第11話



 日が暮れて、アレンはコナーと郎党たちとともに帰って来た。ラグナルとシグルーン、グンナル、それに彼の家来たちも一緒だ。

 屋敷は晩餐の準備で大騒ぎになった。

 ナンナは予定にない人数を見ても、平然として支度を命じ、ワレンチナもニコニコしながら手伝う。アイザックの商品、宝飾品を見せてもらって、ナンナの許可のもと、注文できたからだ。

 従僕たちが、どっかりと座ったコナーやグンナルに酌をしてまわり、女性奴隷たちが料理をどんどん運んできた。


「先陣はハイムダルと決まった」

 コナーが苦々しげに吐き出す。グンナルも頷く。

「エリックの件は代わりに不問になったんだろ。それでいいじゃねえか」

 ラグナルが旅装のまま、鹿肉の丸焼きを盛んに千切って口に運ぶ。シグルーンとワレンチナは、アイザックに注文した品物の話しに夢中だ。

 ナンナはそれには加わらず、エールを飲みながら、男たちの話しに口を挟んだ。

「それで、我が家は? 出陣の日は?」

 コナーはエールを呷ると、髭を拭い、

「我らはブラグストン家と陣を組み、二番右翼陣だ。出立は明後日、大禁壁グレートウォールを越えて陣を張るぞ」

「そう。ならすぐに兵糧の手配をしなけりゃね。ボルグ!」

 ナンナの呼び声に従僕の老人はすぐに側に現れ、手配を言いつけられると、一礼して姿を消した。

「それに郎党たちの戦支度ね。アレン、十五歳以上のものの装備を用意しなさい」

「わかった、母さん」

「で、コナー、あなたは?」

「オレは一足先に東渓谷に様子を見に行く」

「抜け駆けするの?」

「するか! 様子を見に行くだけだ!」

 ナンナは怪しそうな眼つきでコナーとグンナルを見比べた。

「どうだかねー。たぶん、そう思っている当主たちだらけじゃないかねぇ?」

 コナーは渋い顔に変わった。

「とにかく、タイタンどもの様子が分からぬままじゃ、準備のしようがないからな」

「ふーん。でもやっぱり駄目よ。あなた、明後日に軍勢を率いていきなさい。でないと、ハイムダルがまた難癖付けるんだからね」

「ぐっ」

「ラグナルからあいつらの様子を聞いて、準備しなさい。たぶん、縄や網の絡み物がいるわ。あいつらはちょっとやそっとで足を止めないからね」

「分かった。用意しよう」

 コナーは不満そうだったが、ナンナに口答えできるはずもなく、不承不承頷いていた。

 

「母さんは戦乙女ワルキューレの長姉だった時、ニヴェリッサル族やヨツン族と闘って負けたことがないんだ。不落の乙女って仇名されてたくらいさ。親父じゃ頭が上がらねぇ」

 アレンがこっそりアイザックに耳打ちする。

「軍略が優れ過ぎて、民会で意見を言い出すと親父どもも耳をかたむけるんだぜ」

 ラグナルも横から教えてくれた。


「そうなんですか。奥方様って凄い方だったんですね。それで、来襲したタイタンって、どんなモンスターなんですか?」

 アイザックがずっと持っていた疑問を訊ねた。


「やつらは、大禁壁グレートウォールを越えた東に広がる大氷原の向こう、腐蝕魔境から来るらしい巨人どもだ。おれたちが数人掛かりでないと殺せない頑丈さと、一撃で吹っ飛ばされる馬鹿力の持ち主で、悍ましいことにヒトを喰うんだ」

「そんな化け物なんですか。食屍鬼グールみたいな魔物かな?」

「いつもなら数体がフラフラと現れるくらいなんだが、今回は違うようだ。大戦さになるな」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 




 二日後、軍装を整えたアスガルドの戦士たちは、甲冑を鳴らし、担いだ武器を煌めかせて出立した。従者たちは、大型兵器を軍馬に挽かせ、輜重の馬車列を続々と作っている。先頭は大きな槍を担いでいるハイムダルだった。その後方には、アレンたちがいた。そして何故か騾馬に乗ったアイザックが従っている。

 彼は無理を言って、従軍を願い出た。アスガルドの戦士たちの戦い振りを見てみたかったのだ。アレンは必ず後方にいて危なくなったらすぐに逃げろと言い含めた。


 彼らは歓声の中、アイガーの街を降りて、アスガルドの野原を行進し、東のクレーター壁を越えた。

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