第3話
強烈な太陽が、飛ぶもの走るもの、地を這うものすべてを焼き尽くす白い砂漠。
サラはゆっくりと意識を取り戻した。
契約を祝うパーティーで来ていた、白いヴィンテージTシャツとゆったりとしたブルージーンズ。そのままだった。
痛む頭を押さえ、ゆっくりと起き上がった。
「
周りを見渡した。
雲一つない青空から降り注ぐ強烈な光線。白く輝く砂丘がどこまでも続いていた。
「あれ、ここってどこなのよ? ネバダ?」
彼女はよろよろと立ち上がると、眼を焼く日差しを避けるため手をかざした。
「なんで砂漠なんかにいるの? アタシ、ロスにいたはずだけど……。パットやレイニーたち、どこ行っちゃったのよ」
一緒にバカ騒ぎしていたバンドのメンバーたちがいない。
金髪を激しく乱す熱風が肌に強く当たる。サラは耳元を掻き上げ、風以外なにか物音でもしないかと耳を澄ました。
彼女の聴覚は人より優れている。非常に小さな音まで聞こえ、調子が良いと壁の向こうの話し声まで鮮明に聞こえる時がある。まだ幼い頃、街を流れる小さな物音を聞きつけ、母親にメロディを告げると絶対音感だと言われたこともあった。
連なった砂丘の向こうから、なにやら金属のぶつかり合う音と群衆の喚き散らす声が、風に乗って聞こえた。
急いで砂丘を駆け上がると、その向こうには想像してもいなかった光景が広がっていた。
「なにこれ!」
思いもかけないことに絶句した。
目の前に広がるのは広大な砂の平原。
大勢の人が土煙りを上げて、耳に響く大音声をあげて戦っているようだった。戦っていると思ったのは、銃ではなく、剣や槍に楯といった旧式なものを振り回してぶつけ合っていた。よく見ると全員がキラキラと輝く甲冑を着込んでいた。
「なんかの映画撮影? そんな作品が進行してるなんて聞いてないけど……」
サラはハリウッドの映画関係者である友人を思い出す。週末、いきつけのバーで会うと、カウンターに座って業界話をあれこれする仲だ。
これだけ大掛かりなら、絶対に話に出るはずなのに。
見たところエキストラの人数は1万人を越えている。それ以上いるようだが、サラには数えきれない。
遠くからでは細部は分からないが、かなり迫真の演出だ。
陽の光に反射する甲冑をつけ、隊列を組んだ兵士たちがぶつかり合い、血飛沫を上げ、絶叫を上げ倒れ込んでいた。後続する兵士の群れは、その倒れたエキストラを踏んで前進していた。
「マジで……。めっちゃリアルじゃん。でもちょっとやり過ぎじゃな、キャッ!」
いきなり巨大な火球が飛来し、兵士たちの中に落下した。
「うそ……」
サラは思わず口を手で覆った。
落ちた火球は物凄い勢いで燃え盛った。
火に包まれた大勢のエキストラ、いや兵士が火を消そうと走りだした。彼らはしきりと地面を転げまわって暴れていたが、やがてピクリとも動かなくなった。
「うそでしょ……。死んだの?」
サラは思わず二,三歩よろよろと後退った。
火球を浴びせかけた兵士たちの側が、倒れ込んだものに群がり、剣や槍で止めを刺している光景に血の気が引いた。
「マジの戦争……なの?……」
腰を抜かせて座り込んだサラが見ている間にも、次々と火球が現れ、潰走し始めた兵士の隊列に落ちていく。それだけでなく、前列の兵士が真っ二つになり始めた。まるで見えない刃に斬られているようだ。
そのとき、轟音とともに、逃げかけていた兵士たちの後方から、異様な姿の物体が現れた。
「なにあれ!?」
サラが思わず強く手を握って見ると、轟音を響かせたそれは攻めていた兵士の隊列に突っ込んだ。
全体が平たい流線形。水滴型のボディをした八輪走行車で、真っ黒な外殻をしている。薄い板をくっ付けて円筒状にした大きな車輪が剥き出しで高速回転し、恐ろしいことにその中央から、ギザギザの鋭い刃がついた槍の穂先のような形のものが、横に突き出し一緒に回転していた。その鋭い穂先にぶつかった兵士たちは細切れの肉塊と化し、弾け飛んでいた。
車体の先端にも鋭い尖った刃が並び、逃げ遅れた兵士をずたずたに引き裂いた。その車体は兵士たちの中を縦横無尽に走り回り、細切れの肉塊になった兵士たちを何度も車輪で踏みつぶされた。
「グロッ! マジだわこれ! おぇぇ、気持ち悪い」
思わず、サラは胃の中のものを吐きだしてしまった。
聞きたくない悲鳴や断末魔の叫びが耳に入る。荒い呼吸で両手をついたサラは、見たくはないが、また虐殺の場に眼をやった。
敗色が濃厚になった側から、いくつか火球が出現し、戦場を駆けまわって殺戮を繰り広げる車体へと落下するが、車体はなんともない。むしろ火球がその近くで跳ね返り、自軍の兵士たちの上へと落ちて、さらに被害が増えていくのだった。
サラが見たこともない戦場の惨状に眼を奪われていると、いきなり背後から厳しい誰何の声がかけられた。
「女! こんな場所でなにをしている!」
あっと振り返ると、そこには馬に乗って武装した男が二人、馬上から彼女を見下ろしていた。
「え! えっと、あたし……」
咄嗟のことに頭を回らず、立ち上がったサラはおろおろとした。
男たちは馬上から殺気の籠った眼で彼女を睨んでいる。
「面妖な光りの柱があった故、偵察にきてみたら。貴様! 見たところ、その風体、カッシーナの者でもアルゴスの者でもないな。どこから来た。どこぞの間諜か?」
一人が腰からギラリと剣を抜き、彼女に突きだした。
サラは恐怖のあまり、またぺたんと座り込み、知らず知らず失禁していた。
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