シナリオ16


「ヤーサイ?」「なぜ、人族がここにいるグォ?」「旨そうな匂いガウ!」「グォー、人族がビンゴを当てただと?」「オレ、あの人族、好みウホ!」

(*ヤーサイ=農民)


 上位モンスター達のそんな声も耳に届かないのか、アグリはステージに上がった。

 もうビンゴでもらえる賞品のことしか頭にないのだ。


(俺の一つ前の当選者は十八禁フィギュアだったけど……俺は何だろう。れ薬とか魅了効果のあるむちかな? ラミア様のムフフなサービスも捨てがたい! 選べるならどっちにしよう! ダブルラインだから両方貰えるかも!)


「ブヒ? お前が当選者ブヒ?」


 なんとステージの上で待ち構えていたのは、ファンタジー系RPGでは定番のブタ顔の獣人『オーク』だった。


「えっ……!」


 そのあまりのに呆然となるアグリ。

 普通のオークならば、アグリも他のファンタジーRPGで見慣れているが、このオークはどう考えても装備が普通ではなかった。

 黒一色エナメル質のピチピチ衣装。しかもかなり太っているので(推定800kg)腹とか胸とかお尻とか、いろいろなお肉がはみ出てそれはもう大変なことに。

 全体重を支える二本の桜島大根のような足もその例外ではなく、網タイツがパンパンに膨れ上がり、ボンレスハムのようになっていた。

 モンスター名は『ボンテージオーク×1』と表示された。考えたくもないが、オークの上位種と思われる。


(オークの女の子かな……モンスターの感性だと美人系?)と必死に前向きに(?)考えようと努めるが、無理なものは無理。

 合コンで、お見合いの席で、結婚初夜で、このような性癖の獣人ごとき女性と対面したらどうするかなど、シミュレーションしたことは一度もない。

 山鳥タクミは健全な青少年なのだ。(*腐女子とは違うという意味です)


「ダブルラインブヒ? それなら好きな賞品を二つ選ぶブヒ?」


  ☂


ピコピコ:ビンゴ大会の賞品を選んでください。二つ目はに再び表示されます。


 ボンテージオークにピンヒールで踏まれる。(97%)

「オラはSM初級者、これぐらいで勘弁かんべん……」

【シナリオ△〇へ】


 ボンテージオークに鞭で叩かれながらフレイムキャンドルに焼かれる。(99.99%)

「オラはSM上級者、何があっても大丈夫!」

【シナリオ××へ】


 ボンテージオークの豊満な胸にギュッと抱き締められる。(95%)

「SMなんて無理! ラミア様と同じ報酬にして!」

【シナリオ〇×へ】


 ボンテージオークにヤオヤをしてもらう。(75%)

「オラは新しい世界へ旅立つだ!」

【シナリオ△×へ】

(*セリフはAIによる行動予測です。確定情報ではありません)


  ☂


(いやいや、無理だろ! この中から選べないって!)とまでは、言えないアグリ。

 さすがに悪意がないボンテージオークを前にして言い出せない。これはビンゴ大会の賞品なのだ。


(選択肢の横のパーセンテージは何?)と慌ててピコピコに尋ねる。


『あの数値は死亡率です。アグリのステータスを基準に計算してみました。ノーヒントもキツイと思いましたので……』


(ノーヒントって、ほぼ死に確じゃん!)


『四番目の選択肢はそこそこ生存率が高いようですよ? レベル一にしては、ですが』


(確かに……25%の生存率を突破できなければ、真のゲーマーとは言えないかも!)


 しかし、嫌な予感しかしない。

 AIによるアバターの行動予測「新世界へ」というセリフが気になって仕方がなかった。

 それにダブルライン――二つ目の賞品もあるので、次に生存率が高い三番目を選択したとしても、トータルでわずか1.25%の生存率となってしまう。


(絶対、無理だろ! 俺の命はレアアイテムか!)


「ブヒブヒ、何を迷っているブヒ?」とアグリに決断を迫るボンテージオーク。


「お、俺っ、ラミア様がいいっ!」


 アグリは正直に言った。無理なものは無理だと。さすがにゲームのためでも性癖せいへきまでは変えられない。

 すると驚いたことに、その一言でボンテージオークは引き下がった。

「ちっ、お前もかっ!」的な表情をされたが……。


(このオークも根は悪いモンスターじゃないかも……)と思いつつもホッと安堵するアグリ。


「なんだい? 私らが考えたビンゴの賞品にイチャモンをつける客だと?」


 ゴブリンチーフに呼ばれて、ラミア様がステージ上に姿を現した。

 ショーの時と口調に変化が見られない。女王様気質はこのラミア様のデフォルト設定だと思われる。


(報酬が鞭打ちとかだったら、やっぱりアバター死んじゃう!)


 アバターのあられもない姿を想像し、再びガタガタブルブル震えるアグリ。


「おやおや、子羊のように震えて……イジメたくなるね……」


 そして、先の割れた細長い舌で舌なめずりするラミア様。


(ひぃ~!)


 しかし、ラミア様から発せられた言葉は意外なものだった。


「アンタ、ゴブリンの話によると、ヤーサイの分際で素晴らしいお歌と踊りのスキルを持っているそうじゃないか?」


「えっ?」


「ステージで踊ってみないか? 同じダンサーとして人族の踊りに興味があるのさ。嫌だって言うのなら、でもいいけど? でも、アンタ、メスだろ?」


 そして、ラミア様は豊満な胸(推定G)をなまめかしく寄せる。アグリを誘うように。


「ええっ!」


  ☁


ピコピコ:アグリはこの局面を一大事と見定めました。プレイヤーがアグリの行く末を選んでください。


 踊る。

「踊りならまかせて! ラミア様のショーにいろどりを添えてみせましょう!」

【シナリオ18へ】


 踊らずに、ラミア様の胸に飛び込む。

「賞品は賞品。踊りとは別の話!」

【シナリオ17へ】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る