第4章 砂漠の歌姫 第1話
黄昏がすぎると、昼間の炎暑が収まり、逆に肌寒く感じ始める宵闇。
とある横丁に、陽に焼かれ古びた煉瓦造りの壁にぶら下がった、エクソダスと黒い字で書かれた看板がある。その下、鉄の板で補強された厚い木の扉から哀愁を帯びたメロディに乗り、艶やかで力強い歌声が聞こえてくる。
ここは夜の騒めきが絶えないカッシーナ神教国の都エレド。
カッシーナ神教国は、
エレドは、海からやや北、内陸に64リーグ(※80キロ)入った都市だ。
遥か遠くの
乾燥した気候でありながらも、豊かな水脈の上に築かれた都市は住民の他に、他国から流れ着く異国人や交易のために来訪する商人を加えると多くの人々が居住している。
裕福な商人たちによって商業が営まれ、神教に奉仕する聖職者よりも、俗世の人間が多い。夜には酒を提供する店も多く、このエクソダスもバーであり、レストランでもある店だった。
エレドにたくさんある数あるバーの中で、エクソダスが今晩一際盛り上がっているのは、店内の中心に設えられたステージで熱唱する女性にあった。
やや仄暗いステージ上で、スツールに浅く腰掛け、煌めくスポットライトを浴びた女。
マイクも持っていない、大きくもない彼女の歌声は、不思議なことに店内の隅々、調理中の喧噪で大騒ぎしている厨房にまで届いていた。
彼女が紡ぎ出した歌い出しは、よく聞きとれないほどに
If…… I ……、should stay
I would only be in、 your way
So I'll go
But I know
I'll think of you every step of、 the way
一転、徐々に高くなる、ややハスキーだが甘い歌声。
and I――a will always love you ――
Will always love youuuuu――――
You――, my darling, you――
woooo――
Bitter sweet, memories
That is all I'm talking with me
So goodbye, Please don't cry
We both Know I'm noWhat you need――
And!Iiiii――, will always love you ――――
Will――always―― love―― you――――
rururuuuu――
哀しみを誘う歌声に、伴奏のサックスの悲しくも切ない響きがかぶさった。魂を揺さぶる彼女の歌声は、それを圧倒して店内の観客たちの琴線を鷲掴みにした。
I hope、 life treat you kind
And I hope、 you have all you ever dreamed of
And I wish you joy! and hapiness
But above all this I wish you love――...............
Andahhhhh――, I―――――――――― !
Will always love youuu――!
I will always love youuu――Ahhhh――!
I will alwas love you……
I will alwas love you……
I will alwas―― love you――
I will alwas love you――
I will alwas ――love you――
A'll always, I'll always love――
you――……
you ――――……
you――――――………………
You――, my darling, you――
I will alwas love you……………………
歌声が余韻を残し、静かに消えていく。
スポットライトも徐々に暗くなり、歌の終わりとステージ上は闇に包まれた。
押し黙ったままの観客。
だが、一人が割れんばかりの拍手を始めると、一斉に嵐のように拍手が続き、またステージ上が明るくなった。
歌い終わった女性は、華やかな笑みを浮かべ、スツールから立ち上がった。彼女は観客に向かって深く一礼した。
「ありがとうございます。この歌はわたしが大好きな女性歌手の歌です。彼女は若くして亡くなりましたが、この曲は、世代を越えて多くの皆様に愛されています。このエレドの都でも、そうなると嬉しいなと思っていますぅー」
「サラーー!!」
観客が呼ぶ声に手を振って応えながら、彼女は舞台袖の幕へと消えた。
舞台袖でエクソダスのオーナー、ジャヒードが拍手をして彼女を出迎えた。
「サラ、今夜もやっぱり最高だったぞ」
サラと呼ばれた美しい歌手は、艶やかな笑顔で応えた。
「シャヒード、ありがとう。今日は咽喉の調子が良かったのよ」
白い髭を蓄えた背の高い老人、ジャヒード。
彼は、白い寛衣の袖から両手を広げて、彼女を抱擁した。
「君とエル・シャバ・ルフの戦場で出会って、歌声を聞いた時、わしがこの子だ!と思ったのは間違いじゃなかったよ」
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