第4話

 しばらく前、ヨウタにとって立て続けに不幸な出来事があった。

 長年愛用していたノートパソコンが壊れ、買い替えを余儀なくされた。

 ほぼ同時に、ヨウタと一年ほど前から付き合ってるユミのスマホが故障した。


 昨今の若い女性にしてはSNSなどに深く嵌っていなかったユミだったが、普段の連絡はスマホのメッセージアプリが主であったため、ヨウタはユミを連れて、あわてて通信キャリアのショップに飛び込んだ。

 要は、彼女と少しの間であっても、連絡が取れない事を不自由に感じるほどには、ユミのことを大事に思っているということだ。


 故障したスマホはもちろん買取になんか出さない。

 自分自身がその怖さを一番知ってるという自負もあり、当然の様に持ち帰った。

 記録媒体、データは、ドリルやハンマーなどによって物理的に破壊しなくてはならない。

 それを肌身に感じているからこその判断だった。

 いずれにせよ、予想外の出費が続き意気消沈するヨウタだった。



 それからしばらく後、サトルが持ち込んだノートパソコンは、ヨウタを大いに動揺させ、驚愕させ、そして興奮させた。


 ヨウタが自覚する、まっとうな仕事に就いていた、まっとうな自分だった頃に付き合った女。

 金持ちで高慢で、プライドの高いお嬢様だったが、そいつのとなりにいることが何より誇らしかった。

 そして、二年前、一方的に別れを告げた女。


 ノートパソコンはそいつのものだった。

 古島崎サキ

 

 信じられない思いを抱えながら復元されたデータを一つ一つ眺めた。

 親の事業が上手く行ってないことや、もうすぐ結婚することなどが分かった。

 驚いたことに、古いデータの中にヨウタとの記録がたくさん残っていた。

 静止画も動画も、ヨウタでさえ懐かしさを感じるデータだった。

 彼女がどんな思いでヨウタとの思い出を残していたか、それは分からなかったが、そもそも画像データなんてのは、さほど容量を圧迫するようなものじゃないし、定期的にバックアップを残すこともしないだろうと結論付ける。

 大事なのはなぜ残していたか考察する事じゃない、残っているデータをどうやって活かすかだ。


 データをネタに好きなだけ弄ぼうかとも妄想したが、ユミがいる現状で、サキに対する肉欲はほとんど湧き上がらなかった。

 代わりに、ここ最近の出費を効果的に埋めることを最優先に考えた。


 その結果として、サトルに渡した50万を引いても、150万円の現金が手元に残った。

 最近の出費や、昨日の一人祝賀会で散財した分を引いても、数カ月は遊んで暮らせる金額だ。

 知り合いだとか、昔の女などといった憐憫は、金以上の要求をせず、関連するデータを完全消去することで賄った。

 サキに対する関心が完全に消えたとは言えなくても、ヨウタからサキにアプローチすることはない。

 消去したデータには、彼女の携帯番号も含まれていたからだ。


 そうやって一つの感傷を乗り越えることができたからか、感情に耐性というものが付き、二匹目のどじょうを積極的に狙ってしまう。


 現在、復旧作業中のノートパソコンに抱く期待も、年若い女性のものであればいいなというよこしまさをはらんでいる。


 結果としてこのノートパソコンの持ち主は、お堅い職業の男性のものだった。

 ネタになりそうな仕事に関連する機密性の高い文書が散見された。

 実際にニュースやワイドショーで語られる単語が随所に現れると、さすがにこれは手を出したら火傷するかなと苦笑した。

 ヨウタは、触れていい領分は弁えているつもりだった。


 それでも隠しフォルダや偽装フォルダに隠された画像を検索した結果、彼は大きな発見をする。

 おそらくパソコンの持ち主であろうか、横顔だけで人相のはっきりしないニヤついた男とベッドで抱き合う笑顔の女に見覚えがあった。

 ヨウタが大学時代に付き合っていた、矢間吹モミジという女だった。

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