第7話
試射会が終わり、何日かしてふらりとバルズルがやって来た。彼は何人もお供のドワーフたちを従え、巡察に行ってきた帰りだ。肥った身体で汗を拭きふき、週末に山まで狩猟へ行こうと、ビリーを誘った。
「ダメだ、棟梁」
しかし、プリンと遊んでいたい彼はそっけなく断った。
「なんで?」
キョトンとした顔になったバルズル。
「狩りならライフルがなきゃな。おりゃ、弓矢なんて使えねえし」
「ライフル? そりゃなんや?」
ビリーは、バルズルとガラルグにライフルを説明する。本当は髭面の爺さんたちといるより、プリンとベタベタしていたいのが本音だが。
「つまり、銃身の長いやつやな」
「それだけじゃないけど、最大射程がまったく違うんだ。拳銃じゃ百フィートが精々だけど、ライフルなら四百五十フィートくらいまで変わるからな」
「ほう……。ビリー、もっと詳しく話せ」
バルズルとガラルグは、ビリーには分からない理由があるのか、話に食らいついてきた。
「えっと、つまり、今使ってる拳銃なんだけど、滑腔銃っていうんだよ。銃身の中に螺旋状の溝を掘ってないんだよね。前に話したことがあったけど、それがあると射程距離が全く違ってくるんだ」
「溝……?」
「ライフルってのはそこから名前が来てるんだけど、弾丸を軽く旋回させながら打ち出すことで、空気抵抗が減って直進性が増して遠くの標的に届くのさ」
ドワーフ二人は唸りながら考え込んでいる。
「うーむ」
顎髭を撫でながら、バルズルがギランとガラルグを見やった。
「ガラルグ、こりゃ、そのライフルとかを作りゃ、あいつを追っ払えるんじゃないか」
「棟梁もおんなじ考えか。ワシもだ」
ビリーは、二人の深く頷くわけが分からない。
「あいつって?」
二人のドワーフは、ビリーを下から上まで眺める。バルズルが言った。
「ビリーは異世界人だから、知らんやろう」
「まあ、言っちまっていいかな」
「なんだよ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガラルグは、みなを店頭のソファに座らす。いつもどおり、ジョッキにビールをなみなみと注いで渡した。まったくなにかする前に必ず酒を飲むのは、ドワーフの悪癖だなとビリーは肩をすくめる。
「ビリーよ、以前にわしらの住むこの世界の話をしたが、覚えているか?」
ガラルグが、お約束通り、ビールで咽喉を湿らしてから話しだした。
「ああ、覚えてるよ」
ビリーは、この世界で初めて目覚めた時、ガラルグが食事の席で教えてくれた時を思い出す。
「その時は話してなかったが、この
「鳥?」
「ただの鳥じゃない。神々が使わした霊鳥だ」
「神々? 使わした鳥?」
「「そうだ」」
ガラルグとバルズルは声を揃える。アヴァタールで生まれたプリンは、神鳥と聞いて静かに耳を傾けていた。
だが、西部生まれのビリーには、にわかには信じ難い話だ。教会の中ですら唾を吐く無法者だったのだ。疑い深い眼でジョッキを飲み干したドワーフ親父たちを見た。
「鳥が災い? まさかぁ!」
ビリーは黙り込む。皆も黙ってしまった。
プリンがおずおずと、二人のドワーフに訊ねた。
「それってもしかすると、旅行家バトゥナルの世界巡礼記に出てくる西の怪鳥の話ですか? 親方」
ガラルグがドンッとジョッキをカウンターに叩き置き、
「おお、プリンちゃんは知っとったか!」
プリンはちょっとビクッとしながらも、
「えー、はいっ。バトゥナルはシタデルの
そういって、ニコっと笑い、頭の片隅に残っていた記憶を思い出す。
「確か、バトゥナルはこう記していたわ……」
………………………………
……………………
…………
我らはオリュンポス山脈、こちらでは
案内人たちは慌てて這いつくばり、手を組んで拝み始めた。我は掌で帽子を抑え頭上を見上げると、遥かな天空高くに巨大な鳥が飛んでいた。
訳を尋ねると、あれこそ神々が遣わせし
《"果てしなき天空を飛翔し、地に降り立つことなく、風に乗りて歩む者"》
《"太陽が沈む青黒きわだつみの果てから星を摩する山々まで一羽搏きで来たりし翼よ"》
《"金色に輝かしく眩しき強き翼の羽根の下、大いなる暗闇が広がらん"》
我らはその鳥の姿が見えなくなるまで、一歩も動けなかったのだ。
おお! 世界にはなんと不思議なる生物がいることか!」
…………
……………………
………………………………
「多分、こんな感じの文章だったと思います!」
「そう、それじゃよ」
バルズルがひどく疲れた声になり、彼女にこたえた。
プリンは興奮した声で、
「巡礼記に出てくる巨大な霊鳥、アズライール。アタシ、ただの作り話かと思ってました」
普段は陽気なガラルグの顔が、憎々しげな表情に変わり、
「それだ。そいつが
ドワーフには似つかわしくない陰気な顔つきで、ガラルグとバルズルが揃って首肯した。
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