第7話



 アレンは甲冑師の店で、ようやく鎧の修理代を支払い、安心して店をでた。思ったよりも短く済み、彼はすこし躊躇ったが、ハルトマンの店と違う行き先に向かった。



 曲がりくねった道の途中、知り合いや馴染みと会う度に挨拶しながら辿り着いたのは、大きな建物だった。

 両開きの扉を開けて入ると、そこは剥き出しの梁が組まれた天井に砂を敷き詰めたグランドだった。数人の男女がいて、それぞれ武器を手に取り、戦闘の稽古をしていた。ここは鍛錬場。アスガルドの武者たちが戦闘技術を磨く場所だ。

 一組の男女が、アレンに気がつき、手を振ってきた。アレンも手を振り返し、彼らに近づいた。

 

「よう、アレン。来たな」

 男性の方は、金髪の乱れた髪に、青い眼でやや皮肉っぽい表情の顔。上半身裸の巨躯の逞しさはアレンに匹敵する。彼は大剣を肩に担ぎ、がっしりと握手した。

「ラグナル。お前、鷹の眼ホークアイにくっついて、大禁壁グレートウォールの向こうに行くらしいな」

 ラグナルと呼ばれた男は、大きく頷いた。

「そうさ。斥候隊はわが家と鷹の眼ホークアイの弟子たちだ」

「ふん。今年は雪が深い。迷わんようにしろよ」

「へへッ。迷うわけないだろう。鷹の眼ホークアイが率いるんだからな」

「どうだか。お前はすぐ離れてウロチョロしたがるからな」

「いうじゃねぇか。ちょうどいい。この前の勝負の続きをするか」

 

 そこへ、傍らにいた女性が、アレンに飛びつき、その首に手を回した。

「もー。アレン、バカ兄貴はどうでもいい! まずはあたしに挨拶のキスでしょ。婚約者なんだからぁ」

 女性は、1ルーデ半(※役2.0m)の長身。ラグナルと同じく金色の、腰まで届く長い髪を織り込んで、白い寛衣を着ている。眉のきりっとした明るい表情の美人で、大きな胸に引き締まった腰つきの身体は細身ながら強靭そうだ。金糸織の青い革帯には長い、すこし湾曲した片刃の長刀を下げている。

 

 アレンは苦笑いした。

「ワーリャ。お前、戦乙女ワルキューレの集会、すっぽかしていいのか? 母さんも顔出すっていってたぞ」

「え? ナンナ母さんも!」

「そうだ。早く行った方がいいぞ」

「いっけなぁーい!」

 ワーリャ、ワレンチナは慌てて鍛錬場を飛び出していった。

 

「はっ、まったく馬鹿な妹だぜ。それでお前の聞きたいのはエリックのことだろ?」

 ラグナルは肩を竦めると、本題を言った。

「どうしてる?」

 アレンはさりげない素振りで、練習用の木剣を触る振りをして聞いた。

「大丈夫さ。ヤムナルの滝小屋に、衛士たちに守らせて送ったからな。あそこはわが家の隠れ家だ。誰にも知られてはいないさ」

「気を遣ってもらって、すまないな」

「いいってことよ。エリックはおれにとっても弟みたいなもんだからな。それに、ランゴバルドがエリックの出生を揶揄って、相手にしないエリックに返り討ちにされた。恥ずかしい話しさ。ま、エリックも片眼を失ったから、おあいこじゃねぇの」

「ハイムダルはそう思ってないからな」

「ちっ、あのオッサン」

「親父が民会でカタをつけるそうだ。どっちにしろ、ハイムダルのアイスハウンド家とやり合うの避けられんだろうな」


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