シナリオ11


「次はどんなお宝に出会えるかな~!」


「キャッキャ、キャッキャ!」


 冒険を再開したアグリと羽トカゲ。当初の目的――囮役、人質確保という目標さえも薄らいでいた。

 しかし、村中央の古井戸に差し掛かった時、目もくらむような刺激臭で鼻歌は途絶え、足も動かなくなった。


「うわっ、超くさい!」


 思わず鼻をつまんだ。

 これまで陽気だった羽トカゲも、「キュ~」としおれ声を出す。


(モンスターの体臭ってこんなに酷かった?)とも考えたが、過去の戦闘でこれほど不快な悪臭を嗅いだ覚えはない。


 それにここはゲーム世界。「臭いゲームは無理!」というプレイヤーが続出しては、運営会社も困るだろう。そんな劣悪設定は用いないはず。

 これはホラー系神経直結型VRゲーム、特にゾンビ系にも共通する難題だ。

 良い香りはあってもだけはない。


(いやいや……ちょっと待て! 本当にそうなのか?)


 前回のクエストであれだけたくさんの肥溜こえだめを作っておいて、クエストボスまで肥溜でハメ殺しにしておいて、自分に都合の良い設定だけは信じるのか。

 それではあまりに蒙昧もうまいが過ぎる。


 これではかつて山鳥タクミが勤めていたブラック企業の受付嬢と同じではないか。

 定刻に出勤し、定時になればこっそり帰宅する。

 視線が合った時だけ「お疲れ様で~す!」「今日も一緒にがんばろ~!」と愛想を振りまき、同僚のサービス残業には一切無関心。協力を求めても「コレ、あたしの受け持ちじゃないし~」と突っぱねる。

 そんな受付嬢は「社畜バイト君」と呼ばれ続けた山鳥タクミの生涯の敵、宿敵だった。


 鼻をつまみながらも臭いの元を辿ってみた。

 どうやら悪臭は目標だった村中央の古井戸から発生している様子。

 周囲にゴブリン兵が見当たらない理由も、この悪臭が原因だろう。


「どうしよう……」


 称号『コエダメ名人』を持つアグリは、悪臭の原因に見当がついていた。


 過去のリアル戦争でも、国境近辺の村が敵軍の侵攻に晒される際、井戸(水源)を破壊したり、井戸の中に岩などを投げ込んで使用できなくしたという。

 有名どころでは徳川家康。彼は井戸どころか、近隣の村まで焼き払った。

 その理由は敵軍の補給(水)を断つため。


 時代小説やゲームに登場するような毒(薬物)という非人道的手段も考えられないこともないが、大半はフィクション止まりの話である。

 なぜなら、半致死量に相当する大量の毒(薬物)は貴重な兵器であり、たかが井戸のために使用するなどまずありえないからだ。

 近代戦争においてはそういう事態も想定されていて、兵士は絶対に生水を飲まないし、いざという時のために水質検査の道具も携行している。

 水質検査など数百円のコストでできてしまうため、なんの嫌がらせにもならないのだ。


 だから、村を放棄した村人たちは別種の毒物を用いた。

『肥溜のもと』を投げ入れたのだ。(*ソフトな表現を使用しました)

 人間由来のもの、家畜由来のもの、それで足りなければ動物の死骸なども投げ入れ、細菌汚染で井戸を使用不可にしたのだろう。

 そして、月日が経ち、ちょうど良い具合に発酵時期を迎えているのだと推測できる。


(ゴブリンがおトイレと勘違いしている可能性もあるけど……)


 とにかく、目的地に到達したアグリは、村を占拠するモンスター組織を揺動ようどうしなければならない。(*揺動=揺り動かすこと)


  ☁


ピコピコ:アグリは以下の行動が可能です。最も成功率が高いと思われる選択肢を選んでください。


「作戦も大事だけど、こんな臭い場所に止まりたくない!」

 人質を探すため、さらに北へと進む。

【シナリオ21へ】


「シルヴィとの約束だらかね。ソロで無茶はしない」

 シルヴィが現れるまで井戸の傍で静かに待つ。

【シナリオ12へ】


「目立たないと囮にならない! 何とかしてモンスターの注意を引きつけないと!」

 ふんどし一丁になり、古井戸の周囲で踊りながらうたう。

【シナリオ19へ】

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