第2話
興奮冷めやらぬ店内のざわめき。
しばらくして、キラキラしたステージ衣装を脱ぎ、落ち着いたドレスに着替えた女性歌手、サラは、また店内に現れた。
艶やかな小麦色の肌にステージ用に美しく結い上げた金色の髪、整った容貌に大きな青い瞳、彼女が浮かべる笑顔は、赤い唇から真っ白な歯がこぼれんばかりだった。紫色のクレープドレスに白い帯を締め、銀のネックレスが照明を受けて輝く。
彼女は席を回って知り合いに挨拶し、歌唱をほめそやす客に笑顔で礼をいった。そうして、ある席に至り、そこにいた客を見るとパッと顔を輝かせ、急いで横に座った。
近くを通る給仕にワインのグラスを持ってくるように頼むと、客の手を握った。
「ミランダ、いつ帰ってきたのよ! なんで家に来てくれなかったのよ!」
手を握られた女性客はにっこりと微笑んだ。
鳶色の巻き髪に緑の瞳。勝気そうな顔立ちは美しい。彼女はやや浅黒い肌に黒いドレスをきている。それは胸繰りが大きく、豊満な乳房がこぼれそうだった。
ミランダと呼ばれた女性は、艶やかな笑顔でグラスをチィンッと打ち合わせた。
「久しぶり、サラ。昨日帰って来たのよ。なんですぐ来ないかって言われても、くたくたで一日寝てたからね」
そして二人は長い、情熱的なキスを交わした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
月明かりのみが差し込む室内。
久しぶりに再会した後の情事。まだ汗が滲み火照った身体で抱き合い、二人は耳元で囁き合っていた。
「サラ・ミンデル。いい加減しなさいよ。あたし、昨日帰って来てくたくた、あぁんっ!」
大事なところを弄られたミランダが色っぽい嬌声を上げた。
「なに言ってんの、この薄情者め。手紙も残さないで、フラーっと消えた癖に」
「だめ、ダメって! いやぁ、あぁぁん!」
攻められ疲れ果てたミランダは、もうぐっすりとベッドで眠っている。裸のサラは、窓際のチェアに座り、胡坐を組んで黙々とグラスを傾けていた。窓の外にはエレドの街明かりが広がっていた。
「まったく、ちょっと
サラは、ミランダと出会った日を思い出しクスリと笑った。
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バー、エクソダスに出演するようになってしばらくの事。彼女の後見人であるジャヒードが、クルセニアからきた
すれ違えば誰もが振り返るような美女である彼女を一目見たサラは、なぜか、奇妙な警戒心を抱いたのだった。
とりあえずジャヒードを交え、三人で乾杯して飲みはじめた。
紹介された
「古代の神秘、この世の不思議を探すのが私の仕事。遺跡に潜ったり、ダンジョンを踏破したりね」
ジャヒードがグラスを傾け、
「ミランダは秘密の多い子じゃが、腕は一流だ。君も知っている、あの重装戦車を、
「ふふ。ジャヒード様。それをいってはダメよ」
ジャヒードは腕に置かれた彼女の手に手を重ね、深い溜め息をついた。
「まあ、そうだな」
ミランダは身体を乗り出し、彼の頬にキスすると、不意にサラを視線を送った。
「あなたにも秘密がありそうね」
ミランダはぐっと彼女に近寄った。
「ね、教えてくれない?」
微笑んだ彼女に、サラは魅せられると同時に少し怖れをいだいた。
ミランダの底の知れない何かが、サラの警戒心を呼び起こしたのだが、それ以上に彼女に惹かれた。
「もっと親しくなったら。ね」
サラは話しを逸らすようにグラスを傾ける。すると、ミランダは腕を掴んでサラを引き寄せた。
「なら、今からそうなるのよ」
そういってミランダはサラの唇にキスをした。
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サラは馴れ初めを思い出し、ベッドに横たわる愛人を眺めた。
「ふふっ。
サラ・ミンデル。十八歳。
彼女はハリウッドで成功することを夢見た歌手の卵だった。インディペンデンス系のレコード会社からオファーを受けたその日、仲間たちと酒を呑みドラッグを決めた瞬間、心臓発作を起こした。そして気がつくとこのアヴァタール世界に転移していたのだ。
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