シナリオ27


「その人形ジジイって何者? 大丈夫なの?」


「本人はフィギュア職人って言ってました……魔王軍でも上級職らしいですけど、完全にお爺ちゃんですね。シルヴィさんなら普通に勝てると思います」


「その人形ジジイのお店に押し掛けて、人質の居場所を吐かせるわけね。商品のフィギュアを滅茶苦茶にされたくなければ……って脅して……君、日頃からそんな酷いことばかりやっているの?」


「そこまで酷いこと考えてませんって! 俺って、どれだけシルヴィさんの中で極悪非道なんですか!」


「じゃあ、どうやって説得するのよ。断られたばかりなんでしょう?」


「その人形ジジイって職人というより、芸術家肌なんですよね……子供たちをモデルにしているのも、これまでモンスター社会にない未知の創作物を作りたかったから……だから……もっとモデルに適した大人の女性なら……」


 そして、視線を超絶美人アバター――シルヴィへと向ける。


「絶対嫌っ! 君の中の人って、どれだけ鬼畜なの! わたし、絶対にヌードモデルなんてやらないから!」


「誰もヌードまでやれって言ってませんって! どれだけシルヴィさんの脳って腐っているんですか! 十八禁案件でクエ中止になるじゃないですか!」


『あなたたち二人の知的レベルは同じですよ』


 そんなピコピコからのツッコミが聞こえた。


  ☼


 そして、『人形の館』へ押し入った結果……。


「おぬしら……ワシをヘンタイフィギュア作家か何かと勘違いしておらんか?」


 案の定というか、当然のごとく、人形ジジイからあきれられた。


「だから言ったよね! 絶対にちがうって!」


 そんなセリフはシルヴィから。

 少しだけ残念そうに見えるのはアグリの気のせいなのか。


「ワシにはスポンサーがおる。スポンサーの意向に沿ったフィギュアしか作らん。そんなプレートメイル姿の人族など、遠距離攻撃魔法の標的にしか使えん」


「その言い草も酷い!」


「やっぱり脱がなきゃダメ? 俺で良ければ脱ぐけど……」


「うむ、おとこの方が需要もあるかもしれん……ワシは絶対に作らんが……」


「やっぱりこいつらヘンタイだ! 俺の勘は当たってた!」


「ヘンタイの部分だけ当てても意味ないって!」


 そんな会話を三人でワイワイ繰り返していると、人形の館に新たな珍客が入って来た。

 洋館裏の雑木林で社畜同盟を結んだゴブリンレッドだった。

 アグリからの依頼で村の南部を調査していたはずだが……。


「おまえ、まだこんなところにいたゴブ! ゴブに調査させて自分だけ遊んでいるなんて酷いゴブ! 人族を信じたゴブが間違いだったゴブ!」


(社畜の友情なんてそんなものだよ……まだまだ甘いな)


 他人を信じる心の強さがあるならば、社畜などに成り下がっていない。もしくは自分が社畜である事実に気づかない。これは山鳥タクミの社畜理論だ。

 とはいえ、初めからだます意思はなかったし、ゴブリンレッドが攻略情報を持っているのなら欲しい。現状、人形ジジイの説得は難しそうだし。


「もう、戻って来たってことは、何か分かったのか?」


 とりあえず聞いてみた。

 すると、予想通りの言葉が返って来た。


「交換条件ゴブ! 代わりに何か教えるゴブ!」


 これが社畜の返答だ。他人を全く信じていないから、目先の報酬や欲望に対して貪欲になる。

 普通の人ならば、「あんなブラック企業辞めちまえ!」となるが、目先のこと(現在の生活)しか考えないから、ダラダラと愚痴を言いながらもブラックな会社や組織にしがみつくのだ。


「ねぇ、シルビィさんは何か洋館に関する情報を持ってない?」


「えっ、ここでわたしに振る? あなた達二人の取り決めだよね?」


 確かにその通りなのだが、ないものはない。困った時はを当てにするのも社畜の特性の一つ。

 これまでの付き合いで、シルヴィも社畜なのは確定的。ゲームイベントの敗戦の責任を押し付けられ、城壁の見回りや城下町のゴミ拾いまでやらされていた。

 ロットネスト王国軍の指揮官というエライ立場なのに。


「わたしを社畜扱いするのは止めて!」

 と言いながらも、アイテムストレージをゴソゴソとまさぐる。

「ボヤ騒ぎの最中に、こんなモノを拾ったけど……?」


 そんなセリフと共に出て来たのは、チラシ広告だった。

 あられもない姿のラミアや卑猥なボンテージで着飾ったオークなど、かなり過激なイラストまで描かれていた。

 シルヴィのようなハイソな女性が所有するには、とても適さないだ。


「ああ、それか……」


 アグリにも見覚えがあった。『村の倉庫』にも山積みされていたので。

 そのチラシ広告には切り離して使用する『ご優待券』がついていることまでは理解できたが、それ以外の詳細はモンスター語で記されているため全くの不明。かろうじて『洋館』の場所を記した簡易マップが読める程度だった。


 だが、ゴブリンレッドの反応は顕著だった。上位種でバイリンガルのゴブリンレッドならば、モンスター語の部分も容易に読み解くことが可能だろう。


「それは洋館のチラシ広告ゴブ! それさえあれば洋館に入れるゴブ! 譲ってくれゴブ!」


 しかし、ここで難色を示したのは外でもないシルヴィ。


「ええ~、わたしアイテムコンプ目指してるんだけど……」


 そんな風俗店のチラシ広告のようなものを、誰が欲するだろうか。しかも人族でもにゃん娘でもなく、モンスター風俗店だ。

 しかし、これがゲーマーという困った人種。必要なくても集める。ただ、『アイテム取得率100%』の表示のためだけに。


「村の倉庫にいくらでもあるから!」「人質情報の方が重要ゴブ!」「それでよく俺のことをヘンタイと呼べますね!」という二人の説得でなんとか納得してもらった。


「番兵ゴブリンたちの話では、人質は村の倉庫にいるらしいゴブ」という情報を得たアグリは、村の南部へと向かった。


  ☼


 いよいよ最終フェーズへ! シルヴィがいるなら勝ったも同然?

【シナリオ28へ】

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