第2話
ここは、オペラ座。
大物有名人から、そうでない小さな演者まで、たくさんの夢観させ演者が出演する。
たくさんの裕福な人々が、夢観させ演者を求め、現実を忘れに来る。
夢と現実と幻想。
演者と、現実者。
人生と舞台。
そんな全ての物が詰まっていて、原点であり、正解のない終着地がオペラ座なのかもしれない。
ーーーーー
「エマ!早く支度して!」
「わかってるわ!」
金と茶色の丁度中間くらいの髪色の乙女が、大きなキャリーバッグを馬車から降ろした。
「ついに来たのね。」
エマと呼ばれた少女は、オペラ座を見上げる。続々と他の演者達も馬車から降り、荷物を運び出す。どうやらこの演者達は、小さな演者達の様だ。
演者達が忙しく馬車から荷物を降ろしているとき、オペラ座からタキシードにちょびヒゲに丸眼鏡、髪は黒髪のオールバック。背はかなり高く肩幅の大きな品と風格を漂わせた紳士が出てきた。
「始めまして。この度は、当オペラ座でのご公演。誠に感謝致します。」
エマの隣りにいた型いがよくふくよかな中年女性。彼女はソリシア。この演者達を指揮いるオーナーだ。
「貴方が、オペラ座のオーナーのカトリット様?」
「はい。ミセス・ソリシア。」
カトリットは、右手の白い布のグローブを外し、ソリシアに握手を求めた。
「お手紙でのやり取りで感じていた以上にとても素適な方ね。」
ソリシアはカトリットと握手し、自身のドレスの太ももの位置の布わ軽く掴み、腰を少し曲げて挨拶をした。
「身に余るお言葉でございます。」
「こちらこそ。こんな……素適なオペラ座で私達の様な小さな演者でもチャンスをもらえるなんて夢の様だわ。」
「いえ。私は昔からたくさんの演者を見てきました。そして、どこのオペラ座も名だたる有名な演者しか出演させない。それは何故か?話題性?集客率?もちろんそれも大切だ。しかし、世の中には目に触れられることのないまま消えてしまう才能や素晴らしい演者がいるのではないか……と、私は思うのです。演じるという事は前通し。ある意味賭博だ。しかし、その賭博こそが人生であるとも私には思えるのです。ここで立ち話も良くない。皆様、入口に係の者もいます。各演者様の部屋までご案内致します。落ち着きましたらソリシア様は私の書斎へ。そこで公演日までの流れや打ち合わせを。その際に出演代のお支払等も宜しくお願い致します。」
「かしこまりました。カトリット様。」
そのままカトリットは、オペラ座へ戻って行った。演者達が揃うと、係の者達が、オペラ座の裏手に全員を連れて行った。
「なぁ。エマ。」
「なぁに?ツェン。」
ツェンと呼ばれた金色の青い瞳をした青年。背は高くかなりの細身で、青年ではあるが顔立ちはやや幼く透き通るような美しさだ。
「さっきのカトリットって奴……。あいつ、エマの事変な目で見てたから気をつけろ。」
「ちょ……。何言ってるの?話してもいないのよ?そんなわけないじゃない。」
「おんなじ男としてわかるんだよ。いいか?なにかあったら……いや、何もなくても気をつけろ。むしろ俺に報告しろ。」
「いつまでも子供扱いしないでよ。」
「子供扱いしてないからだよ。」
「どう言う事?」
ツェンは、チラッとエマの胸元を見た。小柄な身体にキツめのコルセットを巻いているせいか少し胸元が強調されていた。
「それは……エマも十六歳だろ?ヨーロッパは、だいたい十七歳で女性は初婚を迎える。」
「それが?」
「確かにカトリットさんが言っていた事は素晴らしい。でも俺達みたいな貧乏演者にとって美味すぎる話だと思わないか?」
「カトリット様に失礼よ。」
「なんか……胸騒ぎがするんだ。」
「……わかった。なにかあってもなくても報告する。それで満足?」
「あぁ。」
「そういえばソリシアさんが話てたここのオペラ座のお話は本当かしら?」
「あぁ。あの怪物だか怪人の話だろ?」
「本当なら会いたいな。」
「エマならそんなのに会わなくても成功できるさ。」
「もう。うちの看板演者の余裕ですか?」
「嫌味を言うなよ。」
「ツェンはいいわ。美しい金色の髪と青い瞳。そして歌声と踊り。貴方こそこのオペラ座の公演をきっかけに何処かへ行ってしまいそう。」
「行くわけないだろ!」
「ツェン?」
「エマがいる限り……。」
「ツェン。私達は確かに兄弟みたいな関係。いえ、私達演者達は家族も同然。でも、皆ソリシアさんに助けられた子供達。」
この演者達は、ミセス・ソリシアに拾われた孤児達なのだ。孤児と言っても上は六十歳から下は二歳までのおよそ二十人程の団体。ミセス・ソリシアには旦那がいて子供が授かれず、旦那も若くして他界した。残された僅かな貯金でミセス・ソリシアは旅をして歌や踊りをしている孤児や訳有りの人を集めて旅をしていたのだ。
そして、とある街でこのオペラ座の話を聞き、カトリットに手紙を出した所、今回の公演の話が届いた。
エマの母親はジプシーだった。七歳の時に、目の前で母親はジプシー狩りをされた。なんとかひとりで逃げ切でたが、誰も目も当てようとせず、助けてくれず食べ物もなく、力尽き、母親が歌ってくれいた子守唄を微かな声で横たわりながら口ずさんでいた時にソリシアに拾われたのだ。
演者達は己の過去を話さない。
それがここの、ミセス・ソリシア達のルールだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます