二人の傷

私はその日、ペットのまろうが死んで昼休み人気が無いだろう武道館の荷物小屋の後ろで泣きに泣いていた。そしたら人が来た。二メートルはありそうな大柄な男の人でかっこいいのに無愛想な機嫌の悪そうな顔を隠しもせず高い位置から私を見下ろす。


ポケットから意外に神経質なのかアイロンまでかけられたハンカチがとりだされ、しゃがみこんで私をマジマジと見ると黙ってハンカチをつき出す。たぶん貸してくれるといっているのかな?私も黙って受け取り涙を拭いた。


彼は隣に座ると売店のパンを取り出しかぶりついた。それはもう豪快に六回ほどかぶりつくとパンは一つなくなった。意外にも食事はそれだけでセメントの上に寝転がると昼寝を始めてしまった。泣いていた事も忘れて私は彼をあっけに取られて見ていた。




次の日、いや昨日の昼からずっと私があの場所で泣いていることを彼は何故知っていたのだろうと悩んでみたが答えが出ない。昼休み昨日は断りもせずに昼休みを一人にしてしまった友人の好美に相談してみるとあっさりと言われた


「だれもいないは千代(ちよ)の思い込みで彼は元々そこを使ってたんじゃないの?」

「あ!そっか。さすが好美(よしみ)。頭の回転が違う。そうだよね、それが自然だ。明日から通ってみていい?好美ひとりにしちゃうけど…」


「構わないわよ。来ないとわかってれば賢治のところに行ってるから」

「賢治って?」

「素柄賢治、代表挨拶してたでしょう」

「首席と次席が知り合いなの?」


「幼馴染の恋人同士よ。もう行く大学まで決めて一緒に勉強してるわ」

「ほへーっ、それで放課後はいないのか。勉強もほどほどにね」

「どうして?学と教養は身につけて損は無いわよ?」


「疲れない?遊びたいとか友達と騒ぎたいとか」

「思わないわね。物心ついたときには賢治と勉強に明け暮れてたし恋ならしてる。貴方も頑張りなさい」


「へっ?ちゃうちゃう。ちょっと気になるだけ。好美と一緒。無愛想だったのが気になるのよね。でもでかいし怖そうな人だし適当に切り上げるかも」

「千代もおせっかいねぇ。おかげで私はクラスに馴染めたけど、ほどほどにね」




「いたいた。好美の言うとおりだ。この前はごめんなさい。ここなら誰もいないかなと思ったけど。貴方の場所だったのね。私は木野千代、1年B組普通進学科に今年入ったの。貴方は誰?年上だよね?同学年?背高いよね何センチ?」


「うるせえ」

そう言うと寝転んでしまう。


「じゃあ、寝物語に聞いて。私ねおとついペットのまろうが死んだの。私が生まれる日に父が貰ってきた犬。だから老衰ね。まろうは賢くてね、私が蛇に脅えてると追い払ってくれて私が泣いてるといつまでも側にいてくれた。昨日ね母がお骨にしてくれたから今度の休みにお墓行くつもり」


後は黙っていた。本当に寝ているのかな?気になって覆いかぶさり心臓の音なんか聞いてみてみる。彼は真っ赤になって私を押しやりため息をついた。

「なに無防備なことしてる。俺は男だぞ」


「そんなこと見ればわかるけど無防備って?心臓の音を聞いただけよ。寝てるならとっても静かに鳴り響くものだもの。乱れてると思ったら、やっぱりおきてた。はい。ハンカチ。ありがとうございました」


「あ、おう。頼むから知らない男の心臓の音なんか聞くな」

「なんかまずかった?」

「……怖くないのか?俺は大きいし怖い顔をいつもしている」

「そうね。とても怖いわ。笑えばいいのに。きっと笑顔は素敵よ」


私はそういうとにっこり笑って立ち上がる

「と言っても笑うのが苦手な人はいるよね。また明日来るね」

そういうと教室に戻っていった。


「冗談だろう。あんな女どうあつかったらいいんだよ…」


次の日はお弁当を持参した。

「嫌いなもの入ってないかな?六口で食べ終わるパンだけじゃ足りないでしょ?」

「その食べるけど…いらねぇ。俺スポーツしてて辞めたから太りやすい。パンだけでいいんだ」

そういうとお弁当を受け取りあっという間に食べてしまうと閉じて突っ返す。


「それはまずゆっくり食べれるようにならないと。おしゃべりしながら食べるとゆっくり食べれるよ。でも貴方はおしゃべり苦手そうだね。何してたのスポーツ」

「……バスケット……」


「それで背が高いんだね。気持ちよかったろうね空飛んでるみたいで。でも今は辛いのかな。太るの気にして食事制限したり、昔の仲間は一緒の学校に一人もいないのかな?それともわざと一人でいるの?新しい友達作れないのはこだわりがあるからだよね。わだかまりかな。私にもあったよ。今度話すね」                                               彼は聞いているのか、寝ているのかわからない。また心臓の音で確かめたら止めろと言われるだろうか?それにしてもなんで知らない人にはしちゃいけないんだろうか?その説明も聞いてないや。私も寝ようコンクリートはよい加減で気持ちいい。


話が聞こえなくなったと思ったら寝息が聞こえる。透(とおる)は呆れた。本当に無防備にもほどがある。ここまで来ると普通の男なら可愛くって襲えないかもしれないなと少し笑う。笑みがこぼれるのなんて、なんて久しぶりだろう。


横で横になりながらずっと千代を眺めていたが予鈴がなる。透はため息をつく。

「おい!起きろ。予鈴だ」

「ううん、もう少し…」

徹はもう一声大きく怒鳴るように言った。


「起きやがれ!!予鈴だと言ってる!」

びくんと千代が起き上がる。

「早く戻らなきゃ。貴方も早く早く」

手をひっぱられ、無理やりはがす。千代が戸惑った顔をする。


「一人で行ける。先にいけ。それから貴方じゃねぇ透だ。数腹透」

「うん。じゃあ透さんまたね」


それから千代は通いつめた。あいさつ以外何も喋らない日も多い。しゃべっても千代が横になっている透に勝手に喋っているだけだ。二ヶ月ほどしたその日、ふと思いついて放課後その場所によってみた。透はやはりそこで寝ていた。


「昼間と違って少し寒くない?カーデガン貸したげる」

私はカーデガンを彼の肩にかける。そうすると起き上がり返してきた。

「慣れてる。居るなら自分で着とけ。放課後まで邪魔しに来たのか?」


「私って邪魔?どうしてそんなに一人になりたいの?」

「邪魔というか物好きというかおせっかいやきというか煩い、いや煩くは無いが」

「私、家族から離れて一人暮らしなんだ。戻りたくは無いけど寂しいなと思う」


「ふーっ、一人暮らしだとか男に言うなよ押しかけてくるぞ襲われたいのか?」

「透さんそんな人に見えないけど?最初から二人きりだった。犯したければ力づくで押し倒せたでしょう?」


「……無防備……って訳じゃないんだな」

「どこまでも無防備だったよ。今もそーゆとこ抜けない。うちね再婚したの去年。それでね兄と姉ができたんだけど馬が合わなくって、ある日アキレス腱切られちゃった。ふざけてたら切れたって二人で口合わせてたけど…私ね


バレーダンスしてたの体は凄く柔らかい。普通にはどうやっても切れないよ。それわかっててパパ兄姉をかばった。私切れて父親刺しちゃった。大騒ぎで父親は逆に謝ってくれたけど母と兄姉は許してくれなくって


でも手足が脱臼してしまうぐらいひっぱられてアキレス腱も伸ばされたの。人を怖いと思ったのも怨んだのも初めて。それが家族。高校地区外に出て受験した。ひとり暮らしするために…だから知り合いは居ないの。この学校で知り合った好美ちゃんくらい。生活するのには支障は無いのナイフで切られたわけじゃないから。


でもダンスは駄目。推薦で体育科のある高校決まりかけてたのにな。一人で居るから一人で居たいんだろうとは思うけど透さんの一人になりたいは寂しくない?辛くない?何かから逃げてない?それなら私はもう来ないよ?」


「俺の側にいるだけでその傷は癒えるか?ならいればいい」

「何年生?何メートルあるの?」

「二年D組普通科。二メートル十二センチ」


「そっか、やっぱり年上で大きいや」

私がそう言うと透さんは上着を脱ぎカッターシャツの袖をめくった。大きな傷が斜めに走る。ひと目で深いとわかるバスケを辞めた原因だろう。


「両手両足にある。出血多量で死掛けた。バスケは強かったが治安のいい学校じゃなかったから一年レギュラーは邪魔だったらしい。今でもびっこひいてるよ。走ることはできない。体育は見学だ。仲間になれると思ったのに俺はいらない存在だったらしい。スポーツでもそんな世界もあるんだと思い知ったな」


私は透の頭を抱きしめた。私が脱落したとき何人もの生徒が胸をなで下ろしてた。

「辛いね。怖いね。やり直したくても、もう戻れないのは苦しいね。悔しいね」

同じ思いを抱えてる人が居た。それは喜べることじゃないけれど。私たちはもっともっと近寄ってもいい存在なのかもしれない。腰を抱かれる。震えてるのが解る。


「お前はそれでも人は怖くないのか?」

「怖いから一人で暮らしてる。でもね傷つける人ばかりじゃない。人の輪に入っていけないとこれからが大変だよ。誰とでも仲良く。でも誰も受け入れてない」

「千代は強いんだな」


「うん。私は強い。人を信じたいから。無防備だった自分を知ってるから」

透が私から離れる。どういったらいいか分からない顔でそして自信なさげに

「俺は弱い。一人がいい。誰も受け入れたくない。だけど千代なら…」                                          

そっと抱きしめられる。やはり震えてる。どれほど怖い思いをしたのだろう。でも学校には通えてるなら人の輪に入れるようになるチャンスは必ずくると思いたい。私は透に身をあずける。それこそ無防備に相手だけを信じて。


信じてあげなきゃ信じられるようにはならない。裏切られたものの心理。私もまたまだ家族を信じてない。クラスでは誰とでも仲の良い私は彼らもまた上辺だけ信じてるふりをしている。信じて疑わない頃があったからできる特技だ。


好美だけがそのことを知っている。そして彼女も同じ口だ。もっとも彼女には誰よりも大切な相手が常に居たので人付き合いが面倒だったにすぎないのだが人と仲がよく付き合えた方がなにかと便利なこともあると思ったらしい。それでも面倒なことが多いのにはかわりないので彼女の付き合い方は最低限だ。


透が抱きしめながら言う

「ごめんな。俺、こんなんで年下に震えて抱きついてる。情け無いよな。千代だって怖いのに頑張ってるはずなのに…側に居てくれるか?付き合いたい嫌じゃなきゃだけど、少しだけ心が広げれそうな気がするんだ千代になら」


「透さんが私でいいならいいよ。でも私もリハビリのいる人間だよ?」

「透でいい。だって千代が俺のとこ通って誘惑してきたんだぞ」

「誘惑はしてないつもりだけど、人が側に居る方がいいと思ったから…」


「俺の家でいいか?側に居てほしいけど人ごみは苦手なんだ」

「休み?」

「ああ、そう、土日も側にいて…駄目かな?」


「いいよ。その代わり月曜の朝は私をクラスに連れて行って?まずはあいさつから始めよう。信じなくていい。まずは人並みの交流を上面だけでもいいからできるようになってみよう。私も信じてない。でも相手がまず信じてくれるように仕向けていくのよ。そしたら味方はできる。それが突破口。私もまだ開けて無いけど…」


そして透の家の前に来ていた。クラスメイトやバレエのメンバーの家に複数人でおし掛けてた頃が私にはある。きっと透にもあるだろう。だけど恋人として相手の家にお邪魔した経験は無い。淡い恋はしたことあるがチョコをあげたりお弁当を作ったりその程度で結局バレエ中心だった私の生活に不満を持ち破局した。


今は背負うものが無い。その分だけ透の重みを背負えるそう信じよう。チャイムを鳴らす。女の人の声がして、入ると透も二階からおりてきたところだった。

「お母さん?」

「ああ、それより入って扉閉めていいよ。俺の彼女になったばかりの後輩。俺が外苦手だから来てもらった」


「あらあら不躾な息子でごめんなさい。男の子の部屋に二人で入るなんて怖いわよね。今客間用意するわ」

「お母さん、透さんに必要なのは信じて上げられる人。私、大丈夫ですから」


「信じて狼に変身しても知らないぞ。俺の部屋こっち」

「それじゃ、お邪魔します。何かあったら叫びますから」

私は笑ってVサインをだしてみせる。そして透の部屋に入った。


「何も無いぞ」

「机貸して、勉強しているから進学コースは課題が多くって」

「そこの学習机使え。俺マンガ見てるから」


午前中、勉強していると母親がおにぎりを作って入って来た。礼をいい千代はありがたくいただく。人が一つを平らげている間に三つ食べてしまった透はまたマンガを読み出した。それを見て母親が言う。


「勉強みてあげるなり、一緒に勉強するなりすればいいのに」

「進学コースの勉強なんて見てやれないよ。勉強しても就職できるかわかんないし、そこらへんはほっといてくれって言ってあるだろう」


私は聞く

「就職できないって?」

「手が思うように動かない。物を落とすのは始終だし細かい作業は厳しい。なら体を使うところをと思っても足も走れないんじゃ重たいものも持てないし…」


「それって私に食わせろってこと?」

「どうせ続きやしないさ」

「いいもん。主夫やってもらうから、続かないなんて言えなくしてやる。それよりごはん食べたら眠くなっちゃった。ベッド借りていい?」


「ああ、構わないよ」

「これ、構わないって二人っきりの部屋で寝かせられません」

「どうせ学校じゃ二人っきしのところで寝てるよ母さん。心配は要らない」


「うん、透さん器用に予鈴には起きるの。いつも起こしてもらってる」

それだけ言うと私は寝てしまう眠くって限界だった。


「その子…大丈夫?その頭とかなんていったらいいか無神経すぎない?」

「気を許してくれてるだけだよ。すごい気をつかう子だぜ。それに兄弟に苛められて一人暮らしをしてるような子だ。神経質なところはこれでもかってほどある」


「まぁ、あんたがいいならいいけど自制しなさいよ」

そういうと母親は皿を片付けて降りていく。

「自制かいつまでどれくらいしてりゃいいもんなんだそれは?なぁ千代?」


次の月曜日、教室についていく。

「どうしても、あいさつするのか?もう入学からして無いことだぜ」

「だから大事なの。二年D組のみなさーん!!私は数腹透さんのお友達でーす。透さんについてきたのはどうしても聞いてほしいことがあったからです。ほら透」


「あー、よっ、じゃなくてそのお、おはよう…」

「聞いての通りかれはあいさつも会話も苦手です。ですからあいさつだけでもまずしてあげてください!!。声にはだせなくても手をあげて返してくれるはずです。

それくらいならできるよね透?」


「こ、こうか?」

と右手を上げてみせる。

「この程度しか最初はできないと思いますがどうか透さんをお願いします」

私は頭を深々と下げた。


「何?すげーめーわくな彼女?透が無視してきたんだしらねーよ」

「おせっかい、迷惑承知のうえです。皆さんの助けが要ります。お願いします」

「いい子じゃん。いつでも俺に乗り換えなよ、そんな無愛想なのほっといてさ」


「もう止めろ、千代。これが人だ。俺のしてきた結果だ」

「そんなことわかってる!!だから頭下げてるんでしょう!!楽して人との関係が繋がるようになると思ってるの!!逃げないで透も頭を下げる!!」


「そんなことできるかよ…」

私の涙が落ちる。お願いだから、最初から始めるしかないの透。頭を下げて。

「泣くなよ。お願いします。俺荒れてて投げ出してたけどこいつの為に人と少しくらい関われるようになりたいんです。すいませんでした。だからお願いします」


「いいじゃん女の為に変わりたいってのは悪いきっかけじゃない。俺が守ってやるよ。他の連中に変な手出しはさせない。挨拶したくない奴はしなきゃいい。でも彼女の透の勇気と行動に応えるやつは助けてやれよ」


「おはよう。数腹さん」

「入って来いよ。お前の教室だろう?」

「よーっ、じゃあこれからだ。明日から声かけるからな」


それから少しずつだけど透に声をかけたり、不自由な体をかばったりしてくれる人が現れてきたらしい。もちろん反発するものも居たが、最初に認めてくれたのがどうも学校の番長クラスの人だったらしく揉め事は起こらなかった。


毎週のように千代は透の所へ通う。そのうちに透の口数も多くなった。バスケットを始めた理由は背の高さからのスカウトだ。小学生の時には人頭ひとつ分高かったらしい。この部屋にもバスケ仲間は来て騒いだ。一年とか三年とかひがみはあったけどそれで相手を怨みはしなかった。それがスポーツだと思い込んでいた。


そんな陰りを時々みせるもののバスケットの話をしている透は無邪気だった。ルールも知らない私に少しずつルールや技術を教えていく。自分で実演できないのがすごくもどかしそうだ。でもある日チケットを仕入れてきた。


「百聞は一見にしかずというだろう。見に行ってみよう昔の知り合いがでてる」

「うん。行こう。全部説明してね。私素人なんだから」

「ああ、わかってる」


バスケを見ているとゴール前にいつも一人残る。

「なんで一人残ってるの」

「見てりゃわかる」

「説明役はどーした?」


聞いてない。見るのに真剣だ。駄目だこりゃ。でも始めて見た気がする。目が輝いてるとこ。好きだったんだな。それがスポーツはおろか日常の生活もきついなんて。

そう思ったら透が一人に声をかける。


「武!悪い久しぶり。元気にしてたか?」

「とおるか?すっかり白くなっちまって髪の毛も伸ばしてるな。元気か?彼女?」

「ああ、バスケット知らないんで見せに来た。声かけたくなったし」


「やっとわだかまりが溶けて来たか。ひどい荒れようだったもんな」

私は彼のしぐさが気になったギラギラした目、握り締めた拳。なによりも私の感。

「透、この人は駄目。寄りを戻しちゃ駄目。帰ろう。付き合っちゃ駄目」


「なんだよ。人と仲良くしろって言ったのは千代だろ。こいつ一番仲良かった」

「お願いだから帰ろう。この人怖い」

「怖いって誰とでも仲良くやれるのがお前の特技なのにどうしたんだよ。悪いこいつ少し変みたいだ。今日はこれで帰るわ」


透の部屋で缶コーヒーを飲む。こんな時は暖かいものに限る。

「どうしたんだ今日はお前らしくも無い。一番の友達だった。紹介したかった」


「私ね人を疑ったことなかった。でも傷つけられて人の匂いがわかるようになったの。弱い人、裏切る人、傷つける人、怖い人、強い人、怨む人…あの人は平気で裏切って傷つける怖い人で嫉妬深い…」


「何を根拠にあいつをそうだと決め付ける。お前はなにも知らないくせに」

「知らないけど六感が叫ぶの近づいちゃいけないって兄弟のように…」

「…送るから、今日は帰れ。いくら俺でも気分が悪いしそれ不気味だよ」


「うん。だから人に話したことは無い。見ただけでわかるなんて信じないよね」

私たち二人は私の家に帰っていく途中、不良たちに襲われた。自由の効かない透をかばって遠ざける。無理やり押しやり透は戸惑うが逃げてはいかなかった。


逆に抱きしめて包み込むようにかばわれる。だけど不良たちは簡単に私たちを引きはがした。

「ずーたいでかくても力も入らないようじゃ彼女も守れないよな。そのまま犯されてるのを見物しとけよ」


不良たちの中に引きずり込まれ服が引き裂かれる。透も不良たちに捕まりもがいてはいるが自由の効かない両手両足ではどうしょもなく私の名前を呼び続ける。

「バスケできなくしてやった人間がバスケみにくるんじゃねーよ。それもわざわざ彼女をみせびらかしに来るなんて胸糞わるすぎるんだとさ。しっかり見とけ」


「おい!それは言うなと言われてたろうが」

「今のだけじゃわかんねーよ。敵が多すぎてさ」

「敵は多いが今日、千代を紹介したのは一人だ。バスケできなくしてやった?俺のチームメートが妬んで俺を切り裂いただけじゃないのか?千代を離せ。暴力なら俺が受ける。千代はなにもしてないだろう?」


「男を痛みつけるより男の前で女を犯すのが両方ダメージでけーんだよ。定石だが離してもらおうか人のしまで人のダチいじめてるんじゃないよ。こっちの情報網舐めんなよ」


「岳蔵さん!」

「わりい、これ作ってたら時間食っちまった」

それは火炎瓶だった。いっきに数十人がなだれ込む。うちの学校の番長というよりここら近辺の番長だったのか。おっかねー。でも私たちは助けられた。


連中から引き離されると投げ込まれる火炎瓶。騒動に気付いて警察が来る。私たち二人は担ぎこまれて運ばれていった。解散して岳蔵さんと私と透は透の家に居た。

「すこし過去を調べさせてもらった。辛いが聞けるか?」


「もうこれ以上に悪いことなんて無いと思ってた。千代にまで危害が加わるなんて、話を聞くよ。誰が敵で誰が味方かしりたい」

「それだけははっきりしてる味方はいねぇ。言い出したのも段取りつけたのも桂武って男だが全員その話を知ってた。みんな黙認したんだ。味方はいねえ。


武は違う学校へいって自分を三連敗に追い込んだお前を妬んだ。そこであわよくばチームごと排除しちまおうと金をばら撒いてお前のチームにお前を襲わせた。だがもともと問題の多い学校だったから学校がお前の事件をうやむやにし


バスケチームの仲間割れじゃなく不良生徒のいたずらにしちまった。荒れてくお前を慰め更生させようとするふりの中、あいつはチームメイトをひとりずつ切り離させ最後に自分も諦めた不利をして二回目のチャンスをうかがってた。


昔どんな人間かと透のことを聞けば誰もが無邪気で無防備な真っ直ぐな人間だったという。正直人間変わるもんだがここまで変わるもんなんだな。まぁ、それは人生自体を潰されてるんだ仕方も無いことだが千代の存在は弱みになった。


今日その存在を教えちまったことで妬みが復活し二回目のチャンスを作っちまったんだな。俺はたまたま隣町との抗争で探りをいれてたらその情報を仕入れたんで助けにいったわけだ。隣町との争いはもともと計算のうちだったしな。


そういうわけで帰るわ。気をつけろよ。三度目はないと思うがしつこいかもだぞ」

「しつこくともなにもできない。俺は殴り返すことさへできないんだ」

「今のクラスの半分はお前の味方だ。千代に感謝しろ。透の手足になれるのは他人なんだからさ。まず信じられる奴を探すことだ」


この時、話を聞いている間中、私ときたら情け無いことに震えが止まらずにいた。透の手が伸びる。ボタンを掛け間違えてるのを一生懸命直してくれる。ここに運ばれてきて貸してもらったシャツだ。私はそういうドジをよくする。


そのまま透は私を抱きしめ顔に何箇所も口付けしてくる。

「ごめん。一瞬でもお前の言葉を疑った。お前の言うとおりだった千代の…」

私を抱きしめながら透も震えている。仕方もないだろう信頼したかった相手がもっとも裏切りを実行していたのだ。二人で震えが止まるまでずっと抱かれてた。


「千代、強張ってる唇緩めて」

震える唇を半開きにすると透の指が二本口の中に入ってうごめく喉まできて思わず私はむせた。だけどそのまま顔を近づけ顎をもち口付けをされた。


「本当は誰にもやりたくない。抱いちまいたいけど俺の体は自由が効かないから」

「いつか、どれほどの時間をかけてもいいから抱いてね」

そういうと私は透にもたれかかった。こんな時にうとうとし始めたのである。


透は笑ってベッドに導き、一緒に寝た。その日いらい、学校の昼休みでも家で寝るときも透は私を抱きこんで寝るようになった。そして透はリハビリを始めた。諦めてた両手両足を動かす訓練をはじめたのである。


四年間、私はちょっと遠い大学に行った。戻りたかったけど距離があったしアパートの契約は打ち切られてた。四年が過ぎて始めて家に帰った。それまで幸せそうにしていた家族が凍りつく。何もいわずに私は家を出て透のところへ行った。


透には四年間の空白がある別れられても仕方ないと思っていたが、チャイムを鳴らしてでてきた時には私は透に持ち上げられて歓迎を受けた。少しびっくりする。鉛筆さへ取り落としていたのに人一人持ち上げられるようになっている。


会社にも入ってコンピューターをどうにか打っているらしい。傷害の枠で働いてるので給与は安いらしいが会社の人とは上手くいっているらしかった。アパートを借りるまで間借をすることになってとりあえず透の部屋で四年間を話す。


そして私たちは二度目の口付けをした。


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