第3話
二階の寝室から若者が連れていかれたのは、大きな食堂だった。
絶え間ない喧噪が溢れ、思わず唾が出るいい匂いが漂っている。
大きく分厚い木のテーブルの両側に、ガラルグと同じように小柄だが分厚い身体の小男たちが並んで座っていた。
盛んに肉の塊を食い千切り、絶え間なく木のジョッキからグビグビと酒を呑んでいた。
彼らの間を、やはり小柄で肉感的、いや、はっきり言って肥り気味の女たちが走り回って給仕している。彼女らは力瘤を見せつけるかのように、山盛りの肉料理やジョッキを何杯も持っていた。
ガラルグはテーブルの真ん中の背の高い特別な椅子に座ると、若者を側の椅子に座らせた。
逞しい給仕の女性が、若者の手にすかさず酒のジョッキが持たせた。ガラルグもジョッキを持って、いきなりラッパ飲みにして、でっかいゲップを放った。
それから哄笑を上げると、
「いやぁ、おめえが気がついて良かったぜ。あと一日眼を開かんかったら、人柱として魔導炉へ放り込んでやろうと思っとたんじゃからな! ハハハッ」
ガラルグはバンバンと若者の背を叩いた。
若者は、カラカラの咽喉に気がつき、ジョッキに口をつけた。ビールのようだった。苦みが強いが美味かった。
彼は、肉の塊を載せた大皿を運んできた、ちょっとほっそりしているが二の腕が逞しい女性にウィンクすると、ガツガツと食べ始めた。
「まあ、なんにしても、良かったのう。皆の衆、こいつがあれだ! ええっと、そう。店の前に落ちてきた男だ!」
「おおっ!!」
テーブルに並んだ男たちが、一斉にジョッキをテーブルに撃ちつけ、ガタンガタンと鳴らした。ヒューヒューと口笛を鳴らす輩もいる。
「ハハハッ、皆の衆も知ってるだろうが、儂がズヴァールハイムからの納品を調べっとった。すると
んで、なんと光りが消えた跡には、こいつがあの馬糞臭い大通りに倒れておった!」
「おおお――!」
「まあ、あの馬糞だらけの道に寝とったんじゃ。まさに空から落ちてきた
「ワハハハハハッ!」
「なんだと、この野郎!」
若者が怒り出し、ガラルグを殴ろうとしたが、彼はこともなげにジョッキを掲げて避け、ニヤニヤしながら謝った。
「わあ! すまんすまん。そう怒るなって。ワハハハハッ」
若者が顔を顰めながら座り直してジョッキを呷ると、ガラルグはまたしてもニヤっと笑い、
「ま、そういうわけで、おめえを助けて介抱してやったんだぜ!」
給仕の女にジョッキのお代わりを言いつけると、真面目な顔に変わった。
「それで、おめえはなにもんなんだ? このドロームボルグじゃあ見かけん
若者は食い千切った肉を飲み込みながら答えた。
「いや、その前にここが何処なのか。あんたらは誰なのか、俺に教えてもらえねぇか? 俺にはさっぱり分かんねぇんだ」
「ふーん。まあいいだろう。ここはな、儂らドワーフの国ハンデュリン七都市のひとつ。ドロームボルグよ。
ガラルグがジョッキで指した先にいた、姿かたちがそっくりの髭モジャ小男がジョッキを上げて答えた。
「儂ら兄弟は、このG&G工房のオーナーで筆頭親方。ドロームボルグ一番の腕前の鍛冶匠よ!」
「いえーい!!」
居並ぶ髭モジャ小男たちが歓声を上げた。それにガラルグは得意満面で両手で応えた。
「さあ、おめえの番だ!」
……うーんっと。えー、おれの名前はウィリアム・ヘンリー・ボニー。ニューヨーク生まれで西部育ちさ。
え、長い名前だって? そうかい。仲のいい奴はビリーって俺を呼ぶんだ。キッドってやつもいる。ほら、俺ってさ、ちょっと童顔だろ。だからよく絡まれたりしたんだぜ。
え? いったい、いくつ名前あるんだって。まあ好きに呼んでくれや。でもビリーでいいぜ。一番、その名前で呼ばれるからな。
いままで、いろいろやってきたもんさ。カウボーイもしたけど、牛泥棒に銀行強盗。殺しもしたぜ。悪党だな、おれって。
いやいや、ここで殺しなんてしてないさ。なに、街の外でなら、いくらでも殺し合いしても構わないだって。
やれやれ、なんてところだ。まったく
なに?
ああ、なんで、あんたのいったドロームボルグっていう、ここに落ちてきたかって? そいつは俺だってよく分からないんだ。あの朝、メシを喰いに部屋から出たところで、確かに撃たれて死んだはずなんだ。
え? 撃たれたら死ぬのかって。当たり前だろ!
撃たれるってどういうことだって?
はあ。
こうさ!
若者、ビリー”ザ・キッド”は、いきなり腰のガンベルトから銃を抜いて、天井めがけて引き金をひいた。
ズドォ――――ンッッ!!!
おいおい、そんな大騒ぎになるなんて……。
ごめんよ。
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