幼馴染
いつも通りかえり道を歩く。会話も何もない。横に並んで歩くだけ。別に喧嘩をしたわけじゃない。10年生き返り、ずっと一緒なのだ。そりゃ子供のころは騒いだ。たった2つ差されど2つ差。彼はどんどん大人になっていく。しゃべらないようになったのは中学に彼が入ったあたりだったろうか。
時々は会話を交わす。なんでもない会話。さっきも交わした。
「なぁ、傘持ってきたか?」
「うん、折りたたみあるよ」
「広げて」
広げようとすると小雨が振り出して、広げ終わる頃には大雨になった。いつもより近い距離。肩をぶつけて歩く
……あいあい傘じゃもちそうにない二人して立ち止まった。すごい雨だ。体を寄せ合い避難できる場所を探す。
「ねぇ、お金ある1000円くらい」
「もってるよ。毎昼パン食だからな」
「私も…出来た甘露屋がある。入ってみない?」
「この雨の中立ち尽くすよりはいい案だ」
私たちはかけて店に入っていった。部屋はひとつひとつ仕切られ一番奥の二人部屋に案内される。雨のせいか、人気のせいか凄い賑わいだ。私たちは餡蜜を2つ頼んだ。無言で私たちは濡れた体を拭く。そのうちに餡蜜は届いた。
「すごい雨になってきましたね。下火になるまで、のんびりくつろいでくださいな」
気の効いた店員だ。何故店に入ったか理解している。
「ありがとうございます。お願いします」
それだけいうと部屋を出て行った。
彼は黙々と私の餡蜜に黒豆を拾って放り込んでくる。そうだった。彼はこの小さな黒いやつが嫌いだったっけ。
「ごめん、アイスのが良かった?」
「いや…これさへどければ食べれる」
「ならいいけど嫌なら最初に言うの、いつからそんなに無口になった」
「かまわなかったから」
まー考えてみればすべて私の皿にはいるのだから彼にとっては大きなもんだいではないのだろう。私たちは食べもせずにどんどんひどくなる雨を二人して黙ってみていた。無口な幼馴染を持つと隣の騒ぎ声さへなんか癇に障る。
「なんかどんどんひどくなってくね」
「ああ」
ピーロロロンロン。私の携帯がなる。ママからだった。
「うちらの一帯、避難勧告がでたって、避難場所、小学校の体育館」
「幸い、まだ通り過ぎてはいないな、強行突破するか?」
「まだ、食べてもいないし、もう少し様子見ようよ」
そして私たちは食べ始めた。
「なぁ、後2ヶ月で大阪に俺行く」
ビクンっと跳ね上がる私、深呼吸をして座りなおした。あ、大学か。
「大学だよね、どこ?大阪の」
「大阪府立」
駄目、私の頭じゃ入れない。高校だって彼がランク下げて入ってくれてたの知ってる。
「遠いね」
私はうつむいた。やだ、絶対に泣きそうな顔してる。でも、いい加減、幼馴染は卒業しなきゃ彼女だって作りにくいはず。じっとみてる彼。できれば見つめないで欲しい。
「泣いてるのか?」
手が伸びて私の涙をぬぐう。そのままあごに手をかけて顔を持ち上げられる。彼は立ち顔を近づけてくる。
唇に唇がふれた。そのまま入ってくる舌。初めてのことで上手く応えられたかはわからない。目を細めて彼は座った。何事もなかったかのように餡蜜を食べ始める。彼が食べ終わるのをじっと見つめていた。こっちを見る。
「食べろよ」
「初めてだった」
「しってる。俺とは最後かもな」
「そんなの…ず…るい……」
「いずれ帰ってくる。それまでに居場所が変われば教えろよ」
「私でいいの?」
「お前しかいない。何年側にいる。いい加減気づけ」
「だって、ずっと疑わなかった。側にいること…」
「夜行で6時間だ。思うほど遠くはないさ。帰ってくる」
「だけど…」
「携帯あるだろうメールも」
私は目をつぶる。
「していいの?」
「当たり前だろう」
「返事なんかよこさないくせに」
「…ごめん。ちゃんと返事する」
私は残ってる餡蜜をかけこんだ。あんこを喉につまらせる。苦しんでるのに笑いながら隣に来て背中を叩く。でてきた。今度は落ち着いて食べ水でながしこむ。
「心配だな」
「…大阪でもどこでも勝手に行っちゃえ!!」
私は1000円札を机に叩きつけて。逃げ出した。告白もされてないのに物心ついた頃から側にいるやつの好きなんて気付くか。遠距離恋愛が続いたって話はあまり聞かない。とにかく後2ヶ月を大事にしよう。雨に濡れながらそんなことを考えて私は走った。
彼も後を追うようにかけてきたびっしょりになりながら、そしてお互いの両親がいるにもかかわらずかれは今日2度目の口付けをしてきたんだ。彼は私の両親に私を欲しいってはっきり言ってくれて私達の関係はがらりと変わった。
それでも6年間は辛かった。彼は大阪で就職しちゃうし、私は地元で4年生大学にはいっちゃったから、その6年間にお互いいろいろあったけど、私が大学を卒業した次の日婚姻届を片手に私を連れに来た。なんかさらわれるような形で大阪にきちゃったけど、喫茶でバイトしながら彼の奥様をやっています。
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