シャボン玉

子供が庭先でシャボン玉を作っている

父親に大きなシャボン玉をつくってもらい

よろこびまくりながら

自分でもふぅふぅする


「こんにちはー今日はお休みですか?」

「いやちょっと用事があって1日休んじゃった」

「たまには生き抜きもしないとですものね」

そう言ってとおりすぎる


「こんにちは」

「おや里子ちゃん。おかえりー」

「こんにちは」

「こんにちは」

「こんにちは」

「おや里子ちゃん早いね」

「文化祭おわったから文化部は暇なんです」

「こんにちは」

「さとこちゃんおかえりー」


ふーっ建売住宅の住宅街

田舎ではあいさつは当たり前

面どくさいをとおりこしうざい

そんな本心とは裏腹ににこにこ顔

私もよくやるもんだ

だてに内申がいいわけじゃない


今だけだ自転車が治ったら

挨拶する必要のない速さで通り抜ける


部活実は行ってきた

人のいない部室

創作部はまん研や小説部におされ気味

なによりこのやる気の無さ

まぁいいけど…帰ろう


帰りに軽音の前を通る

ビィーンと外でエレキギターを弾いている

線はつながってないから普通のギターと

さほど変らない。根本の質は違うが

「あきらさん。こんにちは」

「おや作り顔の里子ちゃん。こんにちは」

思わずすねを蹴る

「いてー。ほんとのことじゃん」

「せめて社交術と言ってよね」

「1曲弾いてよ」

「いーぜ」

流行の曲が流れている。たしかベストテンで

3位入りした曲だタイトルはーあー忘れてる


「後1ヶ月かぁ」

「そう一ヶ月で転校」

「寂しがってくれる?」

「どうかなー」などといいながら髪をくるくるさせていると

うしろからがしとわしづかみ

耳元で

「すきだよ」

さすがに顔が真っ赤になっていく

「1カ月だけだよ」

「うん」


帰ってからベットの上で

「今帰ったよ」とメールを打つ

「はえー」と返事がきた

「俺まだ弾いてる」再度ながれてくる

「あきらさんの音好きだよ」打ち返す

「学内コンサート来いよな」

「もちろん行くって」

うちの学校では学内コンサートが

偶数月に行われる

軽音はいつも文化祭の後

こればかしは文句言っても仕方ない


学内コンサートが終ると

あきらさん…さんづけはやめろと言ってたな

部活を始終休むようになった

私を引きずってあっちこっちを周る

いつも自転車で通り過ぎるだけの町並み

クレープ屋さんがあったのも公園があったのも知らない

「んー気持ちいい。海ってこんなに近かったんだ」

「きほんがくそまじめだから里子は」

「だって成績落ちてなにか言われるのも嫌だし」

「ほら、親の顔までうかがってる」

「う…だって」

「背伸びしろ」

「いいから背伸び」

といってあきらもせのびする

そのままぐるんとまわって元のしせいにもどる

ちょ、このぐるんって難しいのですが…

あきらが手をつかんで誘導するできた

あきらがいなければ学生ばかりの喫茶も

どでかい本屋もあることを知らずに過ごしたろう

その日私たちはファーストキスを交わした


それから2週間ほど好き勝手に遊んでた

私たちは期末があることを忘れてた

まぁまぁそれでも平均以上はとれたろう

あきらは?

「俺もともと勉強駄目だぜ」

あっさり言う

暇さへあればこれだからなとギターを指す

そっか家でもひいてるんだろうな


そして引越しの日

私は住所を書いた紙とありがとうとかいた紙がはいった

封筒を渡した

携帯へのメールも入れたが返事が来ない

本当に1ヶ月だけの恋だったんだなと思う

あきらからギターを引き離したひと月は奇跡だったろう


それから1年1通のメールあきらからの!

「俺プロになる。いい夢ありがとうな」

返事を急ぎ書くが返事は返ってこなかった

それからギターの引き手として

とあるバンドにあきらはでるようになった

スカイウォーカー

たしかそんな名前のバンドだ


「がんばったね」

その一言で私もメールを送らなくなった

バンドの人たちの迷惑になっても困る

恋よりもだいじなものを選んだんだあきらは


月日はたつ

高校卒業して私は大学にいくことにした

その頃にはあきらは一流になってた


「母さん洗剤すこしもらうね」

「いいけど何につかうんだい?」

「しゃぼんだま」

「ふーっと吹くとシャボン玉ができる

ベランダから少しの間吹き続けた


泣くに泣いた日もある

でもこれでよかったんだよね

シャボン玉を吹きながら

私の初恋は終った

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