シナリオ10


(しかし、酷いな……凶悪モンスターの扱いがイヌネコと同じ扱いじゃねぇか……)


『仕方がありません。これら脳内選択肢はこれまでのアグリの経験と知能指数を元に導き出されています』


(俺はそんなに博愛主義者でも鬼畜でもない!)


 そんなピコピコとの会話はさておき、連れて行くと決めたからにはアグリが責任を持たねばならない。

 母親からもよくよく言われたものだ。

「最後まで責任をもって面倒を見るんだよ」と。

 あれはシーモンキーを飼った時だったか。一週間で全滅したが。


「俺の足を引っ張るようなら、次こそは追い返すからな!」


 そんな苦言を吐きつつも、情にほだされドラゴニュートの頭をナデナデ。


『やはりあなたはアグリですよ……』


 そんなピコピコの嘆息が聞こえた直後だった。


『CONGRATULATIONS! ドラゴニュートとの好感度がレベル三に達しました』


 そんな黄金色のテロップが視界を過ったのだ。

 前回のクエストでは、不肖ふしょうの弟子とも同じようなテロップが発生した。

 どうやら、『好感度』はモンスター相手でも存在するようだ。


「しかし……なぜだ?」


 アグリに懐いてきたドラゴニュートは一匹だけ。残り二匹は影も形もない。お肉を与えたという意味では、先ほどの『ヘルハウンド』も同じ。

「確率?」とも考えたが、特別なバックストーリーもモンスターテイマー系スキルもなく、お肉を一度与えただけでここまでなつくとも思えない。

 元トッププロゲーマー山鳥タクミがクソゲー認定するほどの激辛RPGなのだ。この『リアルクエスト』は。


「おまえ……もしかしてあの時のイベントの奴か?」

 と尋ねてみたが、言葉が返ってくるわけもない。


「キューキュー」鳴きながら足にすり寄って来るだけ。


 しかし、アグリは(勝手に)確信した。

 このドラゴニュートは先の戦争イベントでオーガに反旗をひるがえした一匹で間違いないと。

 あの時も『ワートホッグの肉』を与え、共闘してオーガを討伐したのだ。

 これら二度の偶然が好感度に影響を与えたならば、この結果にも納得いく。弟子とも二度の食事と二回の戦闘で好感度が上がったし。


「だがな……今から向かう先は悠々自適な異世界ライフではない。死地だ!」


 思い浮かぶ限りのカッコ良いセリフを言ってみた。

 だが、ドラゴニュート(以下羽トカゲ)の様子は変わらない。まるでじゃれてくる子ネコ。普通に考えたら人語(言葉)が通じていないだけだろうが。


 このまま背後を付きまとわれても邪魔なだけなので、頭に載せてみた。

 戦争イベントのオーガの姿を真似てみただけだが、なんかしっくりきた。

 羽トカゲもアグリの頭上が気に入ったのか、張り付いて離れない。やがてアグリのポニーテールに尻尾を絡めて遊びだす始末。


 アグリの脳内に小気味よい音楽が流れ、テロップが表示された。


『ドラゴニュートが仲間になりました』


  ☼


 羽トカゲを仲間に引き入れ、再び潜入作戦に復帰した。


 そう思った矢先、の出来事が待ち構えていた。

 予想外といっても、普通のRPGでは定番か。

 お宝部屋の発見、つまりご褒美タイム。

 ちょっと小奇麗に整理された『村の倉庫』の奥に、ゲームキャラクターの等身大パネルが置かれていたのだ。


「にゃんだ! オラの青春があんな所に!」


 アグリが興奮するのも無理はない。

 アバター『アグリ』の元となった『山鳥タクミ』が半生を捧げた格闘ゲーム『ファントムセイバー』に登場する『キャットウーマン・ファリス』の等身大パネルだったのだから。

 決して、にゃん娘のエッチなコスチュームにかれたわけではない。


 アグリはフラフラと、まるでパネルに魅了されたかのように村の倉庫へと足を踏み入れる。

 否、実際、魅了されていたのだろう。アグリ以外の人の存在に気付けていなかったのだから。

 しかし、その直後、「ペシッ」と音を立てて羽トカゲのしっぽがアグリの横っ面を叩いた。


 アグリのHPバーが大きく揺れた。

 緑色から一気に黄色へ。アグリは最大HPの50%ものダメージを受けた。

 さすがのアグリもたまらない。


「な、なにすんだ! 羽トカゲ!」


 𠮟りつけても羽トカゲは動じない。

「キャキャ!」と甲高い声を上げ、今度はアグリの髪の毛を引っ張り始める。


 アグリも対抗した。諸手で頭上の羽トカゲをペシペシ叩く。

 しかし、アグリからの攻撃は通じない。ステータス差が大きすぎるのだ。


(おい、ピコピコ! 羽トカゲはなんて言ってんだ?)


『ゲーム攻略に関わるアドバイスはできません』


 まるでブラック企業の受付嬢のような冷ややかな対応であったが、ゲームシステム上の理由ならば仕方がない。

 というか、そのピコピコの返答で気づくことが出来た。


「このパネルは……トラップか!」


 そもそも版権に関わるようなお宝アイテムが、配給元も不明な無償MMORPGに使用されるはずがない。

 よく見れば、それは『キャットウーマン・ファリス』ではなく、とてもよく似た別人――コスプレ写真だった。


『にゃんにゃんストリート三番館・あなただけのにゃんにゃんイベント連日開催中! 新人にゃん娘入りました!』

 そんな文字もパネルに記載されていた。


 アグリはあまりに興奮し過ぎて、見誤ったのだ。

 冷静になって屋内に目を配れば、似たような荷物が山のように置かれていた。ゴスロリのコスプレ衣装や『ご優待券』と記されたチラシ広告など。

 村を放棄した住民の持ち物か、それともこの村を占拠するモンスター組織が運び入れたかまでは不明だが。


「なんだ、このパネルもお店の看板かよ……」


 とにかく、羽トカゲに命を救われたことだけは間違いない。

 アグリはトラップ(落とし穴)を慎重に回避した。


『ちょっとエッチな等身大パネル・レアアイテムB』をゲットした。


『そのパネルは持ち帰るのですね……』


「盗品かもしれないじゃん!」


  ☼


 仲間とレアアイテムを手に入れたアグリ、いよいよクエスト攻略へ。

【シナリオ11へ】

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