ゾンビと新米冒険者 1
一口に冒険者といっても、当然ながらその実力は千差万別。その強弱も、得手不得手も、個人個人で大いに異なる。
例えば、腕力に乏しいが魔力に優れる者。臆病だけど慎重な者。経験は少ないが知識は豊富な者。そして、腐った脆い身体を持つが決して死ぬことのない者。
多種多様、様々な技術や才能を持った冒険者を私は知っている。だけど、どういう能力が冒険者として最適で最高の力なのか、未だに分からないってのが本音だ。
どれだけ力が強くとも、腕力で解決できない問題なんて山ほどある。どれだけ頭が回ろうが、身体がついていかなくては役には立たない。
例え不死だったとしても、無敵などでは決してない。それは私自身が身を持って知っている。
強さってのは一元的なものじゃない。どんな能力も、時と場合とでその真価を大きく変える。
だから私は、この類いを格付けするのがあんまり好きじゃない。こいつは弱いからダメ、あいつは強いから良い──なんて、乱暴すぎる区別、つまらないじゃんか。
ただ、そんなのは私の好みの話。現実は区別も格付けも必要不可欠で、冒険者の間にも必然それは存在する。
強くなければ価値を示せない。価値がなければいる意味がない。でも……その強さって、はたして一体どんなモノ?
こうして『不死』たるゾンビは今日も一人、理想のパーティを組む為の考え事に頭を巡らせるのであった。
城下町の酒場『灰兎亭』。そのカウンターの隅っこ、ちょうど柱の陰に隠れた所が私のいつもの指定席。店の景観を損ねないようにと、ギルドマスター兼店長のダリオルに強制的に座らされたのが始まりだけど、今じゃそれなりに気に入っている。
確かに目に留まりづらいけど、反面こちらからは見渡しやすい。入り口からどんな人が入って来たか、二階で冒険者たちがどんな世間話に花を咲かしているか、よく把握できる特等席だ。
普段から私が座ってるせいで、なんかゾンビ的な液体が椅子に染み込んでいるのは気になるけれど……、原因自身なだけに何とも言えない。むしろ、気付かれないようにしなくては。
そして、この特等席最大の利点。それは、ここに座ってるとカウンターの向かい側で仕事をしている我らがギルドの受付嬢、アリアと会話がしやすい事だ。
「ぐぁ~ぎぃ~ぐぁ~」
「あら? どうしました、ゾンビさん。そんな、まるで十日続けて二日酔い状態が続いたときのマスターみたいな呻き声をあげて……」
あんな駄目人間と同列に扱われるのは流石に心外だけど、アリアの言い様も尤もだ。
もちろんゾンビたる私に二日酔いなんて無縁だし、そもそも飲酒した覚えもないのだけど、へべれけなダリオルと同じくらい情けない状態であることは事実かもな。
「もしかして……この前のこと、まだ引きずっているんですか?」
「ぐぁう~」
こうも事実をズバリ指摘されると、ぐったり項垂れてしまう。
そう、私は柄にもなく引きずっている。出たとこ勝負だったこれまでと違い、しっかり考えを練って挑んだパーティ作り作戦が見事失敗に終わってしまったことを。
落ち込んで拗ねてるわけじゃない。どうしたものか思案を巡らせているんだ。
あれで無理だったとなると、やっぱり熟成したパーティに強引に取り入る策は難しいと言わざるを得ないかもなぁ。
…例えば、仲違いした熟練者同士のパーティが喧嘩別れしたところを狙い打ちに勧誘するって作戦はどうだろう。
うーん、そんな都合よく喧嘩別れしてくれそうなパーティが思い浮かばない。
或いは、死に別れして残された方を──いやいやいや! 流石にこれは不謹慎すぎる考えだ。いくら腐っているとはいえ、考え方まで腐ってちゃ論外だ。そんなヤツに素敵なパーティを築く資格なんてないもん。
こんな堂々巡りの思考のサイクルを、頭の中で走狗の如く駆け巡らせるだけ。そんなことではなんにも前には進まない。
だから助言がほしかった。特に、私の知り合いの中で最も相談相手として適切なアリアから。
「ゾンビさんの容姿に慣れていて、その能力を見ても臆さないという点ではベテラン冒険者狙いという選択は有りに思えたんですけど。ただ、グレンさん達のような友好なパーティに後乗りするのは難しかったのかもですね」
「ぐぁぎぃがぐぃー」
「かといって険悪なパーティに入り込むのはゾンビさんの方から願い下げでしょうし……ううん、悩みどころですねぇ」
私みたいのが選り好みするのもどうかとは思うけど、流石に互いの力と金銭以外何も信用していないみたいな剣呑な雰囲気のビジネスパーティはお断りだ。
そもそも、そんなパーティが長続きするはずもないし。
「ん~、やっぱりですね。ゾンビさんはゾンビさんの最大の長所を活かすべきだと思うんですよね! 私的には」
「ぐぉうぐお?」
「そう! ゾンビさんの長所。冒険者としての実力と、それに裏打ちされた実績と地位! ここさえしっかりアピールすれば、些細な……うん、それなりの弊害なんて目を瞑ってくれるはずなんです」
なんで些細を言い直したのかは気になるけれど……うん! 説得力はあるね。
「だから今度は短所を受け入れてくれる人ではなく、長所を欲している人を狙ってはどうですか?」
アリアは眼鏡の蔓をクイッと上げる。何てことない仕草なのに、何だかとっても賢そうにみえる。
「ゾンビさんの肩書きは、冒険者として最高のもの。そんな超一流の証を持った冒険者なんて、本来引っ張りだこのはずなんです。それでもゾンビさんはゾンビだから余ってる。なら──」
「ぐうぐう!」
なんと聴かせる語り口。少しでも早く次を聴きたくて、ついつい前のめりになってしまう。
「不安を払拭する為に強さを求めている、そんな自信なさげな新米冒険者を狙うんです。自分の弱さを自覚している冒険者なら、例えゾンビが恐ろしかろうともぶら下がった最上位の肩書きに飛び付くはず」
……うんうんっ! 確かに。そこそこ理に敵ってはいるかも。
必要だから、譲歩する。この考えは、パーティ作りにおいて重要な観点だ。私がパーティに必要な力になれば、誰も私を手放せない。例え私がゾンビであろうとも。
それに、前に私を見て逃げた新入り未遂の青年冒険者と違い素人同然の冒険者なら、逆に
なんたって、経験浅い冒険者ほど逃げの判断が遅いものだからね。
「だからゾンビさんが今勧誘すべき対象は、経験がゼロに近い意欲的かつ自信の欠けた新米冒険者だと思うんです。どうですか!?」
「ぐぁぐぅおうぉ~」
ふむふむ、確かに非の打ち所は思い付かない。
食い入る私の反応を一瞥すると、アリアは嬉しそうに胸を張る。
「で、ですねー。なんと私には、今言ったような相手に心当たりがあるのです。ゾンビさんが望むなら……ふふっ、紹介しましょうか?」
綺麗な顔を少し歪めて、知的な笑みを浮かべるアリア。美人で仕事が出来て頭が良い。にも関わらずそれをかさに着ず、誰相手でも分け隔てなく接する社交性。
多少毒舌な節はあるけれど、アリアは『灰兎の
救いの神の救いの手。やっぱり信ずるべきは、持つべき受付嬢だ。
「ぐぁう!!」
興奮の声をあげ、首を縦に振る。余りに勢いよく振りすぎたせいで、頭がカウンターの向こうにぶっ飛んでいってしまったが、そんなことはこの昂りの前では些細な問題だ。
……その飛んでった頭が食器棚に直撃し、大きな破壊音を響かせてることも。
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