや劣っているような気がしてならない。

 エロ専メーカーのゲームじゃないから仕方がない、という考え方も出来るが。

 良質の抱き枕――シリコンパッドのような感触がするし、少し冷たい。

 いくらラミア様が爬虫類系変温動物といえども、温もり――体温ぐらいはあった方が良いのではなかろうか。

 それに、ちょっとだけ爬虫類臭い……。


(ええっ……!)


 そんなことを考えていると、アグリの体を中心にラミア様はとぐろを巻き始める。

 元来、爬虫類の交尾とはそのようなものなのだが、本来の体重差もあってか、かなり息苦しい。

 というか、すぐに生存困難な状況になった。アバターはレベル一なのだ。


「ラ、ラミア様……」


「フフフッ……そんなに嬉しいのかい?」


(なんか色々と勘違いしてる~)


 だが、これがラミア様のご褒美なのだ。

 ショーでも多くの上位モンスターがラミア様の抱擁で命を落としていた。


「さあ、遠慮するんじゃないよ。きなさい……」


 ラミア様の抱擁は一段と強さを増した。

 アバターの骨格がミシミシと悲鳴を上げ始める。


(このままだと、俺、死んじゃう……)


 アグリの性癖がソッチ系ならば死さえも受け入れられるが、残念ながらそうではない。なんら快感さえも得られていないのに、死ぬわけにはいかない。

 どんどんと力を増してくるラミア様の抱擁に必死に抵抗した。


「激しすぎ! こんなの無理っ!」


 叫んだ直後だった。

 アグリのゴスロリメイド衣装が、突如、前触れもなく消え去ったのだ。

 魔王軍公認マルサ秘蔵の『マジカル変身セット』が効力を失ったと思われる。


(な、なんで? MP切れ?)


 しかし、すぐに思い出す。

 この『マジカル変身セット』は限定仕様。戦闘行為に使えない。

 つまり、ラミア様の抱擁に抵抗したことが、とみなされた可能性がある。


 突如、ふんどし一丁になってしまったアグリは、もうなす術がない。


「おやおや? あんたおとこだったの?」


 白い毒牙と先端が割れた長い舌をむき出しにして微笑むラミア様。アグリの股間のアレを確かめるように、しっぽの先でまさぐって来る。


「ひ、ひぃ……!」


 こんな危機的状況であるにも関わらず、ちょっとだけ気持ち良かったのが悔しい。


「男の娘のようだけど……感度はなかなかいいわね」


「俺、ノンケです! コスプレを楽しんでいただけ! こんなの無理だからっ!」


「フフフ……面白い素材を見つけたわ……そうだ、呪いをかけてあげましょう。これであなたの心は本当に解放されるわ……」


「いやっ、やめて! えっちは普通が一番!」


「あらあら、心配しないで、これから本物の世界を教えてあげる……ウフフフ、さあ遠慮なく、お逝きなさい……」


「いーやぁー!」


  ☂


ピコピコ:アグリは逝きました。

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