Life2-10 28××歳のエルフお姉さん
「なんだかとんでもないことになっちゃったな」
「フフフ、可愛いものじゃないか。あれはまさに青春。年長者として私は受けてあげるつもりだよ」
「さすがリュシカ。ずいぶん余裕だな」
「私のあなたへの愛を舐めてもらっては困るな。汚い言葉になってしまうけど、齢二十にも満たない小娘に負けたりしないよ」
「男だけどね」
王城でのアキラの啖呵はなかなか衝撃的なものだった。
彼はどうも本気らしく、結婚式の行程を確認するための遣いに同行して、レキたち花嫁さんの力量を測るらしい。
彼女たちが俺を幸せにできないと少しでも思ったなら、結婚は絶対認めないとのこと。
ちなみに俺の意見は最後まで求められなかった。
当事者なのにおかしいね。泣いちゃおうかな。
「この件はレキたちにもしっかり話さないと」
「うん。でも、二人もきっと私と同じ反応をすると思うよ」
「リュシカよりも武闘派だからね」
「正解」
カラカラとリュシカは笑う。
俺たちは来る時と違って、馬車で村までの道を帰っている。
当然ただの馬車ではなく、狂骨竜人と風切剛馬と呼ばれる馬型の魔物が引く超高速の馬車だけど。
揺れが少ないのはリュシカの魔法によって軽減しているから。
「なんでも不便が魔法で解決できるんだから、どの国も魔法使いを求めるわけだ」
「褒めてくれるのは嬉しいけどなんでもはできないさ。私にだってね」
「ハハッ、謙遜か?」
「結婚」
「…………」
「結婚相手はどうやっても作れないからな。アハハ……アハハハ……!」
「で、でも、今は俺がいるじゃないか! 愛してるよ、リュシカ!」
「うん……リュシカも好き」
自虐が思ったより効いたのか、リュシカは甘えるように寄りかかってくる。
こうして彼女が馬車での帰宅を選んだのも二人で過ごせる時間を少しでも長く楽しみたかったからと言っていた。
1日以上の滞在はレキとユウリに本気でボコボコにされかねないので、これが妥協点みたいだ。
「しかし、本当にリュシカの魔法はすごいよ。前から疑問に思っていたんだが、魔物たちはどうしてあんなに従順なんだ?」
「ああ、それはちゃんと倒してから【
「なるほど。でも、リュシカの目が離れていたら暴れるのも逃げるのも自由なんじゃないか?」
「契約違反をしたらすぐわかるようになっている。生殺与奪の権を握っているのは主人である私だからね。テイムされた魔物が本当の意味で自由になれるのは、主人が何らかの不幸で死んでしまった時だけだよ」
「そうだったのか……。勉強になったよ。教えてくれてありがとう」
「いえいえ。ジンもテイムに興味があるのかな? それだったら私が教えてあげられるけど」
「本当か? すごい便利そうだし、時間に余裕もある今ならちょうどいいかもしれないな……。うん、よろしくお願いします」
「もちろんだとも。私はジンのお願いならどんなことでも断らないよ。どんなことでもね」
そう言って意味深に笑うリュシカの手は俺の太ももをスリスリと撫でていた。
リュシカも処女だから童貞の俺と同じレベルなのに頑張ってお姉さんぶろうとしているところもリュシカの可愛い長所だ。
圧倒的に年上のお姉さんが無理に背伸びをしている姿はとてもいい。
「どんな家が出来ているかな。ユウリがいるから変な事にはなってないと思うけど」
「狂骨竜人も置いてきたし、もう完成していてもおかしくないね。彼らは疲れないし、手先も器用だ。材料がすでに揃っている状態なら特に不自由はしていないはず」
確かにこれだけの速度を出す馬車をなんなく運転するくらいだから、ひどい作りにはなっていない安心感がある。
肝心の中身は設計図の問題で、とんでもないことになっていそうだけど。
……本当にあんなに子供部屋作ったのかな……。
新居の面構えを楽しみにしながら、村へと続く森を駆け抜けていく。
「……あっ、見えてきた!」
明らかに周囲とは色が違う小さな点はどんどん大きくなっていく。それが家だとわかるようになった頃には俺たちは窓から顔を出して、大きく見上げていた。
……え? 屋敷が出来てる?
「あれは……設計図よりもグレードアップしてるね」
「……ということは」
「うん。レキとユウリが何かを思いついたんじゃないかな。例えば……子供部屋が足りないから増設したとか」
「十五室で不足!?」
それが指し示す事実に足が震え始めた。
俺はこれからどんな目に遭うのだろう。
魔王軍との戦いで消費できなかった欲望が反動して、言動にとんでもない影響を及ぼし出している。
そんなも魔王軍と真っ向から戦って、倒してきた体力を持つ二人と子供づくりか……。
本当ならば桃色な展開に興奮するところなんだろうが、先に命の危険への恐怖が回ってくる状況は話が別である。
「あれ? どうしたんだい、ジン。ずいぶんと顔色が悪い」
「……リュシカ。お前だけはちゃんと常識の範囲で済ませてくれるよな?」
「さっきも言っただろう、ジン。あなたが望むことならなんでもしてあげたいって」
「リュシカ……!」
やっぱり俺の味方はお前しかいないんだ。
あの時はノリノリでユウリと話していたけど、ちゃんとお願いすればわかってくれると俺は信じていたよ。
「どんなに出しても精根尽きない魔法薬を開発するから安心してほしい!」
やっぱり俺の味方はアキラしかいないんだ。
あの時はノリノリでユウリと話していたけど、ちゃんとリュシカもそっち側なんだな。
裏切られたよ。
「あれ? おーい、ジン〜? もう着いたよ〜?」
快楽と地獄が入り乱れる性地に着いてしまったらしい。
俺はリュシカに腕を引かれるまま、馬車から降りる。
すると、ちょうど向こうも気づいていたみたいでこちらに駆け寄ってきた。
「お二人とも、お帰りなさい」
「ジン! おかえり……!」
「ただいーー消えたっ!?」
ユウリのそばにいたはずのレキの姿が消えた……と認識すると同時にお腹にピッタリと張りついていた。
「私、頑張った。褒めて」
「そっかそっか。よーし、よくやったぞ」
「んふー」
頭を撫でると満足気にニンマリとするレキ。
そんな彼女の純粋な表情を見て、俺も毒気が抜かれる。
レキは俺に褒められたくて、すごい家にしてくれたんだろうな……。
「すごい家、できた。立派。ジンもうれしい?」
「……ああ、すごく嬉しい」
「なら、よかった。リュシカの魔物もいっぱい手伝ってくれた」
「役に立てたみたいで何よりだよ。君たちもよく頑張ったね、お疲れ様」
リュシカが褒めると、家の周りで片膝をついていた狂骨竜人たちがそれぞれマッスルポーズをとって仕事っぷりをアピールしていた。
彼女が道中で話してくれた通り、言うことを聞いて大活躍だったみたいだ。
「あっ、あと、ユウリも」
「そうですよ! なんで私がオマケみたいな扱いなんですか! 私の指示がなかったら、どうやって木材を積み重ねるのかもわかっていなかったのに」
「うん。だから、ジン。ユウリも褒めてあげて」
「ユウリもみんなを指示してくれてありがとう。お疲れ様」
「ふわぁ〜」
よしよしと頭を撫でると、ユウリからゆるふわな甘い声が出てくる。
ほっぺがとろけてる。面白いな……。
このまま撫で続けてたらどうなるんだろう、と思っていると、急にキリリと表情筋が引き締まった。
「そうだ、ジンさん! 私、まだしてないことがあるんです!」
「してないこと?」
「そうです! いいですか? ちゃんとノってくださいね?」
オホンと咳払いをすると、わかりやすいくらい表情を作って、下からこちらを見つめてくる。
ユウリは自分が最も可愛く映るポジションを把握しているらしい。
「……あなた、おかえりなさい」
あっ。あ〜っ。
思い出した。ユウリを納得させるために言ったな。
待機していたら新婚ごっこができると。彼女はまさにそれを実行しているのだろう。
となれば提案者として無碍にするわけにはいかない。
「ああ、ただいま。出迎えてくれてありがとう」
「ふふっ、早くあなたの顔が見たかったから。……ねぇ、あなた。お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも……わ、た、し?」
ユウリはわかりやすく胸を腕で挟んで強調する。
むにゅりと盛り上がった双子の山を見て、登山しない男はいないだろう。
だけど、あくまで今回はごっこ。
それにここで欲望に負けて触れてしまえば、なぜか幸せな未来が崩壊する気がして俺は踏みとどまる。
結婚式が終わるまでは手を出さない。
これは守るようにしよう。
俺はニコリと微笑みを浮かべると、また彼女の頭に伸ばした。
「じゃあ、ご飯にしようかな。実はさっきからいい匂いがするなと思っていたんだ」
「ジンさんのいけず。私はいつでもいいのに……」
「ほら、中に入ろう。内装もすごい楽しみなんだ。それに俺たちも二人に話さないといけないことがある」
「ふわぁ〜い」
あっ、またとろけた。可愛いやつめ。
「ジン……中に入る前に、私もする」
「わ、私も!」
「リュシカは一緒に出かけてきたよね?」
これは待っていた組のご褒美みたいなものだ。
一緒に王都に行ったリュシカには悪いが、今回は無しで。彼女は彼女で内緒でお姫様抱っこしたりしたしな。
年長者としてしっかり我慢してもらおう。
その旨を伝えるとリュシカは目に見えて落ち込んだ。
28××歳のエルフお姉さん……。
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