シナリオ22


「こいつが……洋館か?」


 さらに北へと進むと、一件だけおもむきの異なる建築物に遭遇した。

 大半の家が木造平屋であるのに対し、この建物だけはモルタル漆喰しっくいの白壁がひときわ目立っていた。

 おそらく、元は村の教会だろう。

 村の教会を洋館風に改築し、モンスターたちは何かを行っているらしい。

 ゴブリンチーフも人形ジジイも、洋館に対しネガティブな表現をしていたが……。


「モンスターはこの洋館で何をしているんだ……?」


(こんな目立つ建物に人質を隠すなどあり得ないだろうな)と過去のRPGを思い返しつつも、建物の様子をうかがった。

 しかし、全ての窓は内側から板が張り付けられていて、中の様子は全く不明。正面の扉も裏のお勝手口も鍵がかかっているのか、開きそうになかった。


(どうしよう……)


  ☁


ピコピコ:開かない扉への対処を選んでください。


 洋館の探索を諦める。

【このまま読み進める】


 扉をノックし『ご優待券』を使用する。

【シナリオ15へ】(*アイテムを所有している場合のみ選択可)


 扉の前で『邪心像・レアアイテムC』を頭上に掲げて踊る。

【このまま読み進める】(*アイテムを所有している場合のみ選択可)


  ☁



「ひらけ~ゴマ!」


『さすがにその合言葉はないのでは?』


「し、知ってるし!」


 絶対ないと分かっていても、考え得る可能性を一つ一つ排除する。これがRPG攻略の鉄則だ。

 当然、他にも色々とやってみた。

 で『邪心像』を頭上に乗せてみたり、さらに踊ってみたり。

 しかし、扉はうんともすんともいわなかった。


『普通に扉をノックすれば良いのでは?』


「それでモンスターが出てきたらどうするんだ? オラたちに子供を返してくださいって土下座するのか? 時代劇のダメ農民のテンプレだろ。死に確だろ!」


『頭に不気味な人形を乗せて踊るよりは良いのでは?』


「そんなことないって! このクエってがキーワードだろ?」


『キーワード? 知りません。聞いたこともありません。仮にそうだとして、ふんどし一丁で踊る必要があったのですか?』


「そこは流れってあるじゃん!」


 とは不思議なもので、ひとたび型として成立してしまうと、それ抜きでは物足りなく感じてしまう。


 例えば、エロゲのパッケージ版にオマケとして付いてくるトレカやタペストリーやマウスパッド。初めは「ゴミだろ!」「こんなのオマケにするぐらいなら値下げしろよ!」と考える。

 しかし、時が経つに従い、オマケなしの商品やダウンロード版を購入した際、「えっ、これだけ?」「このエロゲ大丈夫?」「手抜きじゃないの?」と心配になってくるのだ。


『例えが全く意味不明です。それにこのゲームはエロゲではありません』


「なんで理解できないんだよ! 最新AIだろ!」


 逆の立場で想像すれば一発で理解できる。


「仮にピコピコが、お城の門番を社畜のようにやらされていたとして、一発ギャグさせて面白かった通行人だけを通せ、と王様に命じられているとしよう……」


『その仮定からして、すでに理解不能なのですが……』


「古いRPGだとそういう変テコな設定が結構あるんだって! 王様が笑えない呪いにかかるとか、わがままお姫様に振り回されるとか!」


『データべースを検索すると見つかりました……日本のゲーム史に驚きです』


「それで、その職務中にこんな通行人が現れたとする……」


 ――番兵さん、今後ともお見知りおきを……。と胸を差し出す。しかもおデブな中年男性。


 ――過労で胃炎になっても誰にもイエン。と言って番兵を嘲笑あざわらう初老の男性。


 ――私は何もしないから専務(センム)。と言う貴族服装備のチャラ男。


「通行人がそんなダジャレを言って来たらどうする?」


『誰も通しません……王国の治安を乱すテロリストとして処罰します』


「だよな! それと同じで、やるからには全力! セコイのも中途半端もダメ!」


 プロゲーマー山鳥タクミは全力だった。

 地方のショボい大会でも、同人大会でも、招待選手として参加したプロアマ混合の大会であっても決して手は抜かない、常に全力だった。

 そして、アバターアグリはその山鳥タクミの記憶と経験をコピーされている。


 ただし、全力と言ってもに限った話ではない。

 観衆を退屈させないため、驚かせるため、山鳥タクミファンを魅了させるためのプレイを常に念頭に置いていた。いわゆる、というやつだ。

 手抜きプレイで勝てたとしても、ゲームそのものの評価や大会の価値を下げてしまっては全くの無意味。最終的に自分の価値までもおとしめることになりかねない。

 京都の舞妓まいこさんが頑なに「一見いちげんさんお断り」を守っている理由と同じ。お金や効率だけの問題ではないのだ。


『確かに、効率重視で作られたAIに欠けている感情かもしれません。立場的に受け入れ難いですが、あなたが言いたいことは理解できました』


「それでいいよ。俺はピコピコじゃないし、ピコピコも俺みたいに生きられないだろ。多様性があるからゲーム世界は面白いんだ。たとえAIであってもね」


『…………………』


 結局、何の収穫もなく洋館を後にするアグリだった。


  ☼


 洋館の謎を置き去りにして、アグリの冒険は続く!

【シナリオ23へ】

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