Life2-17 幸せな結婚スローライフ
魔龍の襲来という前代未聞の事件が起きた俺たちの結婚式は結果から言えば、無事に終わった。
リュシカとユウリにより怪我人はゼロ。街への被害もなく、より勇者パーティーの力を外部に示す機会となった。
後にわかったことだが魔龍は魔王にテイムされていた魔物だったらしい。レキとユウリが証言していたから間違いないだろう。
同じく魔物をテイムして使役するリュシカによれば主人を失い、途方に暮れていたところ己を倒したレキとユウリを追いかけてきた可能性が高いとのこと。
人々を襲おうとしたり、灼熱の光線を撃ったのは自身の力を新たな主人にアピールするための好意らしい。
魔王が人々を殺していたのを見て、同じように人々を蹂躙すれば仕えられると考えたのかもしれない。
「おいで、ポチ。ご飯」
「GAU!!」
というわけで、今は我が村でレキのペットとして飼われている。
どうやら最後の最後で体を翻して絶命は逃れたらしく、王都近辺に落ちていたところをレキがテイムした。
今では大きい首輪をつけられ、皿に載せられた豚の丸焼きにかぶりつく魔龍。
ウルヴァルト様は頭を悩ませていたけど、レキが飼うならばいいかと許可が下りていた。
「う~ん……とんでもない光景だ」
まぁ、本人が幸せそうならそれでいいか。
「ふふっ、今晩は私たちもペットプレイですか?」
「ハハッ、ユウリは相変わらずだなぁ」
「褒めてもまだ母乳は出ませんよ、ジンさん」
「ダメだ、ツッコミが間に合わない!」
くねくねと腰をくねらせるユウリ。
彼女の性欲はとどまることを知らず、ついには普段からこんな下ネタが飛び出すようになってしまった。
幼い頃の教育は人格の形成に大きく影響すると言うがまさかここまでとは……。
「……ジンはそういうのが好きなのかい?」
「真に受けるな、リュシカ。全部ユウリの戯れ言だから」
「じゃあ、どういうプレイが好みなんだい?」
「……なんでみんなそういうことばっかり聞くの?」
「「それはだって……ねぇ?」」
二人の怪しげな視線が俺を射貫く。
……いや、俺もわかっているのだ。彼女たちがこんなどストレートに質問をしてくる意図は。
なぜならば、今日の夜……俺たちは初夜を迎える。
この新居にだって、つい昨日帰ってきたばかりなのだ。
男爵位を授かったため、他貴族との顔合わせ。
結婚式についての取材。各国へ喧伝するための勇者パーティーとしての絵画モデル。
ポチについての取り扱いを決める話し合いなど……他にも挙げれば枚挙に暇がない。
結局、結婚式についてはひとまずはアレでいいらしい。
俺はやり直したいんじゃないかと思ったけど、三人が納得したなら何も言わない。
理由を聞いたら「もう一回やったら、他の奴らもねじこんできそうだから」とか言っていたけど他の奴らって誰だろう。
心配しなくても、俺はよその貴族の娘さんを貰うつもりなんてないけど。
そう伝えたら全員からため息を返されたのは、あまり思い返したくない思い出だ。
そして、その後にユウリから求められたのだ。
『明日は特別な日にしたい』と。その意味がわからないほど鈍感じゃない。
俺も了承し、彼女たちの今の状況につながるわけである。
「三人とも何の話をしているの?」
「あっ、おかえり、レキ」
「今晩の話をちょっと。レキちゃんも気になりますよね~」
「ううん、別に」
「最近、この子が冷たいんです!」
そんな反抗期の娘に接する母親みたいなこと言わなくても。
「まぁ、レキはまだ子供だからね。あんまり興味が無くても仕方がないか」
「むっ。子供じゃないもん。大人だもん」
「そうだね。レキも成人したもんね」
「むぅー」
リュシカに子供扱いされて、レキはご不満の様子。
ほっぺがパンパンに膨らんでいた。
「だって、ジンは私が大好き。私もジンが大好き。だったら、どんなことがあっても幸せ」
「聞いたかい、ユウリ。これが真実の愛を持つレキのありがたい言葉だよ。子供なのはどっちかな?」
「すぐに裏切らないでくださいよ! ジンさ~ん、みんながいじめてきます~!」
「はい、よ~しよし。慰めてあげるけど、変なところ触ったら突き飛ばすからね~」
「……っ!」
あっ、背中から腰に移動していた手が止まった。
こういうことをしているからそんな役回りになるんだぞ。
「だから、今日はみんなで仲良く一日を過ごす。うん、これがいちばん」
「……そうですね。レキちゃんの言うとおりです」
「でしょ? ぶいぶい」
今日の勝利のダブルピースを決めて、レキはどやっと口端をつりあげる。
だけど、すぐにいつもの無表情に戻った。
大きなお腹の音が彼女から鳴ったからだ。
「それよりもお腹空いた。私たちもご飯にしよう」
「今日の当番はユウリか。……ということは」
「はいっ! 皆さんの予想通り、今日のご飯はたっぷり精がつくものですから、ジンさんっ。たっくさん食べてくださいね」
すでに作り終えていたらしい品々をテーブルに運んでくる。
俺からの抗議の視線にユウリはウインクを返してくれた。
かわいいでごまかそうとしている彼女も彼女だし、それで許そうと思ってしまう俺も俺だ。
でも、これは仕方ない。惚れたものの弱みだ。
俺がみんなを大好きなのは事実だし、きっとこれからも変わることはない。
みんなと一緒に時間を過ごせる。
それが何よりも幸せなことだから。
「……ハハッ、明日の朝日が拝めるかな」
今はこの愛おしいひとときを楽しもう。
俺たちの幸せな結婚スローライフはまだ始まったばかりだ。
◇いよいよ書籍版販売開始です!!
五割以上の加筆・修正をしました。web版には出ないヒロイン候補もいるので、ぜひお手にとっていただければ……!!
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