第2話
次に覚醒したのは、もう夕方、長い影が部屋に陰影を与え、若者は暗いベッドの上で気がついたのだ。
随分と身体の調子が良くなっていた。頭痛もない。強張っていた筋肉も、元のように何事もなく動いてくれる。若者は上半身を起こし、大きく深呼吸した。
撃たれた際の激痛は跡形もない。寝間着を着せてもらっていたことに、今更ながら気がついた。上着をたくし上げ、腹を直に見てみた。傷一つなかった。
キツネにつままれたような心持になりながら、若者は面をあげ、窓際のテーブルに置かれた銃へと眼を凝らした。
小さな唸り声を漏らしながら、若者は布団を除けてベッドから降りた。裸足をひんやりとした床につけたとき、しばらく動かしていなかった身体は、まるで木で作ったかのようにギシギシと鳴っている気がした。
歯軋りしながら若者は、ゆっくりとベッドを伝いながら歩いた。テーブルの傍らにきたとき、かなり体調は戻り、のろのろとしているが、しっかりと銃のグリップを掴むことができた。
ゆっくりとホルスターから銃を引き出し、目の前でどこにも変わりがないか確かめた。
コルトSAA、シングルアクションアーミー、四五口径。通称はピースメイカー。無法者やガンマン、農夫まで、西部でもっとも数多く使用された名銃だ。
若者は銃をホルスターに戻し、やや震える手で数十発の銃弾で重くなったガンベルトを腰に巻いた。
――そうだよ。
一番、心に落ち着くずっしりとした重さ。
そして、若者はゆっくりと銃を抜き、腰溜めに構える。そしてまたホルスターに戻す。今度はやや速い動作で銃を抜くと、腕を伸ばして壁に狙いをつけ、また素早くホルスターへ戻した。
どんどんと、ガンアクションの動きは速くなり、それとともに若者の口許に笑みが深くなって、終に哄笑した。
――そうとも、俺は死なない、誰も俺を殺せないんだぜ!
生き延びた歓喜。
ダンスを踊るように一回転して銃を抜くと、その先のドアが突然開いた。
「お、元気になったようだな。そんな筒で遊んでないで、はやく飯食いに来い!」
ガラガラ声でそう言ったのは、あの分厚い身体をした、ガラルグ親方と呼ばれていた小男だった。
よく見ると彼は、凄い髭面だ。
硬そうな黒い髭が胸元まで生えて、頭はスキンヘッド。毛むくじゃらの体毛にパンパンに筋肉で膨れ上がった身体。油と錆で汚れた革の前垂れをつけ、胸元を開け、草臥れて汗と汚れで斑に変色した、かっては白かっただろうシャツを着ていた。
炯炯と光って睨みつける黒い瞳は銃口から外さない。
――え? こいつ、銃を知らねぇのか?
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