明るい月の下で

電話で友人と話していると

いきなり話題を変えて来た


「あ、月がとても明るいきれいだなぁ」


私はもう友人が月の加護に生きてる崇拝者なのを知ってる

窓を覗きこむが月は見えない

そもそもが明るくもない

さっき雨が上がったばかりだ曇ってるのだろう


その事を伝えると友人は

寂しそうに変わりに自分が祈っておくからと

おやすみなさいをして電話を切った



私は冷蔵庫から缶ビールを一つ取りだしマンションをでる

マンションの駐車場で乾いた地面を探すと

どっしり座り込み闇の中ビールを飲みだした

私とて月をしらないわけではない

明るい月がどんなものかは容易に想像がつく


目をつぶりその明るさを感じながら

ビールを口にしていた

たいして時間は経ってないだろう

車の音が近づいてきて慌てて立つ

駐車場のその場所の主が帰ってきたわけだ


私はまた乾いた地面を探して

缶を置き座る

座ろうとした瞬間凄い風が吹き出して

缶ビールを転がしてくれた

まぁ中身は1/3に減っていたが・・・


拾おうとして妙に明るい事に気付く

ふり向くと見なれた姿が合った

空を見上げる

風が強いのは何も地上だけではない

雲たちは随分前から風にながされていたのだろう


月光をそのまま思わせる和服とも異国の服ともとれるような

長い流れる服を着た少女にに向かって言う

少女は失礼かもしれない

生きてる年数は私の比ではない


私の友人がお前に祈ってる

いい夢を見させてやってくれ

・・・・・・

いや。夢も見ない深い眠りを与えてやってくれ

発しない言葉のやりとりが始まる


少女が俺の顔を見下げながら

承知しているわ

でも夢は想いの具現

そう簡単には操作できないの


そうか

残念だな


でもその人は私に祈りを捧げてくれる

それが私の力になる

できる限りの不安と苦しみを一時の月のある間は取り除くわ


私は見上げてほほ笑んだ

遠くの友人に救いを頼む

そう言う私に解ってるとだけいい話を切り替えて来た


貴方は同族を探す事忘れて等しいわ

どれほど遠距離の友達を作っても虚しいだけでしょう

いい加減旅を始めたら?


私は頬笑みで誤魔化した

気が向いたらな

少女はいつものように溜息をついた


歩くことを忘れた時の旅人様

貴方が歩くだけでも

何かが変わるのかもしれないのに・・・

私は貴方の祈りは受け入れないわよ?


いいさ

私の変わりの分まで

友人が祈ってくれてる


少女が不思議そうに首を傾ける

時を渡る力は空間の思いも読みとるの?


まさか

私は笑った

友人が口癖のように言うから

それを信じてるだけさ


私は少女を見上げる

私が歩みを止めて居ても時は管理されてる

何者かによって

証拠に私たちの同族はいらぬものとされたか激減してる


ただ人と同化してるものが増えてるからじゃない?

でも貴方は歩みもしないのに同化もしないわ


そうだな私の古い知り合いも人に同化して輪廻に戻り

何処に生まれて生きてるかももう解らなくなったな


なにが今の貴方を作るの?


私は目をつぶる

何が私をそうさせているのか・・・

10分はそうしてなかったと思う

目を開いて少し茶化し声で言った

きっとお前と一緒になりたいのかもな


少女に想像通りの困惑が生まれる

私は女でも男でもない

誰のものにもならないなれない

神にも等しき存在


知ってるよ私もまた男でも女でも無い存在だ

神と等しき大きな存在にはなれなくとも

その使途として存在してきた一族だ


・・・・・・からかって誤魔化したわね?

少女が少しムスッとする


おいおい御機嫌はそのままでいてくれよ

折角の明るさが台無しになる

・・・・・・じゃあ罰。今日こそ理由教えて


私は顔を傾けながら

言った

怖いだけさ同化すれば役目を忘れる

歩きだせば役目に縛られる

どちらも怖いから今の私が居る


聞いたことを後悔したのだろう

少女は宙に浮いた

私にはどちらも許されない事だわ

悩めるだけ幸運と思いなさいな


そう言うと月光に同化していく

陽炎のように消えてしまった


残るのは明るすぎる月夜だけ

明るむまで

私はそのまま座り込んで月を眺めていた


確かに身動きとれないのはまだ幸せなのだろう

その生まれた宿命から自由の欠片も無い者たちから見れば



始めて少女と出会った頃を思い出していた

私は夜道を照らすだけ

死んでいくこの小さな命に触れることもできない

さようならも言えないの。許されていないから


変わりに捨てられて命を落とした子猫たちを

木の下に植えた

人も飢え死ぬ時代だったから致し方ないだろう


ただそれをきっかけに少女は不可思議な力を行使するようになった


神も精霊も存在することで役目をなす

そこに行使の力を発揮することは許されて無い


月だけが狂った

だがそれ故に

何にもまして愛おしく万人魅了する


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