同じ名前と朝日に向けて

数子は自分の名前が大嫌いだった。かずでは男の子みたいだし、かーあちゃんじゃお母さんだ。かずことフルネームで呼ばれることも多い中、かーこと呼ばれることが定着してきた。


本当にいくら産まれるまで26時間、ずーっと秒読みしてたので数しか思い浮かばなかったからって数子は酷いと思うんだ。あー難産でした。



私の朝は早い。陸上部の部活をしていて朝は自主トレで公園まで一走りする5キロくらいの軽い距離だが公園の周りを円周することでその日の体調に合わせて距離を調節していた。ここら辺の早朝ランナーのお決まりの公園なので比較的安全にも走れる。


走りながら日が登ってくる感覚が私は大好きだった。そして滞りなくいつものように走っていると反対側から走ってくる人が見える。公園のマラソンは一方通行が礼儀だ。知らない顔出し新入りなのかもしれない。


今日のところは様子をみとこうと少し横に避けて通り過ぎようとする。なのに向こうも同じ方向に避けてくる。よくある話だと思った。そのまま体当たりされるまでは…

「え?」

立ち止まる足。まぬけな声。最初は痛みなど感じない。事態を把握するのにしばらくかかる頭。

「キャーーーッ!!」

叫ぶ私。逃げていく人。


後ろから

「どうした?大丈夫か?確か時原って言ってたよな…なんだよ!これナイフ根元まで埋まってる!今救急車呼ぶから動くなよ?刃も抜くな」

知らない声。だけど顔は毎日見る。公園マラソンの常連だ。歳も近いはずで地区大会で何度か顔を合わせている。


「今、救急車呼んだからすぐ来る。俺、葉図記数雄(はずきかずお)。お前のこと地区大会で自分の名前がだいっ嫌いだって仲間に喋っているの聞いて覚えてる。数子って言うんだろう?俺も数字の数に雄の雄。初雄に継雄、三番目は予定になかったんで数雄だぜひでーだろ?なんで名前だいっ嫌い。おい!しっかりしろ!気を失うなよ。おい時原!時原!時原数子!おいったら」


私は葉図記さんの声を聞きながら意識が遠くなり気を失ってしまった。倒れこむ私を慌てて葉図記さんは支えて仰向けに寝かしてくれたらしい。気がついた時は病院のベッドの上、しかも集中治療室で二人とも仕事を放り出し両親がかけつけていた。結構ひどい怪我で大手術だったらしい。刃を抜いていたら出血多量で死んでいただろうと言われた。


それでも四日後には集中治療室をでた。見舞いが来る来る。ついでに警察まで来てモンタージュというのか?まで作らされる。今はパソコンで3Dの世界らしい。面白いが冗談をしている余裕はない。早く捕まえてもらわねば私みたいな犠牲者がまたでないとは限らないのだ。


幸い見たことない顔でも見たことない顔だからこそ覚えていた部分もあって無事に作り上げることができた。 誰かに似てるな誰だったかなとその時は思っただけだった。


少し疲れて休んでいた。両親はいない。共働きだ高校生の相手をいつまでもしてられないのだろう。二人とも働きに出ている。特別貧乏なわけじゃない。大学も普通に行かしてもらえるだろう。


私の養育費は折半することで決まっていた。だけど高校を卒業と同時に両親は新しい家族を持つ。その為にすでに離婚していた。私は大学をでるまで父方にひきとられることも決まっている。


私が生まれたとき両親はまちがいなく愛し合っていたという。だけど歳をとってお互い運命の人にであってしまったんだと言っていた。娘の私としては両親の幸せは願わずにはいられないが本人自身としては複雑な心境だ。ただ出会って結婚したから生んだだけ?よくぐれないものだと自分で感心するよ。


そこへ私の命の恩人はやってきた。

「よー。集中からでたって聞いてさ。様子はどうだ?えーと数子って言えばいい?苗字のがいい?」

「みんなかーこって呼んでるからそれで。そっちはなんて?てか名前しか覚えてないんだ。他記憶吹っ飛んでてさ」

「重症だったからなぁ。北高の体育科専行の葉図記数雄だよ。部活は陸上フルマラソンの選手希望の今は3000メートル走の選手、かっちゃって呼ばれてるそう呼んでくれ」

「私は東の天理女子のほーの学校、普通科専行だけど体育推選で曙東和を狙ってる。近いし強いし」

「お!実は俺もそこの奨学生を狙ってる私立は家計的にきついけどさ。でも国立だと一人暮らしがいるから余計に家計に響くんだよな」

「かっちゃん家は結構貧乏なんだ?」

「てか普通だろ?かーこは裕福なん?」

「金に不自由したことはないな。これからどうなるかわかんないけど…」


そう言って今の両親の話をすると急に体を引き寄せて前かがみになる。傷口にさわる変形するらしく痛い。

「なんだよそれ。子供のこと全然考えてないじゃん。ひでえ、両親」

手に力が入る。これ以上は我慢できなくって

「かっちゃお腹痛い傷が変形するよ。いきなり引き寄せないで。それに親は私が高校卒業するまではとずっと我慢してきたんだよ。私は両家ととも付き合いある。悪い人たちじゃない巡り合せが悪かったと思うしかないじゃない」


「そーゆの聞き分け良すぎると俺は思うんだけど…とりあえず付き合おうぜ。まずは朝、一緒に走るとこから。俺かーこの事気に入った」

「ええっ、肌の手入れもしてないし日焼けで浅黒いよ」

「でも目はでかくって目鼻立ちは整ってるし、なにより髪長いんだな。いつもアップにセットされてるからこんなに長いんだと知らなかった。そういうの女の子っぽいと思わねぇ?毎朝早くからセットしてるのかと思うとかわいいなと思うぜ」


「本当はね。切れって言われたの。セットすることで了解させたのよ。長い髪だけは憧れなんだぁ」


こうしてかっちゃとの付き合いが始まった。走るペースも合わせてくれる優しい人だった。北高の体育科じゃ受験では曙東和に入るのは難しい。だけど特待生枠は三人だ。休みは部活に始まって猛勉強が始まった。東の天理女子の普通科と言えば95パーセントを大学に進学させている一応進学校である。比べてみると勉学にツーランクは差があった。


一方的に教える立場に徹した。彼女に勉強教えてもらうなんてかっこ悪いなんて言い出す人じゃないのが助かった。メキメキ力をつけていく。陸上馬鹿だったが頭は悪くなかったらしい。


進学校の普通科で陸上している変り種の私だが(天理にも体育科はじつは存在する)成績は悪くなかったので国立を目指すのなら厳しいが地元の私立体育大学を受けるには充分だろう。ちなみに一応狙っている推薦枠は12人だ。なので私も勉学は怠らなかった。そこは普通科に入った強みともいえよう。


「かーこ。お前のおかげだな。偏差値、曙の受験枠にはいったぜ」

「おー、おめでとう。私は推薦枠に入れそうなんだけど…成績維持が推薦枠の条件なんだよね。勉強して走って彼氏と遊ぶなんてことはできそうにないや」


「それ、別れろってこと?」

「逆、推薦降りようと思って受験で受けて陸上辞めてマネージャーなろうかなって。10番以内には入れるけど1番にはなれないのが私の限界だし、勉強しながらなら全力でスポーツに向けるより全力で恋愛したいと思ったり、好きで走るだけならかっちゃがいつでも付き合ってくれるでしょう?」

「いつでもつきあうけどさ。それでいいのかよ?」


「だってもともと選手希望じゃないもの。体育教員希望。いわば先生希望。陸上で真剣に走るのは気持ちいいけど、いろんなスポーツのいろんなルールも覚えなきゃだし、小学教員免許とるなら全教科網羅しなきゃならないし、決して暇なわけではないのよ?走るのは好きだけどトップになれなきゃ選手になる意味は半減するでしょう?」

「それで普通科でてるのか…」

「そういうこと」

「ごめん。俺と出会わなきゃかーこは選手の道を選んでたよな」

「うん。そして途中で挫折してた。好きな人の為に生き方を修正するのって自然だと思わない?かっちゃはマラソン選手になりたいんでしょう?厳しい道のりだもん。助けれるなら助けたい。まずはその基本を覚えるためにマネージャーをしてみようかと」


ひしっと抱きしめてくる。頬に口付けをしてから

「かーこは可愛いな。俺のために生き方まで変えてくれようとしてる最高の女だよなぁ」

「そ、そんなことないけど…わたしにとってもかっちゃといる時間が一番大切だから。そろそろ母親が帰ってくる。お開きにしよう」


「俺、ちゃんと紹介されてぇ、どうどうと付き合いたい」

「それは大学に入ってからにしようって決めたじゃない。今、両親を刺激したくないの…ごめん」

「かーこ。両親に気をつかいすぎだぜ?餓鬼の頃から?まーいいや。親なんか知らない。新しい家族ができるんならそいつらにまかせればいい。かーこは俺が貰う」

「…かっちゃ」

とにかく、その日はそれで帰って行った。




受験が終わるまで何度と無くこのやりとりは行われた。頬に口付けされたのを最初に受験が終わる頃には私たちは人目を忍んでディープ・キスまでするようになり。受験が終わった日は私の家でコーヒーでお疲れ様を言い合う。お互い感触はあった。おそらく合格できるだろうと話していた。


「いよいよ大学生活だね」

「ああ、いよいよな。もう隠さなくてもよくなるんだろう?」

「二人がお互いの家庭を持ったらね」

じっと見つめあう。どちらからともなく唇を合わせる静かに絡まる舌。どちらかのともわからない唾液がしたたり落ちる。かっちゃの舌は唇を離れ耳元を舐めあげる。

「ひゃん」

思わず私は声を出し

「欲しい」

と耳元で囁かれる。


私はどう応えていいかわからず困ったような今にも泣きそうな顔をしていた。と後日言われる顔をしてかっちゃんの胸に顔を沈めた。

「ごめん。もう少しの我慢だもんな。困らせたいわけじゃないんだ。だけどこれだけさせて」

そういうと服のボタンをはずし胸にいくつものキスマークがつけられた。その時のかっちゃんの想いの全てだったんだと思う。




その頃になると慌しく。引越しが始まった。両家に何を持っていくか時にはもめたりもしていたがなんとなく収まって家がからっぽになっていく残るのは私の荷物だけだったのだが…父親の家に私の部屋はなくプレハブが庭に建てられた。


大学卒業したら出たいと言っていたし女の子は嫁に言っちゃうからなぁ。臨時のこれで充分だろうという話だったが新しい家に私を住まわせたくない気配はひしひしと感じてた。だが外に私の部屋があるのは私にとっても好都合だったので荷物を出きる限り処分して引越しを終えた。


二人で無事に大学に入ってすぐ、父にかっちゃんを紹介した。真剣に付き合って生きたいから出入りも許して欲しいと願い出た。父は命の恩人じゃ駄目だとは言えないねぇと笑っていってくれたが、後ろで冷たい視線で私たち二人をみている兄の姿がその時はきになってしかたがなかった。


嫌な予感がする離れの外部屋で良かったとその時は思ったのだ。でもその日のうちに問題は起きた。かっちゃんが帰ってすぐにトイレに自宅に入る。トイレからでてくると薄ら笑いをした兄が待っていて腕を掴む。


「そんな格好で男誘惑してるんだ?俺もされちゃおうかな」

もう片手も取られてトイレの扉に叩きつけられる。そのまま両手を持ち上げられ片手で両腕を持ち上げ直されたかと思うと片手は私の顎に手をかけられた顎を押さえられてはいやいやもできない唇が合わさる。せめて舌をいれられまいと口をきつく結ぶ、そうすると顎を支えてた手は離れ平手打ちが一発来た。


それと同時だった父親が仕事から帰ってきて私たち二人の姿を見るのは…呆然と

「お前たち何してるんだ」

まるで魂の抜けたような声で問いただしてくる。先に発言したのは兄だった。

「こんなキャミで透き通ったショールで誘惑されちゃ俺も男だからね…まぁ一発叩いてお仕置きしてたとこさ」

「そ、そんな私は今かっちゃんにしか興味ない!!」

「数子、とにかく服を着替えなおして来なさい。雄介君、その状態はお仕置きというより無理やりに見えるよ。数子は妹だ。もう少し抑制してくれると嬉しいんだが」


兄はふいっと台所に向かい。私は半そでのTシャツにジーンズを着こんで自宅に入っていった。夕食のときに新しい母にあたる人が

「数子ちゃんかわいい格好してたのに着替えたの?もったいなーい」

というと兄はクスクス笑う。

「どうしたの雄介?」

と母

「んーちょっと楽しいことがあっただけ。父さんも家庭や俺を大事にしてくれてるよね?」

とにっこり笑う。父もそれに愛想笑いして

「もちろんだともさっきは数子が失礼した」


私は黙って立ち上がりトイレとお風呂以外極力家に入るまいと心に誓うのだった。その日のうちにメールを打って事情を話し次の朝早めにグランドに来てもらう。かっちゃんに泣きついて慰めてもらうとかっちゃんは心底怒って何が新しい家族だよ。かーこは犠牲になってるじゃんって抱きしめてくれて口付けをする。


それでやっと少し冷静になった私は

「今日にでも母に相談してみる」

というと1年生たちが登校してくる。かっちゃんもでてグランドの整備やハードルを並べたり始めた。私も昨日のタオルを取り入れ始め大学の一日が始まった。1日が終わる頃日が沈むのが見れる。でもどんなに綺麗でも私は朝日の方が好きだった。今日は呼び出して走らなかったけど今でも毎朝公園を走ってるんだよ。


そして部活が終わり母の家に行く母を呼び出し今日の兄の話をする。

「まず付き合っている子がいるのね?」

「ママも知ってる子だよ。怪我をした時ずっと付き添ってくれた子。救急車呼んでくれた」

「ああ、あの好青年なら問題ないかな。その兄ね問題は…好奇心とか欲情してとかではないのね?」

「わかんない。でもまるで狙われた獣のような気分だった。後も余裕でパパ押さえつけてたし…」

「あの人も情けないところあるから…新しい家庭のために数子犠牲にする気なのかしら」

そう言ってため息をつく。


だが私は母の元に引っ越したいとは言わない。母の家にも兄がいる。しかもニートな引きこもりだ。母も大変なのである…とりあえず夜も遅くなったので母に送られ父の家に行った。父が飛び出してきて私をひっぱ叩く。

「こんな遅くまでほっつき歩くな。しかも他人に家庭のことをぺらぺらしゃべりよって」

「私のママよ。自分の身の危険を感じてるのに相談もゆるされないの!!昨日パパはかばいもしなかったじゃないの!私は口付けられたのよ!割られて入ってこようとする舌に必死で抵抗してたらひっぱ叩かれたんだから!エスカレートしてけば兄にレ〇プされるようになっても不思議はないのだから!!」


唖然として聞いていた新しい母が叫びだす。

「その女を追い出して!!うちの娘じゃないわ。息子を誘惑して悪いように言う悪魔よ!家庭が滅茶苦茶になる!家になんか置いとけないわ追い出してよ!」


私はきびすを返して走り出した。行くところは決まっていた。一度しか行った事ないけど道は覚えてる。かっちゃんの家だった。夜遅く来ただけでもかっちゃんの家族をびっくりさせたのに私は叫んで泣いた。


「居るところがない!!私の家族はなくなっちゃった!私、戻れる場所がないの…わーん。わーん」

しばらくかっちゃんの胸で泣いた後、事情を話した。母方には病気の兄が居てその家の父はその子を顧ず双子の妹ばかりに愛情を注いでること。父方の兄は成績のいい兄を自慢して溺愛していること。


どちらの家も私を最初は引き取るのを渋った事、そして今いわれてきた事。そして驚いたことに両親の前でそれをありのまま話しかっちゃんはいずれ俺の嫁にするつもりだから少し時期が早まったと思っておいて欲しいと頭を下げた。


かっちゃんの両親は私を受け入れ、その晩、私はかっちゃんに始めて抱かれた。心が落ち着いていくのがわかる。好きな人に抱かれることがこんなにも自分を慰め勇気付けられることをしった。


体一つでかっちゃんの家に来た私はかっちゃんの姉のお古の洋服をもらい学用品を買い揃えマネージャーを辞めアルバイトに明け暮れた。両親は私を完全に見捨てたわけではなかったもともと予定していた養育費に+αした金額を二人とも毎月送って寄越した。


かっちゃんは家に居るためにまず私と婚約した。お金はかっちゃの両親に渡した。どちらも両親は承諾した。好きな人の腕の中で眠るのはとても安心する。高校時代、両家とも悪い家じゃないと言って実際の拒絶感をうやむやにしていた結果完全に現実を受け入れられずに最後には飛び出した。あの時壊れるんじゃないかと思った心はどこかへ消えていた。


大学を卒業してバイトでためた金で結婚式を小さくあげることにした。かっちゃんの家族と私の家の両家だけ呼んで…そこで私はまた後悔することになる。



衣装を着てかっちゃんを待つ。まず状態を新郎にみてもらうためだ。そこで写真を撮り父に引き渡される…だが最初に顔を見せたのは父親側の兄だった。

「早々に婚約されるとは計算違いだったよなぁ。始めてみたとき家に来たら絶対ものにしてやろうと思ってたのに…今からでも遅くないかな?俺のものにしてやるぜ。他の男に抱かれた体で結婚式あげられるかな~」


そう言うとサバイバルナイフを持ち出す。私は逃げようとするが慣れないドレスで躓いた。まずすそを切り口に詰められ、またすそを切り両手を後ろで縛り上げられる。また裾を切り今度は足を縛られ、後は自由にされるまでになった。


布を詰められてるので大声にならない、胸から股にかけて勢い良く切り裂いていく。本当に楽しそうだ。サバイバルナイフはコルセットさへものともしなかった。むき出しになる胸、パンティさへ引き裂かれ兄が胸に顔をうずめ様としたした瞬間。


「かーこ!」

「ちっもう着替え終わったか。だがもう遅いこの姿を見ろ。俺のものにした後だよ」

と、にたっと笑う顔。頭に血が上ったかっちゃんが兄に向おうとする。

「ううーっ!」

立ち上がりかっちゃんにもたれかかる。姿はドレスもコルセットも下着も切り裂かれていたので素っ裸だ。


口の詰め物をとってもらい耳元で

「兄はサバイバルナイフもってる正装したその格好じゃ勝てない」

「なんだよ向ってこないのかよ」

とナイフをちらつかせる。私は拘束を解いてもらいながら


「あんただ。私を刺したの。どこかで見たような初めてのようなと思ったけど変装してたけどあんただ。あの時殺そうとして、何故今は犯そうとするの!」

「妹なんて邪魔だと思ったんだよ。だけど逢ってみたら思うよりいい女じゃん。禁断の世界を味わってみたくなったのさ」


「やっぱゆるせねぇ。ナイフでもなんでもかかってきやがれ!!」

結局、ナイフを持った手を足蹴りでシャストヒットさせればナイフは落ち。素手の戦いになればかっちゃは、あっさりKOした。体格も普段の鍛え方もちがう。


新しい母親が見つけておいおい泣きながらヒステリックにこちらを睨み叫び続けているところでみんなが集まる。家族が。どんなに息子を正当化しようとも私の服が切り裂かれた事実は一目瞭然で店の人にはどんな弁明も効かなかった。


結婚式は取りやめその資金をタキシードとドレスの弁償代に当て(タキシードも1着、きりさかれていたのだ)父に誰にも聞こえないような声で

「すまない」

と言われ私の家族は終わったなと実感した。


私は兄を警察に差し出し私を刺した人だと思うと告げ、さすがにそれは何かの間違いだと父方の家族は皆で訴えていたが一週間後には逮捕が決まった。そこでやっと父は私に謝罪に来たが私はもう取り合わなかった。一言。

「選んだ家族を大切にしたら?逮捕されてからのが大変なんだから」


それだけ言うとかっちゃんと部屋に行き、私はまた泣きたいだけ泣いた。

「だから前に言ったろう?お前は俺が貰うって。もうかーこはおれの家族なんだから」

「うん」

私は泣きながら笑う

「朝日が昇るのを感じたい」

「なら明日の朝は公園を一緒に走るか」



かっちゃんは毎日、一日中走り、いろんなマラソン大会に出場してマラソン選手の道を歩き出した。スポンサーがつくまできついけど許してくれとは言われたが両親はなんのつもりか大学を卒業した今でも仕送りを送ってくる。


なんのつもりか、二人で何を話し合ったかはわからないがその理由を聞きに行くことも仕送りを送り返すことも私はしなかった。新しい家族のために私を捨てた母、私を見捨てた父、どうか新しい家族の中でしあわせにすごせているといい。


私はもう顔を見せたりはしない。かっちゃんが一人前の選手になるまで私が唯一のサポーターなのだから。私は彼と生きていく。


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