第一部 第十三章 隠された力は、どこから生じるのか

 磁石には鉄を引き寄せる力が存在する事と、ダイアモンドが磁石の力を奪う事は、全ての人々に良く知られている。

 琥珀コハクと炭をこすり合わせると麦わらを引き寄せる。

 石綿アスベストは燃えると消火が困難である。

 赤色の宝石カーバンクルは闇の中で輝く。

 イーグルストーンは、若い女性や若い果実より上に置くと女性や果実を強めるが、下に置くと発育不全を引き起こす。

 碧玉ジャスパーは止血する。

 あるコバンザメは船を止める。

 ルバーブという野菜は短気を追い払う。

 カメレオンの肝臓を燃やすと、にわか雨と雷が起きる。

 ヘリオトロープとも呼ばれるブラッドストーンは目をくらませて、ブラッドストーンを身につけている者を目に見えなくする。

 リュクリウス石は目の前から錯覚を除去する。

 リッパリス石の香りは全ての獣を呼び寄せる。

 シノキティス石は地獄の霊を呼び寄せる。

 アナキティス石は神々の映像を出現させる。

 エンネシスを夢を見ている者の下に置くと神託が起きる。

 ある薬草がエチオピアには存在していて、池や湖を干上がらさせて、池の中に閉ざされていた全てのものを公然と成らせる、とエチオピア人は話している。

 ラタシェと呼ばれる薬草は、ペルシャの王が王の代理人へ授けると、どこへ代理人が来ても、代理人が全てのものに満ちあふれる、と記されているのをコルネリウス アグリッパは見た事が有る。

 ある薬草がスキタイには存在していて、食べるかくちに含んでいると、十二日間スキタイ人は飢えと渇きに耐えられる、とスキタイ人は話している。



 「人が永遠に長生きできる多数の種類の薬草や石が存在するが、人が永遠に長生きできる薬草や石の知を理解する事は正しくない。

なぜなら、実に、人は、短い時間だけ生きて、全力で害を学び、悪の全ての様相を試みるべきである。

もし、人が長生きできると確信したら、人は神々のために自身の身を削らないであろう」と神託がアプレイウスに教えてくれた、とアプレイウスは話している。



 しかし、ものの性質についての膨大な書物を記している全ての人々は、薬草や石などの力が、どこからの物であるのか、全く明らかにしていない。

 ヘルメス、ボッカス、アーロン、オルフェウス、テオプラストス、テービト、ゼノテミス、ゾロアスター、エヴァクス、ディオスコリデス、ヘブライ人のイサク、バビロニア人のザカリアス、アルベルトゥス、アルノルドゥスは、薬草や石などの力が、どこからの物であるのか、全く明らかにしていない。

 けれども、ヘルメスなど全ての魔術師は「大いなる力と人の運命は石と薬草の力の中に横たわっている」という同じ事を認めている。

 ザカリアスはミトリダテスに「大いなる力と人の運命は石と薬草の力の中に横たわっている」と書いている。


 薬草と石の力が、どこから来るのか知るには、より高い考察が必要である。


 アリストテレス学派のアフロディシアスのアレクサンドロスは、感性と資質によって、「四大元素が薬草と石の力をもたらす」という意見であるが、

薬草や石が同じしゅであれば、「四大元素が薬草と石の力をもたらす」という意見の質は多分に真実であると思われる。

 しかし、石の諸作用の多くは、種類ともしゅとも一致しない。

 そのため、プラトンとプラトン主義者は、薬草と石の力の原因は、ものの前身である、「イデア」、「原型」であると考えている。

 しかし、

アヴィセンナは、薬草と石の力の作用の原因は知的存在である善良な霊的存在である、と考えている。

 ヘルメスは、薬草と石の力の原因は星々である、と考えている。

 アルベルトゥスは、薬草と石の力の原因は、ものの特殊な形である、と考えている。


 プラトン達、魔術の権威は相互に考えをはばんでいるように見えるが、

プラトン達の考えを正しく理解すれば、プラトン達の考えは全て真理から外れていない。

 なぜなら、プラトン達の言葉は全て、ほとんどのものにおいて、結果的に同一である。


 なぜなら、第一に、神は全ての力の最初であり最後である。


 神は「イデア」、「原型」のしるしを神の従者である知的存在である善良な霊的存在に託す。


 知的存在である善良な霊的存在は、

(「ティマイオス」でプラトンが話しているように、)王である神の中に存在する形を、受け取ってから、星々によって伝えるまでの間に、物質を配置して、

神に忠実な役人として、「イデア」、「原型」の力、天、星々を手段として、神から託された全てのものに署名する。


 星々といった、形をもたらすものは、神の知的存在である善良な霊的存在の助けによって、形を流通させる。


 神は神の知的存在である善良な霊的存在を神の作品の統治者、管理者としている。

 神は、知的存在である善良な霊的存在に託しているものである薬草や石などの力を、知的存在である善良な霊的存在に託している。


 そのため、石、薬草、金属といったものの力は全て、統治者である知的存在である善良な霊的存在からの物である、としても良い。


 このため、ものの形と力は、第一には、「イデア」、「原型」から来る。

 ものの形と力は、第二には、ものの形と力を統治している知的存在である善良な霊的存在から来る。

 ものの形と力は、第三には、天が配置している占星術のアスペクトから来る。

 ものの形と力は、第四には、天の感化力に応じて、天が配置している四大元素の傾向から来る。


 そのため、下のものでは、おもてに表れている形が、石、薬草、金属などの作用を発揮する。

 天では、配置している力が、石、薬草、金属などの作用を発揮する。

 知的存在である善良な霊的存在では、仲介している法則が、石、薬草、金属などの作用を発揮する。

 「第一原因」である神では、「イデア」、「原型」が、石、薬草、金属などの作用を発揮する。


 形、力、法則、「イデア」、「原型」は全て、結果の達成と、全てのものの力において、必然的に一致する。


 このため、全ての薬草と石には不思議な力、作用が存在する。

 ただし、一つの星には、全ての薬草と石を超越している、より大いなる不思議な力、作用が存在する。


 全てのものは、星を統治している知的存在である善良な霊的存在から、特に第一原因である神から、多数のものを受け取って獲得する。


 神によって、全てのものは、言わば賛歌におけるように常に全てのものの無上の創造主をたたえて、唯一に調和的に一致して、相互に正確に調和する。


 「アザルヤの祈りと三人の若者の賛歌」の炉の中の三人の子のように、

全てのものは、歌って神をたたえるように求められている。

 人の子達と共に、地上で成長する全てのもの、水の中で動く全ての者、天の全ての鳥、獣、動物は、しゅである神をたたえなさい。


 そのため、神という唯一の、諸結果の必然の原因だけが存在する。

 このため、第一原因である神と全てのもののつながりと、神の永遠の「イデア」、「原型」と全てのものの一致が存在する。


 原型の世界で全てのものが定められた独特の立場を持つ所から、全てのものは生きて独自の存在を受け取る。

 薬草、石、金属、動物、言葉、話す事の全ての力と、神の全てのものは、原型の世界に存在する。


 第一原因である神は、知的存在である善良な霊的存在によって実行するし、下のものによって作用するが、直接的に自分で実行する時が有る。

 神が直接的に実行する事を「奇跡」と呼んでいる。


 プラトンなどが「従者」と呼んでいる第二原因(である七つの霊である七大天使)は、第一原因である神の命令、任命によって、当然、実行するので、結果をもたらすために必要とされるが、

もし神が、神意に従っているにもかかわらず、第二原因(である七つの霊である七大天使)を解任して一時停止させて、第二原因(である七つの霊である七大天使)が完全に命令、任命をやめれば、神が直接的に実行する事を「神の最も大いなる奇跡」と呼んでいる。


 このため、(神の奇跡によって、)カルデア人の炉の火は、「アザルヤの祈りと三人の若者の賛歌」の子達を燃やさなかった。


 また、(神の奇跡によって、)ヨシュアの命令によって、太陽は、一日分、逆行した。


 また、(神の奇跡によって、)ヒゼキヤの祈りによって、太陽は、十度か十時間、逆行した。


 また、(神の奇跡によって、)イエス キリストが十字架にはりつけにされた時、太陽は暗くなって、満月でも暗かった。


 神の奇跡の作用の理由は、論理的な話によってでも、魔術、隠された学問、奥深い学問によってでも、発見したり理解したりできないが、神託によってのみ、知る事ができるし、調べる事ができる。

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