爺婆の方舟
その世界の昔、昔のさらに昔の話です
ある世界の中心に名も名乗るほどではない爺婆が暮らしていました
その年、天候が世界中で荒れに荒れてしまい
爺婆が所有している山でも拾う木の実や果実・キノコのどれもが質が悪いものしかとれませんでした
でもとても長い時間生きていた爺婆は質が悪くても食べられる事が幸せな事を知っていました。
その年は世界の没日とまで言われましたが人は生き延びました
生きる為に他の生命を根絶やしにしていき
増えた人間は海を埋め立て山を削り人の住む都市へ変えていきました。
世界の中心に爺婆が暮らしています
世界のどこの人たちが山を買うと言っても頑固として山を守り続けた爺婆は
世界の真ん中で孤立し・・・
世界を汚し死滅させコロニーを作って暮らしてる人間の
あらゆる都市のどのコロニーにも属させては貰えませんでしたが
山の中の洞窟で暮らしていました
空気は淀み生き物は死に絶えたかに思えましたが、ここにだけ生命はいました
コロニーの中で人々は生きる為に人工的な生命をつくり苗を植え、家畜を育てましたが
その命は繋がる事をせず・・・すぐ死に絶えるのでまた新しい人工生命に頼って生きてました
どこのコロニーも人工だけに頼りどんどんコロニーは存続できなくなり
コロニーはにごり淀み病気が蔓延し人々は死に絶えていきます
死ぬ事を恐れた数人の生き残りのさらに一部の人間が世界に唯一残った自然の山を目指しました
言うまでも無い、それが爺婆の山です
コロニーが死滅してく中・・・山の緑が壊れかけた世界を修復し少しですが平地に草花が咲き
小動物や昆虫が生息してました
そして1つの山に少ないですが豊富な生命たちがバランスよく生きていました
そこは正に終末の方舟の様に来た者たちには見えました
爺婆は困って助けを求めて来た者たちを追い返したりしませんでした
山での掟を教えて刈りすぎないよう狩りすぎないよう教え
人々は貧しいながらも山で自然を大切にしながら子孫を増やして行きました
人が増えてバランスを崩しそうになると爺婆は人に草原に降りて暮らすように言います
家族単位で一組二組と山を下りていきます
手には木の苗を大事に抱えてね
人があふれだすようになると又人は過ちを犯しそうになります
でもコロニーに押し戻されると
人は大抵過去の過ちの残骸を目にして心改め
自然と生きるバランスを大事にすることを誓い草原に戻ります
草原が人に溢れ狭くなるとコロニーは取り壊され新しい植物たちを植えます
今度は人口で安易に作ったものでなく
世代を超えて育てた本物の植物たちです
そこには自然から来た動物たちが住み
狩猟で動物たちを食べる事もできるようになります
そしてとある日
山が噴火しました
この世界には山はひとつしかありません
そう爺婆の山です
何人かが爺婆を命がけで助けに行きました
噴火の灰を吸い込み
熱に肌は焼かれ
それでも爺婆の住む洞窟に辿り着きます
爺婆のいる洞窟は・・・
驚いたことになにも熱が来ておらず
灰も洞窟には入ってきませんでした
動物たちもそこへみんな避難していました
爺婆が一人一人に触れていくと
火傷は消え、肺は楽になりました
そして案内されるのです
洞窟の奥に・・・
そこで人は目を見開きます
そこには山も平原も川も海も存在している空間がありました
生命も溢れています
爺婆を助けに来た者はそこで暮らす事をゆるされました
不思議と歳をとることはありませんでしたが
ここには命が溢れてるのに命の生産は存在しませんでした
何もかもが命をもって存在するだけで
殺し合う事も無く奪い合う事も無く
ただ日々の生活が永遠に続くだけの世界でした
月日が流れ現在になりました
爺婆に何人かの人が集まり言います
元の空間に帰りたいと
爺婆は寂しそうに首を横に振ります
「それだけはできないのだよ」
爺婆が触れるとその者たちはかき消えるように空気に混じって姿をけしました
一人の人間が聞きます
「あんた達何者だ?消えたのはどこに行った?」
爺婆は元の世界に生まれ変わった事を伝えます
「あんたたちは神様か?」
爺婆が言います
神様はもっと遠い存在だと
自分たちはただここを守ってるにすぎないと
「なんであんたたちなんだ?若いのはもっといなかったのか?」
爺婆は言います
解らないと
でも独りなら寂しいかろうて
若ければ生きたかろうて
自分たちは二人だった
年老いてるから生きる事に興味は無くなってた
年寄りだから生活する大切さも生活する根性も身についてた
「だから山をこの不思議な場所を引き受けたのか?」
爺婆は顔を見合わせる
そして暫く考え込んだ
そしてやっと声が出た時爺婆は強く手を握り合ってた
わたしらは普通にこの山を先祖から受け継いできた
この山はただの普通の山で
わたしらはただの年寄りだった
いつからかはわからない
死に絶える覚悟で森を守る時があった
世界は狂い始めてて
世界は滅びに向かってたと思う
人がコロニーで暮らし始めた時
この山は死んでしまうかもとおもっとった
だが動物が集まり始めた
知らぬ植物が生えるようになった
ワシ等はいつまでも死ぬ様子がないことに気が付いた
そしてある日突然じゃった
家の変わりにつこおとおった洞窟が抜けた
・・・・・・
最初は理解できなかった
だが月日がワシ等にそれらを受け入れさせた
何ができるかも教わってはおらぬ
何が使命かも伝えられてはおらぬ
だがワシ等は守られてることだけは理解した
考えても見れば最初から変だった
山を買いに来る輩は多かったが
コロニーは国の事業じゃ
否、世界の事業だった
なのにこの山は残された
いつ死んでもおかしくない老人二人など
国は世界は殺してもおかしくなかったのに
何故か兵も警察も暗殺者も来なかった
選ばれたと言えばおごりじゃろーて・・・残された
ここの生き物たちと同じようにな
そう言って爺婆は肥沃な異界の空間を眺めた
質問した人たちが消えると爺が言った
「お前はここいいる事を後悔してるか?」
婆は静かに応える
「貴方が先に言ってたじゃないですか
若ければ他の欲もあったかもしれません
あの恐慌の中、森を捨てれればあたしらは普通に死ねたかもしれません
貴方は森の大切さを知ってなさった
世界が事切れる瞬間の中
あたしらはそこにいる生き物を大切にし
貧しければ貧しいなりに
乏しければ乏しいなりに
少ない物を質の悪い物を皆で分け与えて生き延びました
自分に与えられた在り方が他のものと違っても
貴方の存在だけは変わりませんでした
二人だからこうして居れると思いませぬか
年老いた私らだから永遠も受け入れられた気がします
でも終わりが来ましたよ
世界は生き延びる事ができたようです」
爺婆は顔を見合わせると抱き合った
そのままかき消えていくように二人の姿は無くなった
そして・・・存在していた異世界もまるで幻のように
全てが光り輝いて空に昇っていくと消えていった
そこにはただの洞窟の壁が生まれていた
爺婆も異世界も無くなった事をしると
山に爺婆を助けにきた人々は山を降りた
人の倍の寿命を若いまま皆暮らしたが
同じようにある日かき消えていった
残されたのは
この話だけである
後に再生元年とされる世界第二次歴史の始まりの神話だ
この世界には海も山も無かった
だが世界は生き延びた
これから雨や湧水が川を作り海を作り
地から吹き出す噴火は山を作り
自然豊かな世界になる
爺婆を助ける為に一つの山を登って
降りて来た人たちは精霊族と呼ばれ
人とは分化した命になる
そして人もまた一からの文化を作っていくわけだ
これは本当に古い古い世界のさらに古い昔話でした
爺婆は優しかった。逞しかった。尊かった。強かった
名前もつけられないけれどこれから誰も忘れない
子供でも知っている爺婆の存在・・・貴方も忘れないでね
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