葬式から帰る途中、奇妙な東京タワーを見た。

お題

葬式から帰る途中、奇妙な東京タワーを見た。


提供: http://shindanmaker.com/508107


-----


雪がどんどんと積もる中、車の往来も難航し葬式の時間は随分とずれこんで気がつけば終電も無い真夜中。葬式から帰る途中、奇妙な東京タワーを見た。

最初は葬式で目が疲れているのかと思った。が、しかし東京タワーの先端がスモックで見えない。


東京タワーがいくら高いといってもこんな遠目からライトアップされているはずのタワーの先が見えないということは普通ありえない。私は吸い込まれるように東京タワーを目指して歩いていった。根元に来ると人っ子一人居ない。休みであるはずなのにだ。普段ならアベックなどでひしめき合っている。


東京でこの雪ではさすがに人の往来も無くなるのかと私は苦笑しながらしばしどうするかを考えた。どうせどこかで泊まらなくてはならない。


スカイツリーの対抗策として24時間営業を打ち出し、ライトアップに力を入れ、タワー内にホテルのテナントを入れたのはごく最近のことだった。誰も休みにいないというのは奇妙な話だ。ともかくも空いてるならここで泊まるのも悪くない。私は東京タワーの内部に足を踏み入れた。 ライトアップに邪魔にならないように薄青い暗めの光。


中にも人は居なかった。一瞬の不気味さを覚える。それでも私はホテルに向かうことにした。誰も居ないならただで泊まってやる。少しここまでくると開き直りがでた。だがエレベーターが動くか?東京タワーを歩いて上るなんてごめんだぞ。思いながら一つ目のエレベーターを見つける。エレベーターは動いた。


標識を見てホテルの階を押そうとしてふと思い立って最上階の展望台を目指した。思った通り以上の光景があった。なんと空どころでなく宇宙が広がっていたのだ。私はなんとなく宇宙の光景を見た。散々望遠鏡をただみしてからふと気付く。今度はこの奇妙な東京タワーから出られるだろうか?


私はホテルを後回しにして外へ出れるか最下階まで急いだ。そして予測通り外に出ることはできなかったのだ。私は仕方なく外へでるのを諦め体を休める事にしてホテルの階に行き適当な部屋で休んだ。こんな時にふっとおかしくなった。誰も居ないのだ。最高クラスの部屋で休めばいいのに自分が普段から頼むであろう部屋でくつろいでる。そして眠りに付いた。


夢の中なのだろう。さかえ…葬式に出た私の彼女が私を呼ぶ。目を覚まして連れて行かれるまま付いていった。そこはただの壁だったけれど彼女は通り過ぎてしまう。幽霊なのだから当たり前か。そう思いながら彼女の通り過ぎた壁を触る。ぐにゃりとした感触とともに手は壁に沈み込んだ。一瞬戸惑いながらも壁をすり抜けることにした。出たのは喧騒とする前の駅…さかえの死んだ場所だった。


誰かに殺された。細い棒のような物で背中を強く押されてうっ血していた。電車が来て助けるまもなく死んだという。即死がせめてもの救いだろう。何故?この駅に連れて来た?思い出したくなくても思わずにはいられない昨日葬式したばかりだ。


だが私は駅をでて街に戻れた事を知った。人が往来する。日はのぼり遠くに見える東京タワーはちゃんと先端まで見えていた。

「さようなら」

頭の中で声が響くとさかえが光に向って昇っていくのが見えた。


何のための体験か私にはわからないがさかえに助けられたらしい。私はいつまでもまぶしい太陽を見上げていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る