天使の花 2019年 クリスマス用作品
薄っすら雪が彩る中
クリスマスの定番音楽が
街のあちらこちらから聞こえ始める
12月に入ったころ
私はその人と出会った
ベンチで声もなく泣き続けてるその人に
街の人は振り向きもしない
私も何故その時立ち止まったのか
今でも解らない
気が付くと
泣く姿を真ん前に立ち見下ろしていた
ある意味なんとも失礼な話だが
その時の私はなにか
自分らしくもなく常識の枠を外れていた
泣き止むことなく
嗚咽が小さくなり
完全にベンチに伏せたその人は
眼を濡らしたまま
吐息が聞こえてきた
私は思わず微笑む
この街のど真ん中で
泣き疲れて寝てしまう人が居るのか
それがなんとも可愛らしく感じた
コートを脱いでその人にかけて
自分は隣に座り
その人が起きるのをまった
寒さが少し身に染みる
そんな深夜に近づいたころ
その人は目を覚ました
コートに最初に気付き
私をみつけて
平謝りするその人に
自分が好きで勝手にしたことだと告げて
体を温めるのに
アルコールでも飲みに誘った
一瞬戸惑った様子だったが
すぐに微笑み承諾を得た
お互い好きな酒を頼み
黙って飲む酒も
凍えたからだと
特異な出会いの相手が隣なら悪くはなかった
私は、その人が何かしゃべるか待っていた
勘定を終えて店を出るとき
その人は口を開いた
礼と泣き崩れて寝ちゃったことを恥ずかしいとの内容に
私はむしろほっとけなくて可愛かったですよと答えた
電話番号を聞かれ
少し戸惑ったが
教えた
それから連絡はしばらく来なかった
私は一夜の夢のような出来事として
忘れかけていた
12月24日イブの日
電話がかかってきて
教会に呼び出された
簡単なミサを一緒に受け
場所を喫茶に移す
キリスト教徒だったのかと聞くと
クリスマスの時だけと
舌をちょろっと出して笑うその姿がまた可愛いと思った
そのまま彼女に導かれ
なんでもない空き地に連れていかれて
枯草を踏みしめながら中央にいく
こんな街にも
まだこんな広い空き地があったのか
「ここは、昔大量のキリスト教徒が自決した場所なの」
そう言うとその人は祈るポーズをする
体から光があふれだし
衣装が天に上る羽衣のように舞い上がってく
そして翼が生まれ・・・頭の上に光の輪が生まれた
あまりの出来事に唖然としてると
地面から無数の光があふれだし天に昇っていく
びっくりして口も開けなかったが
その光景に落ち着きを取り戻した
魅せられたといってもいいかもしれない
「やっぱりこの日は神の祝福があるのかしら?
それとも・・・」
天使の姿になったその人が私をまっすぐ見て
眼を細めながら
「貴方の力なのかもしれないはね」
私は首を慌てて横に振る
自分に不可思議な力は持ち合わせてない
その人は優しげに笑うと
潜在は大なり小なり誰でも持ってるものだと告げた
そのうえでまた礼を言われ
その人が一人の魂を救いたいがために
輪廻を捨てて天界に仕えたことを話す
そんなことができるのか解らなくなった私に
106回目のクリスマスの日を迎え
やっと魂が召天したと話した
そして舞い上がる
その人が
「私もやっと人に戻れる」
たった一度の輪廻でその人の魂はもう消失すると言った
私はその人に
天昇させた相手の輪廻を追いかけるのかと聞いていた
そんなこと聞くまでもないのに・・・
でも意外な答えが返って来た
「傍に居ては駄目かな?」
私は全然いいと答えて・・・聞かれるままに名前を告げる
その人の言うままに両手を皿のようにすると
その人から輝きが凄い勢いであふれ出し
私の手に収束していく
光が消えた時残ったのは
小さな名前も知りようがない花が手の中にあった
私は眼を開いたまま花を見つめ
眼からあふれる涙は止めようもなかった
今でもその花は私の部屋で咲き続けていて
時折、私は名前を呼ばれた気がして振り向くときがある
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