ゾンビとベテラン冒険者 2

 私、ゾンビはこれまで、新規に冒険者登録された新入り冒険者ばかり狙ってパーティ勧誘していた。

 一定以上の経験を経た冒険者は殆どの場合既に固定のパーティを組んでいるし、一部例外の変わり者は今更ゾンビなんて異物とパーティを組もうとなんてしない。


 実際、パーティ勧誘を始めてすぐの頃は知り合いのベテランギルドメンバー達に声をかけ、結果その数だけのお断りをされた。


 新入りからは怯えられ、ベテラン組には今更入り込めない。変わり者のソロ専はそもそも仲間を求めてない。

 まさに八方塞がり。だけど、光明はある。


 そう、席が埋まっているのなら、その席が空いた一瞬の隙をつき、奪いとる。得たいものを得るのに大切なのは、恥を捨てた積極性と行動力。


 ふふふ、このゾンビ、もう手段なんて選ばないもんね。




「ぐぉえあぃうぁいあうー」


 『灰兎亭』の二階には、一般客は余りおらず、主に冒険者達が屯っている。

 理由は単純。ここにはギルドに宛てられた依頼書を掲げた掲示板があるから。


 職業冒険者の定義とは、この依頼クエストをこなし、報酬を得て、日々を暮らしている者のこと。

 冒険者としての生きるのだって、言うほど自由気ままって訳じゃない。


 私が話かけたのは、そんな掲示板の前で吟味中の知り合い二人組だ。


「おわっっ! ……ってゾンビじゃん。びっくりすんなぁ。急に声かけんなよ、心臓に悪い」

「エー、今更びっくり…する? もうとっくに見慣れたでショ。ボク的には、びっくりしたグレンの顔のがびっくりモノだったケドね」

「うっせぇなぁ。シルフだって初見の時ゃひっくり返ってたじゃねえか」

「はァ? それは自分じゃんカ。なすり付けるとか、カッコ悪ぅ」


 赤く伸ばした髪と背中に背負った双剣が特徴の若い男グレンと、色の薄い瞳と手に握られた背丈程ある巨杖が特徴の小柄な女シルフ。


 勝手知ったる二人の会話は、いつもこんな感じだ。気心知れぬ間でのみ許される柔い喧嘩腰。


 正直、妬ましいし羨ましい。私が喉から手が出る程に欲しいモノ。


 二人は私と知り合うずうっと前からパーティを組んでいる冒険者だ。つまり、私よりもずっと古株のギルドメンバーってことになる。

 今更私を見ても必要以上に恐がったりなんかしないし、冒険者としての実力と経験値も申し分ない。そして何より──


「で、どうしたの? ボクらケッコー考えごとで忙しいンだケド」

「バルストイの奴が怪我で離脱して休業中。うちのパーティ要の盾役がいなくなっちまってっからなぁ~。日銭の為には依頼クエストをこなさなきゃならねぇけど、はてさて何が出来るかなってさ」

「バルストイったら、未登録魔物の捕獲依頼で頑張りすぎちゃったからネ。頼りにはなる奴だケド、張り切りすぎて引き際を見失うとこあるんダヨ。バカだから」

「バカだから、な」


 パーティのリーダーに散々な言いっぷりだけど、これも信頼ってものの形の一つなんだろう。


 そこそこ古参の一流冒険者パーティである彼ら。だからこそ、慣れ親しんだ固定パーティの一人が怪我で欠けてる現状、冒険に二の足踏んでるだろうと思ってたけど──ふふ、予想通り。


「ぐあ、あがぐぃおぐうぅげ」

「いやいや、なんて言ってっかわかんねぇって」

「ぁう!」


 グレンとシルフの目の前で予め用意しておいた紙を広げる。もちろん、ダリオルのアンポンタンから奪い返した私の一筆だ。


「えっと……『パーティにゾンビは要りませんか』って?」

「あれ? ゾンビってソロ専じゃなかったっけ。……もしかして、バルストイが休養中だからボクらを心配してくれてンの?」


 バルストイが欠けて以来、あまり『灰兎亭』に来ていなかった二人は、最近の私が仲間を求めて手当たり次第勧誘してた事実を知らないみたいだ。

 心配してたかと言われると心苦しいものもあるけど、まあ、こう思って貰えるほうが心証いいだろうな。


 ゾンビな首が取れんばかりにブンブン首肯してみせる。


「ソロ専って偏屈な奴ばっかで、ゾンビはその筆頭だと思ってたケド、意外と気の利くトコあんネ」

「──だな。まあ、急造パーティってのはちょっと不安だが、ゾンビの腕は信用出来る。いいんじゃないか?」

「グレンと二人っきりじゃ、頼りなくて一向に冒険にでれないモンね。正直懐寒くて困ってるし、ボクもいいヨ~」


 ──っっっっつ、やったあぁ!!!


 怪我で欠けたメンバーの代理としてパーティの席に座り、その席を確固たるものにする。

 ちょっと小狡い手な気がしなくもないけど、冒険者は実力勝負。知らないもんね。


 ──よぉし。あとは、実力を示すだけさ。 


 ぐふふ、今からダリオルたちバカ者共の驚く顔が目に浮かぶなあ。

 

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