忘れられた約束

「ねぇ、あゆみちゃん、おおきくなったらぼくとけっこんしてくれる?」

「いいよ、あゆみ、てるみくんのおよめさんになる」

そして幼すぎる二人は約束の口づけをかわす。


これはどこかで当たり前のように始まった約束の物語


だが、あゆみの父親もてるみの父親も転勤族だった。二人は小学校を待たずして遠い地方に転勤していく。そして9年の月日が流れ、ここは東京のとある共学生の学校。入学式より遅れて半月、あゆみは中途半端に時期に転校してきた。


ランクは念のためワンランク落とした学校を選んだ。授業に遅れることはないだろうけどやはり転校を繰り返していても初日は緊張する。昼食に呼ばれた人たちと歩いていくと遠めにもわかる青い髪、私はどっきりする。


まさか…近づいていって立ち止まる女の子に囲まれてるそのこの目はブルーと茶色、そして絵の具の匂い。タバコの匂いもするけど…声をかけてみる

「てるみくんだよね大坂輝実じゃない?」

「見ない顔だな。先に自分の名前を名乗れよ」


「ごめん、そうだね。私はあゆみ、外藻歩だよ。幼稚園の頃一緒に仲良くしてた」

「…幼稚園の頃の記憶なんてねーよ。でもそれで旧姓なんだな。俺は戸坂輝実になってる。馬鹿な女が賭博好きの男に鞍替えして今じゃ自分の体で稼いでる。そんな母親と父親の息子さ。性質はあまり良くないぜ。それでも俺綺麗だから得な」


「エルサーナさん。苦労してるんだ。お嬢様だったのに…」

「母親の同情なら止めてくれ自分で選んだ道だ。俺のほーが同情してもらいてー」

「充分同情するよ。いまのてるみくん私のしってるてるみくんとは違ってる」


女を掻き分け私の前に立ち、一発ひっぱたかれる。氷のように詰めたい目。

「同情するくらいなら金か体よこせ。俺はそれいがいいらねー」

「いきなり、ひっぱたくなんてひどーいあゆみ行こう。こいつ不良だよ。綺麗だからいつも女の子にちやほやされてるだけで女何人も泣かしてるんだから」


お昼ごはんを食べると私はすくっと立ち上がる。

「全て変わったわけじゃない。てるみくんからは絵の具のにおいがした。やっぱりこれで終わり、さようならなんてできないよ。てるみくんを探してくる」


「あいつなら中庭の一番大きな木の下に居るけど…輝実に関わるなら私らとはこれまでにしてもらうよ。女売ってるって話まであるんだから…関るのはごめん」

「わかった。半日だけど親切にしてくれてありがとう」


わたしはてるみくんのところに走る。てるみくんは女の子に囲まれて食事をしていた。みんなに食べさせてもらってる。わたしは思わず笑った。感に障ったらしい。

「またお前かよ。何のようだ。何笑ってる」


「昔のてるみくんもちゃんといる。人に食べさせてもらう甘えぶりは昔からだよ。私お友達と別れてきた。てるみくんの側に居る。認めてくれるまで」

「なら弁当を作って来い。昼休み俺を囲めるのはそんな女だけだ」


「それじゃ駄目なの。その他大勢の一人じゃ駄目なの私はてるみくんの女遊び止めさせる。私はてるみくんのものだからわたしもてるみくんを必ず手に入れる」

女達の目が妖しく光る。弁当を地面に下ろして何人かが向ってくる。


集団で羽交い絞めされ一人の女に引っ叩かれる往復ビンタ。何度も何度も。

「誰だって独り占めしたいわよ。できないから皆でかこむんじゃない輝実様はね、誰のものにもならないの一緒に居たければファンクラブに入って規則を守りなさい。それができないものに側に居る資格はないのよ」


私は手足が緩んでる隙を逃がさない足で腹に蹴りを入れて二人遠ざけると肘で顎をねらい二人をKOする、今までのしかかっていた女を逆にビンタ始めた

「なにがクラブの規則よ。だれもてるみを救えないくせに救おうともしてないくせにてるみはねお飾り人形じゃないの。生きて苦しんでるのよ。助けをまってるの」


「生憎、俺は助けなんて待ってないぜ。取り巻きのがずっと付き合うの楽じゃん」

「嘘つき、身の上話までして同情して欲しいと言ったくせに」

「その後、金か体よこせと言ったぜ」


「それは今のてるみに必要なものだからでしょう?私はてるみを更生させる」

「できねーよ。そんなこと。嘘だと思うなら一度抱かれてみろ」

[…わかったわ。捧げてあげる。本気の証に」

「そうこなくっちゃな。取り巻きより一歩だしぬこうとするならさ」


放課後、ラブホテルに連れてこられる初めてのことでドキドキする

「俺、避妊の道具買ってくるから部屋で待ってて」

ちょこんとベッドの上で待ってた。てるみくんを更生させるにはどうしたら…


カチャン、と知らない男が入ってくる。立って身構える。

「部屋、間違えてます。ここには私しか居ません」

「間違えてなんかないよ、君の彼から君を20万で買った処女なんだって?」


あの馬鹿最初からこんなつもりだったのか…どうやって逃げよう。入り口は多分鍵がかかってる。ここは一階、私の身軽さなら窓からでも…そんな時にサイレンの音がした。何人もの人間が警察の手によって部屋から出てくる。


どうやらホテルのマスターが客を売ったらしい。援助交際に良く使われるこのホテルは時々こうして警察に協力することで営業するのを免れてると後でしった。裏取引だ。警察に金をだせと言われ持ってないと答えると客は男に払ったと言う。


私はナンパされて始めて知り合った男だと繰り返してるみのことは口にしなかった。

次の日、なんでもない顔して登校してくるてるみくんに後ろから抱きついた。

「良かった。警察に捕まってなかったね。心配したんだよ」


「お前、馬鹿か。俺に売られたんだよ。なのに俺のしんぱいか?」

「信じたのは私の勝手だよ。友達から女を売ってるとは忠告されてた」

[なら,何で!!しん…じ…るん…だよ…馬鹿過ぎないかお前」


「馬鹿なのはてるみくんだよ罪を犯して得たお金はつぐわなくちゃいけない。それはね、貴方が嫌ってるお父さんの博打の金よりも汚く重たいものなんだよ」

「ほっといてくれ」

「ほっとけない。誰も止めてくれないなら私が止める。なんとしても」


てるみくんはこの時泣きそうな顔をして私を見ていた。

「なまえ、あゆみだっけ?また同じ目にあってもいいなら側にいてもいい」

「最初からそのつもりだよ。でもできるなら処女だけはてるみくんに捧げたい」


「そしたら客とるのか素直に?」

「嫌よ。客が文句言うくらい抵抗はしまくってやるからね」

「変わった奴だな。最初から客をとらせないでとは言えないのか?」


「言いたい。でもてるみくんのママは客とってるんだよね?そんなてるみくんに客を取らせることが悪いことだとどう教えたらいいかわかんない…」

「俺のクラスここ」

「私のクラスは二つ先、またねー」


「またねー…ねぇ」


『また、まってたの』

『てるみくん、寂しがりやだから』


なんだ、この記憶…輝実は少し混乱しているみたいだった。昼休みてるみの所へ行くと例のごとく取り巻きが囲んでいる。少し離れて食事をとろうとすると

「あゆみ隣に来い」

あゆみは周りの反応を気にしながらもてるみの隣に座る


「なんで昨日の今日でいきなりそいつが隣なの」

昨日喧嘩したリーダーかくの女が言う

「俺は煩い女だと思ってそうそうにこいつを男に売った。警察が来て無事だったらしいがあゆみは俺を警察には売らなかった。売られたのに売らなかった充分だ」


「食べさせろよ。下の弁当俺用だろう」

「うん。他の子の弁当は?」

「全員分食えるわけないだろう。自分用をみんな分けてくれてるんだ。これだけ人数いるのに俺用を作ってくる馬鹿はあゆみだけだよ」


私はみんなの視線を感じつつてるみくんに食事を運んだ。

「俺の嫌いなもの食べれるように加工してある…本当に俺のことしってるのだな」

「だっててるみくんそうしないと絶対食べないから…昔と味覚変わらない?」


「変わらないよ餓鬼のまんまだ。母親は料理しなくなったからな」

親の恋愛に子供が巻き込まれてこんなになってるのに抱きしめてもやらないのか。

私はぽろぽろと涙を流す。てるみくんは私が助ける。


「何、泣いてるんだよ。早く食わせろ。昼休み終わるだろうが」

「うん。ごめんね」


『てるみくん食べてみて………これなら食べれる?』


『すごーい、にんじんおいしいと思ったの始めて』


てるみが頭をふる。

「どうしたの?」

「いやこのまえから幻聴が聞こえる」


そんな一週間がすぎ。私は意を決しててるみくんの家に行こうと放課後てるみくんの後をつけていた。てるみくんの周りは一人減り二人減り、二人っきしになったところでラブホの街に足を運ぶ。二人で入って行ってそうそうにてるみくんは一人でてきた。また、女の子を売ったのか…私はてるみくんを平手打ちして


「何号室?助けてくる」

「教えねぇ。向こうには餌が増えるだけで俺には金が入らない男をなめるな。飛び込んだだけで救えるなんて夢見たいな幻想抱くな」


無理やりその場を引き離されて私はてるみくんの家にいた。3Dのアパートは二部屋布団引きっぱなしで片方のふとんの上には大人のおもちゃが転がっている。

「興味あるか?あれで処女膜破ってやろうか?」


「やだ、どんな扱いを受けても最初はてるみくんがいい」

「なら、部屋来いよ」

灰皿と空のビール缶に匂いがそまりきってるけど…これは絵の具の匂い…


「てるみくん、今でも絵を描いてるでしょう?見せて、お願い。てるみくん絵を描くことだけは止めてなかったんだ。最初から感じてた匂い頻繁に描いてる」

「どんな嗅覚してるんだよ。他の奴には言うなよ」


『てるみくんめっけ』


『あゆみちゃんには、どこに居ても見つかっちゃうな』


『だっててるみくんの匂いはいつも絵の具と一緒にながれてくるのぉ』


これはこいつと一緒だった頃の記憶か。一緒に居た頃の証明か。

「あゆみ、キスさせろ」

「…うん」


きつく、結んだ一文字がかすかに震えている。てるみは大笑いした。

「キスもろくに覚悟できないくせに処女はなんてよく言えたよな。てるみと呼べ。まずはそこからだ。お前にキスは早すぎる。くく、本当に変な奴」


「ごめん」

「かまわないよ。でも、もう女を売るところへはくるな。お前に抵抗なんて無理だ。

絶対一緒にいいようにされる」

「やめれないのそれ…」


「あゆみが酒やたばこやめさせて絵の具を一杯買ってくれればと止めれるかも」

「ほんとうだね?」


あゆみは次の日も輝実の部屋に行った。3億の通帳をてるみ名義で作って。

「それあげるから、絵の具代にはじゅうぶんでしょう?」

「これどうした」

「花嫁資金だよ。半分に割ってきた」


「割ってきたって。いいのかよ。お前は自分の金だろう…こんな大金」

「お金でてるみが悪いことやめるなら全額注ぎ込んでもいい。半分に割ったのは半分はてるみの分だからだよ。ずっと探してた。見つからないのは名前が変わってたからなんだね」


「ずっと…って何故」


『お手紙ちょうだい』


『あゆみもだすから』


「手紙…おれだしてたはず」

「届かなかった。私も出してたけど、ある日いわれた識別できない手紙は配達できないって親に代わりに書いてもらって来いって。でも親は忘れなさい言われた」


「幼稚園児の書いた手紙はとどかないのか…」

「うん」

「明日つきあって、夜泊まっていって何もしないから」


次の日、てるみは銀行から一億円と10万円おろすと一億円を布団の下に敷き詰め隠し、役所によってから10万円で絵の具を買いに行った。欲しかった100色セットと高級な筆のセット。パネルを買って最初にそれを使って描いたのは私だった。


日差しにまぶしそうにしているリゾート服を着た少女。まるで見て描いたみたいにそっくりだった。わたしはいつかの夏休みに行った避暑地を思い出す。そしてお茶をいれ飲んでるうちに母親が帰ってくる。


「かあさん。話がある。今日は客を遠慮してくれ」

「でも…」

「かあさんが断らなきゃ無理やり追い出す。それじゃ仕事にひびくだろう」


エルサーナさんは客にひた謝りし、一発殴られて帰ってもらう。エルサーナさんは機嫌悪そうにタバコに火をつけ、こっちをにらみつけている。てるみくんがお金を取りに行っている間二人だ。


「エルサーナさん。私、外藻歩です。親が転勤族で幼稚園卒業する前に別れちゃったけどてるみくんのお友達だったし、お友達に再びなりたいです」

「やめときなさい。あの子は女を売るわよ」

「もう、売られました。警察が来てぶじだったけど…」


てるみくんが1億円用意して持って降りてくる。その大金を見てエルサーナさんは

タバコを落とし慌てて拾って消す。

「その大金、どうしたの…」


「あゆみがくれた。1億円ある。これでとうさんの借金返して、当面の生活費になるだろう。もうさすがにとうさんを愛してはいないだろう?体で稼がせるような男だぜ別れてやり直せよ」


「人のお情けは受けたくないわ。それに別れられないわよ。離してくれないわ」

「それは俺が別れさす」

次の日金の無心に来た父親を捕えると包丁で脅して離婚届を書かせた。母親はその足で離婚届を出しに行き借金も返さずに1億円持って戻ってくることはなかった。


「こんなもんだよ。あゆみ。世の中こんなもんだ。つきあえよ」

「どこでも付き合うけどスケッチブックとこの前のパネル頂戴。スケッチブックの中身は結婚式のドレスでしょう?」


「なんでそれを…知ってる…」


『最高の服を作くるんだ。二人のための…おんなのこには大事なふくだものね』


『うん。あゆみにも最高な服着せてね』


「戻ってきたらやるよ。先に付き合え」

女なんてみんな信じられない。滅茶苦茶にしてやる…俺は楽になりたい。連れて来られたのはヤクザの事務所だった奥に和室が二つある。


「女好きにしろ。それでいくつ薬かえる」

「駄目!!輝実それだけは手を出しちゃ駄目!!」

もう一つの和室に引きずり込まれ服をぬがされ始める。それでも叫んでだ。


「逃げて!!薬だけは手をだしちゃだめ逃げて輝実、早く!」

「うるせぇ、自分の心配しやがれ」

男達が下半身をさらけだす。


『ねぇ、あゆみちゃん、おおきくなったらぼくとけっこんしてくれる?』


『いいよ、あゆみ、てるみくんのおよめさんになる』


「や、やめてくれ!!薬なら、いらない。そいつは真っ白な記憶なんだ返してくれ、頼むから返してくれ!!」

「もう遅いよ。この粉一袋もって帰りな」

あゆみ一人でこんな小さな袋ひとつかよ。ごめんあゆみ!


そして突然の騒ぎが起きた。事態を一瞬把握しかねる。

「そこまでです。児童警察重度犯罪とりしまり役1班班長、神乃香織、麻薬取引現場確保逮捕します」

それは聞いた事ある声、取り巻きのリーダーだ!!


20人ほどの警察が入ってきて取り囲む。私は一人の女警官に服を着せられていた。そしてウインクして出て行くリーダーさん。てるみもつれられていく。

「てるみ!てるみ!振り向いてよてるみ!」


「大丈夫よ。初犯の未遂だし取調べだけで返れるはずよ」

女の警官さんがわたしの頭をぽんぽんたたいていった。私は1DKのアパートを借りて家具を買い揃えた。特別なのはアトリエ用の三脚。血の繋がってない父親と暮らす必要はないはずだ。後わずらわしくないように借金だけは私のお金から返した。


「後は荷物の移動だけにしてあるから、早く一人暮らしに慣れるといい」

「二度も売られたくせになんでこんなに懇親的になれる…」

「私は記憶が消えないほどてるみくんのこと好きだったもの」


「口付けしていいか」

「あ…うん」

震える私、やっぱり緊張している。耳元でささやかられる


「怖くないから俺に任せて」

始めて大人の口付けを交わした。荷物が運ばれてきて約束どおりわたしはパネルとスケッチブック数冊を受け取った。


「もう一度だけ信じてみて私は裏切らないから」

「ああ、お前は俺を裏切ったりしない。それだけはこの数ヶ月で思ったよ」

ファンクラブは解散した。リーダーの結構本気だったのだけどな。その言葉が真実なのは殴られた私が一番知っていた。


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