第6話



ズキュッ――ン!

ズキュッ――ン!

ズキュッ――ン!


 響く三発の銃声。

 木の樽の上に置いた兜には、真ん中に三っつ、穴が開いている。


 構えた拳銃を下し、銃弾を込めなおすビリー。




 プリンが銃開発に加わり、半年が過ぎた。


 彼女は寝る間も惜しんで、試作と研究を重ね、ようやく火薬と起爆薬となる物質の抽出に成功した。それを元に銃弾をガラルグと弟子たちが開発し、とうとう、四十五口径のフルメタルジャケット弾を作り上げたのだった。


 拳銃本体は、少し前にガラズムが納得のいく作品を作り上げていた。銃把には銀象嵌まで施している六連発のリボルバーだ。

 


 今日はその新たな拳銃の試射。関係者へのお披露目も兼ねた晴れの日だ。当然、試射を任されたのはビリー。

 かって西部一と謳われた腕前を見せつけ、列席者は感嘆の声を上げる。



「うーむ。あれはどれくらいの距離だ?」

 列席者の一人、ゴルランという名の親方が感心する。


「ああ、七十歩ほどだな」

 ガラルグは答えた。


「距離は弓矢と変わらんが、威力は段違いじゃな」

 ゴルランが顎髭をしごきながら考え呟く。




 次の的は、ガラズムの徒弟である甲冑職人が作った大鎧だ。

 的から百歩離れた位置で、ビリーは狙う。通常なら威力が落ちて当たらない距離だが、引き金を引いた瞬間、高い金属音が響き渡り、鎧の胸部に穴が開く。


 続け様に全弾発射して、次から次へと弾が当たると、大鎧は引っ掛けていた柱から弾けるように外れ、グワァンと地面に転がった。


 検分役のドワーフが駆け寄り確かめると、大鎧には無惨な穴が一面にあいていた。


「ほう。なんや威力が上がっとるようやが」

 ガラルグの横に並んで座っているひと際肥ったドワーフが彼に話しかけた。


「解るか、バルズル棟梁。あの弾には特別な炸薬を使ったんだ。爆発は強くなるんじゃが暴発の危険度は増すんじゃ。でも大丈夫。何回も試射したが、銃本体に問題はでなかったよ」

 



 ビリーはまた、銃弾を込め直すと、傍らで準備しているデドルドに合図する。

 彼が次々と素焼きの盃を投げると、一発も外さず、すべて撃ち割った。



 投げていくうちに、デドルドはその力を強くして、最後の一枚は小さく見えるほど、空高く投げられた。


 ビリーはニヤッと笑うと、それを一撃で撃ち割ったのみならず、さらにそのカケラを粉々に打ち砕いてしまった。

 



「う――む。凄まじい威力やな、ガラルグ」

 ドロームボルグの棟梁、バルズルが呻く。


「そうだろ、棟梁よ」


「こんなもんが世に出れば、ワイらドワーフは食いっぱぐれるわ」


「だが、あれを作る技術は我が家にしかない」


「ワイも金は出したで」


「そうでしたな」

 ニヤリとガラルグは笑う。

 




 試射を終え、ビリーはプリンの元に歩み寄る。

「凄ぉい、全部当たってるし!」

「当たり前だろ」


 プリンがビリーに抱きつき、キスをする。


 二人は出会って間もなく、夫婦になった。歳も近く、四六時中一緒にいれば、若者同士でそういう関係になるのは自然な流れだ。


 ドワーフたちは大いに喜び、盛大に祝ってくれた。ガラルグは未来永劫我が家にいて良しと機嫌良くいってくれ、ガラズムは子供が出来たら鍛治を仕込んでやると意気込んだ。




「んーっ、チュッ。ねえ、ダーリン」

「なんだ、ハニー?」

 書くのも恥ずかしいが、ダーリン、ハニーと呼び合うバカだ。


「もっっ回、チューして」


「へへっ、仕方ないなぁ。チュッチュッ」


「いやぁん」


 そこに、ガラルグがバルズル棟梁を伴いやってきた。

「おいおい、公衆の面前でイチャついてんじゃねーよ」


「へへっ、恥ずかしいな」


「恥ずかしいとか思ってねーだろ! ボケッ!」

「いてっ!」

 ガラルグが、プリンに抱きついたままのビリーの頭に拳骨を食らわす。




「親方、こちら、どなたですか?」

 プリンが、横で呆れている、ガラルグより横幅が増したドワーフを見た。


「てめえら、ちっとは畏まれよ。こっちはバルズル棟梁。ドロームボルグ三十七種の職業ギルドを束ねるお方だ」


「「ふ――ん」」



「アンタが異世界からきたお人か。ワイはバルズル。ま、気楽にいこうや、アーッハッハッハッ」


「おう、おれはビリーさ。よろしくな」

 ビリーは気さくなバルズルに好印象を抱いて握手する。プリンはもじもじしながらも指先で握手した。


「ビリーさんの射撃の技も凄かったが、銃の威力も大したもんや」


「そうかい」


「うむ。あれが世に広がったら、戦の様相はいっぺんに変わるわい。ありゃ、特別な訓練がいるんか?」


「射撃訓練は必要だが、あんたらが使っている弓とか剣とかと違って、女子供でも、ちょっと訓練したら使えるんだぜ」


「そうか、力のない者や心得のない者でも、相当な武力も持てるんだったら、大きな利点やな。この世界、女が荒野を旅するなんてまず無理な世界じゃからな」


「まあ、そうかもしれねぇが、うちのハニーなら大丈夫さ。可愛い上に強えからな」


「やだぁ、ダーリンったら!」

 バシンッとビリーを叩いて、つんのめらすプリン。




 見ていたガラルグが嫌な顔になり、

「……。事務所へいって一杯やろうや、棟梁」

「……。そうやな」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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