第544話:幸せな時間
月明かりに照らされる青く銀色な彼女には見慣れていた。けれど、陽光のもとで愛し合ったなんて、いつ以来だろうか。
金色の毛並みが逆立ち震えるさまを、
肌が桜色に染まり汗ばむさまを、
固く尖る桃色の先端が大きく揺れるさまを、
すべて明るい陽射しの中で、余すことなく目で楽しみつつ、それらを口に含み、こね回し、歯を立て、指ではじく。
こらえきれぬように君が身をくねらせ熱い吐息をこぼすたびに、さらに指を、唇を、舌を這わせるのだ。
ああ、じつに幸せだ。
もっともっと、鳴いてみせてくれ。その、可憐で淫らな鳴き声で。
リトリィの体毛に埋もれるようにしながら、俺は愛の交歓の余韻に浸っていた。
もうすぐ換毛期を迎えるリトリィだが、逆に言えばまだ冬毛のままということだ。冬毛の彼女はボリュームもすごくて、ふかふかのもふもふだ。毛足の長い極上の毛布と言ったらいいだろうか? 抱きしめていて、こんなに幸せを感じることのできる女性など、絶対に日本にはいないだろう。
「あなた、そんな赤ちゃんみたいに……。おっぱいはまだ出ませんよ?」
俺の頭を撫でながら、リトリィが吐息を漏らしつつ身をよじる。
「なに、すぐに出るようにしてやるさ」
「ふふ、楽しみにしています、あなた」
そんなことをやりとりしながら、全身ふかふかもっふもふのリトリィをまさぐる。基本的には淡い金色の毛並みだが、腹側は銀色の毛並み。日の光のもとでは、その本来の美しい色合いを楽しむことができる。ああ、至福。
「なんだか、はずかしいです」
困ったような笑顔を見せる彼女の薄い唇に、自身の唇を重ねてから、聞いてみた。
「何が恥ずかしいんだ?」
「だって、毛並みの色とか、その……ふかふかなこととか。それを『うつくしい』だなんてほめてくださる『ひと』なんて、ほとんどいらっしゃいませんでしたから」
「それは、そいつらの目が節穴だっただけだ。リトリィ、君は美しい」
彼女のもふもふの毛の中に指を滑らせて堪能していると、リトリィがくすぐったそうにする。しかし、嬉しそうに俺の頬を舐めてみせた。
「わたしのことを、はたらきぶりでも、人柄でも、毛並みでも――全部でほめてくださるひとって、ムラタさん、あなたがはじめてだったんですよ?」
「そうか? リトリィはなんでも完璧だからな、俺のために神様がこの世に遣わした、そんな人くらいに思っているんだけど」
「……もう。からかうのはおよしになって?」
「からかってなんていない。俺はいつも真剣で真面目だぞ?」
真正面からそう言って、彼女の唇をふさいでみせる。
「……たいていは、『はたらきものだが、ケモノなのが惜しい』って言われてきましたから」
「ふかふかでもふもふでキラキラな君の毛並みの美しさと素晴らしさを理解もせずに目を開けたまま寝言を言うような輩なんざ放っておけ」
彼女の髪を、胸元の
「俺はこの世界に来て、君に出会えた。それこそが俺の生まれてきた意味で、幸せの始まりだったと信じている。――リトリィ、愛してる。今までも、これからも、ずっとずっと」
不意に、リトリィの、果てしなく透明な青紫の瞳が揺れた。
そのまま青紫の神秘的な泉となって、大粒の雫があとからあとからこぼれてゆく。
「ど、どうした? なにか、俺はまた、君を傷つけて――」
「……ちがうんです」
鼻をすすってから、リトリィは顔をわずかにあげて俺の唇をふさぐと、俺の背中に両の腕を回し、俺をがっちりとホールドする。
「……うれしいんです。わたし、あなたのおよめさんになれて、ほんとうに……ほんとうに、しあわせで……。それをいま、すごく、すごく、感じてしまって……!」
俺はこの世界に放り出されたあのとき、着ていたスーツ以外の全てを失った。
何も持たず、何にも出くわさず、何も持たされずにこの世界に放り出された。
本当に何もかもを失った状態でスタートして、君という女性に出会ったんだ。
けれど、今なら言える。君と出会えたことが、俺の最大のチートだったんだ。
日本にいたら絶対に、こんな縁と出会うことなんてなかったのだから。
必死にすがり付いてくる彼女を、俺も精一杯の力で抱きしめて。
感極まってすすり泣くように絶頂を迎える彼女の中に、今日、何度目かの愛を注ぎ込んだ。
「なんだか随分とあふれてくるな」
「あ、あまり見ないでください……」
顔を手のひらで覆うリトリィだが、俺が押し開く太ももを閉じる気はないようだ。
彼女の奥からとろりとあふれ出てくるものの量に、さすがにあきれる。どれだけ彼女の中に注ぎ込んだんだ、俺は。
「これは、栓をしないともったいないかな?」
「もう……そう言って、またご自身のものを押し込むつもりですか?」
「さすがにもう弾切れだな。でも、そうだな……
冗談で言うと、リトリィは笑顔で「本当ですか?」と身を起こし、舌をぺろりとやってみせる。
「でしたらわたし、がんばります」
……冗談だろ?
思わず言いかけたが、リトリィは実に嬉しそうに「では、
いまさら冗談だったなどと言えない。なるようになれとばかりに、彼女の頭をわしづかみにして腰を突き出したときだった。
「そろそろお時間でございます」
感情のない事務的な言葉が、背後から突然かけられた。
すっかり忘れていた、部屋には
「お楽しみの最中、誠に失礼ではございますが、すでにお茶の用意もできてございます。身支度をお願いいたします。リトラエイティル様はお湯浴みの準備ができておりますから、どうぞこちらへ」
で、俺もリトリィも悲鳴を上げた。
リトリィはおそらく、自分の痴態を見られていたことに気づいて。
俺の方は、リトリィの鋭い歯が根元に当たったことで。
……いや、ホントに痛かったんだって!
「楽しい時間は過ごせまして?」
済ました顔で、ナリクァン夫人がカップを傾ける。
いや、あの、夫人。俺たち二人が何をしてたかなんて、十分に分かってますよね?
俺の、黙っていればどこぞの
「さて、何のお話かしらね? それはさておき、運動後のお茶もなかなかに良いものでしてよ?」
やっぱり分かってるじゃないですかッ!
リトリィなど、さっきからずっと真っ赤になってうつむき、一言も言葉を発しない。
そりゃそうか。尊敬する「おばあちゃん」の家で、あの激しい乱れ方をしたのだ。声だって絶対に部屋の外に漏れていただろうし、当然夫人にも聞かれたか、そうでなくても報告は入っているだろう。身内に性的な事情を悟られる、これは確かに恥ずかしいかもしれない。
だがリトリィ、君は勘違いをしている。夫人は、寝室で「二時間のご休憩」を勧めてきた張本人なのだ。
若い二人が寝室で二人きり、それがどんな結果をもたらすかなんて、百戦錬磨の老婦人には火を見るよりも明らかだっただろう。
と思っていたら、俺こそ甘々の甘僧だった。
「おうちでも十分
ニタリ、という言葉がこれ以上ないくらいにふさわしい笑みを浮かべて、夫人はカップを傾けた。
思い出したよ。このばあさん、俺たちが初めて結ばれた時もそうだった。
お友達のバアちゃんズと一緒に、俺たちのことを散々からかってたよな。
というか、自分が歩んできた道だからって、当然のようにそれを俺たちにやり返すようなこと、やめてくれませんか? リトリィのヒットポイントはゼロっぽいです。
今にも頭から煙が立ち上りそうです。
……いや、そんな彼女がまた愛らしいと思ってしまう俺も、相当に業の深い人間だとは思うけどな⁉
「さて、冗談はここまでにしておきましょう。ムラタさん、先ほどのお話です」
「先ほどの、話……ですか?」
「ええ。例の、
……来た!
ここから先は冷やかしとかリトリィのばあちゃんとかの話じゃない、本当のビジネスの話!
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