私の中には深い深い闇がある

この手を真っ赤に染め上げて

生きてきた

人と1歩距離をおくことに慣れた

笑いながら

剣を振り下ろせる

狂気じみてると自分でも思う

そんな深い深い闇


「ふーっ。疲れたわね」

ドサッとソファにもたれかかる

硬めのソファは私の体重をなんなく支えた

メールを打つ

『何してる?』

程なく返って来る

『まんが読んでたー。電話かけていい?』

『いいよ』

ルルルル

「こんばんわ。今日は楽しかった?」

「うん。今日も楽しかったよ。あのねあのね漫画の事お話しするね」

「うん」

「だからこんな風に発展しちゃって3角関係になっちゃうのかなぁ」

「それは次回のお楽しみでしょう?」

「そんなんだけど、そわそわしちゃって時間進まないかなー」

「時間だけ過ぎても人は何も出来ないわよ

むしろ時間が止まった方が多くの事ができないかな?」

「時間が止まる?カチンコチンのお人形さんに人はならない?」

「あは、なるかもね。所詮生き物は時間に縛られてるし」

「生き物じゃないものは?」

「よく風化するとか言うよね。やっぱり時間に縛られてるかも」

「そっかー。あーママがお風呂入りなさいって。切るねー」

「うん。おやすみ」


たわいもない電話

やりとりしているのは義理の妹だ

母親が違う

父が母の本当の姿を知って逃げ出してから

付き合い始めた女性の間にできた

ごく平凡を通り越して親子2代でどこか天然ボケしている子


あまりにも真逆で

最初は毛がさかのぼる感じがした

必死な面持ちで私の手を掴んだ妹

どうして私の存在を知ってるのか

父親が話すわけがない

でもどこからか漏れたのだろう

まだ小6の少女の腕は高校を卒業した私の腕を掴んで

迷わず懐に飛び込んできた

そのまま押し倒されて怪我のないように支えるので精一杯だった


まわりのざわめき

人と交わらない私には衝撃な出来事

それは周囲にもかわらない

真っ直ぐなまなざしは

暗く暗く沈んでいた私の瞳にまぶしすぎた


家に送っていく

もう会いに来るなと言った

悲しげな瞳

恐怖におびえた父親の顔

「何もしない。送り届けただけ。今日は

近寄らせないで傷つきたくなければ」

「メールと電話だけ。それならいいでしょう?おねえちゃん!!」

「ふーっ。いつも返事が返せるとは思わないでよ

結構忙しいの私は貴方の事を構ってはあげられない

わかった?」

どこか悲しそうな顔。涙さへ浮かべてそれでも教えてと言った


高校生になる頃から母の後を継いだ

その頃には母はいなかった

だが人脈は残っていた

「親子2代で殺し屋とは因果だな」

「どういたしまして。そんな生き方くらいしか思いつかないのでね」

「普通に就職すればいい。体を鍛える必要も武器の鍛錬する必要もない」

「それでも私は選んだわ。需要がなければ辞める。軍隊にでも入るわ」

「いや、人材は喉から手が出るほど欲しいさ。後悔しないかい?」

「後悔ならもうしてる腕を磨いてる地点で…ね」


母は幼い頃から私を鍛えた

母が人を殺してると聞いても感慨もなかった

知っていた

何故鍛えられてるかも

剣に銃、素手での戦闘なにもかもが合致していた

母が深い深い闇の中で見つけた光が父だったのだろう

去ってもなにも言わなかった探しさへもしなかった


「パパは?」

幼い頃に一度だけ発したことがある

ママは笑って「私が悪いの。貴方も悩まないで

これから先私は貴方の闇になるそれは私の物

貴方まで沈まなくてもいいの

だけど私は貴方を引きずり込むわ。許してね」

意味のわからない言葉と同時に鍛錬は行われ始めた

私は一度とて否とは言わなかった

その意味を知ってなお


私は深い深い闇に居る

何故闇に手を差し入れたかは私にもわからない

母が恋しかったか母が成し遂げなかったことをしたかったか

私は人が思うほど達観した人間じゃない

人の悲鳴が流れ出す血を見るほどに沈んでいく自分を感じていた

それでも止めなかったのは

誰かがやるだろうという思いだった

誰かがやるなら自分が殺せばいい

そんな思いだった

少なくとも苦しまずに殺せれるそんな事実だった


ある日脅迫じみたメールが届いた

『妹を助けたければ命を差し出せ』

同封に住所と写真が2枚入ってた

一つは建物、一つは妹の写真

封筒の印字にダークウェーブと印字されている

ちょっとした殺戮団組織だ

面倒な…助けないわけにはいかないが…

ありったけの銃を体に装着し1本の剣を背負う

マシンガン1丁以外は全て単銃だ

距離のある相手を撃つにはどうしても必要になる

私は人の寝静まる深夜、一人ででかける

あわよくば見張りをたててるだけで警戒を解いてくれてれば楽だ

だがその期待はすぐに敗れる

私の耳はすこぶるいい深夜に響く銃声を聞き逃したりはしない

間一髪で避けて相手を撃つ感触はある

さすがにうめき声までは聞こえないが声ひとつ発せずに死んだろう

狙い違わなければ額に1発食らっているはずだ

そして空になった銃を捨てる

そんなこと繰り返して5人ほど倒しただろうか

建物に着く

今度はこちらの番距離もそうないし死角を探して相手を倒していく

銃の音がして集まったところにマシンガン

ぶれるので女には使いにくい品物だが伊達に鍛えてはいない

集まった人影が消えるとまた単銃に切り替える

身軽になるために全部使い捨てだ

銃がなくなると剣で弾をさえぎっていく

近づくと向こうも切りかかってくるが

あわてることもないほとんどを首を切るか心臓を一突きにして倒していく

雑作もない。思わず笑みが出る闇の笑み

ここまでしてなお欲しがるのか?私を?

もとより妹は餌だ

殺せるはずもない

死ねとは書かれてなかった。命をさしだせと書かれていた

求めているのだダークウェーブの傘下に入れと

ならば妹はころされない。私もころされはしない。

屋上で待たれたら厄介だと思ったが

奇遇に終わった

一つの部屋で泣き声がする

よく知った声

私の光


入ると同時に銃の弾が飛んでくるが剣で交わし

そのまま突っ込む

ミスリルを材料に鍛えられたその剣は特注品だ

何発の弾を受けてなお折れない

何人切っても刃こぼれもしない上等品だ

その剣は雑作もなく妹に向けられた短剣を持った手を切り落とす

手の位置はそのままに私に握られ

男は転げまわる。血しぶきが妹の顔を真っ赤に染め上げる

「手首一つですんだのよ。ありがたいと思いなさい」

「他は全滅しましたって私はダークウェーブの傘下には入らない」

片手首を切られた男はしばらく転げまわっていたが

痛みに慣れてきたのか上着で止血して逃げていった


「ふーっ。」上着を脱いで中のTシャツも脱ぐ

上着を着てTシャッで妹の顔を拭う

さっきまで泣いていた妹は血を受けてほうけてしまい唖然としていて

拭い終わるまで沈黙が続いた

「私がどんな人間か解ったでしょう?

もうメールも電話もかけてきちゃ駄目よ?」

震えている自然の事だろう

漫画のなかでさへ血をみるのはあまり好きじゃないといってた妹が

自分の顔に血が降り注いだのだ


抱き上げ車まで連れて行く

自室に入りシャワーを浴びさせる

親に電話して連れて行く

父の平手打ちを甘んじて受ける

これが握りこぶしでも変らないだろう

私は立っていられるそれだけの身体能力はあるつもりだ

そうして私は黙って去るつもりだった


服の裾をひっぱり「なんで?」と妹が言う

私は困りながらも笑みを浮かべた

「そういう商売があるのを知っていたから…

死を等しく望みこそすれば…この世は不条理だから」

「なんでおねいちゃんがなの?」

「…そうね。巻き込んでしまったけれども

願わくば貴方のような子が何も知らずに生きていてほしいからかな

切り捨ててなお余りある世界だからこの世はね…

ごめんなさい

私の中に狂気がある人を殺してまだ沈められないほどの

殺人鬼になるくらいなら殺戮者でありたいと思った

そんなところかしら。さようなら永久にもう来ちゃ駄目よ」


私はマンションと携帯を至急に変えた

生活は変らない

私の中には深い深い闇がある

そこにはすくい出してはならない私の狂気が沈んでる

私は笑って人が殺せるそんな人間なのだ

光など求めてはいない、いけない存在

それでも今日も私を待っている客が居る

私は今日も深い深い闇の中で剣を振るい続けるのだろう


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