Life2-9 ボクは結婚を認めません!!

 とても良い笑顔のままアキラの表情が固まる。


「……ふふっ、ジンは知らないの? 努力すれば何でもできるんだよ?」


「いやいやいや! 努力でできる範疇は超えてるから!」


「落ち着いて、ジン。常識にとらわれないで考えて。ジンの前にいるボクはとても可愛いでしょ?」


「可愛いのは確かに可愛いな」


「よかった。ジンに気に入って貰うために、ジンの好みに合わせておしゃれしたから気にいってもらえて……」


 そう言って、頬を朱に染める様子は思わず守ってあげたくなる気持ちに駆られる。


 だけど、アキラは男だ。


 ちゃんと下腹部に俺と同じ男の証明が付いている。


 それは一緒に大浴場に入ったことがあるから、まず間違いない。


「女の子と同じくらい可愛いよね? いや、女の子以上に」


「それは否定しない」


「じゃあ、ボクは女の子なんだよ!!」


「どうしてそうなった?」


「大丈夫、心配しないで。ボクがジンを幸せにするから……。さぁ、結婚しよ? 今すぐ籍入れちゃおう? 子供作っちゃお?」


 可愛く上目遣いでお願いされてもアキラは男で、俺とは結婚できないし、子供もできない。


 これはもう変えられない世界の理なのだ。


 それにしても……これはアキラは俺に恋愛感情を抱いている、と認識して良いのだろうか。


 確かに王城で会ったときは、いつも隣でべったりしていたし、男同士だから行動もよくしていたが……ただなつかれているだけだと思っていた。


 でも、ここまでの言動を聞いて、彼の好意はただの感情ではないと流石にわかる。


 冗談だったならば、ここまで結婚話で粘ったりはしないだろう。


 同性から結婚を申し込まれたのは初めてだ。


 さて、アキラを傷つけないようにどうやって穏便に話を終わらせよう……と考えていると、リュシカが俺とアキラの間に割って入った。


「落ち着いて聞いてほしい、アキラ」


「落ち着けないよ! ジンがボク以外と結婚だなんて……」


 フラフラと崩れ落ち、涙を浮かべるアキラ。


 ……ん? このパターン、つい最近経験したような……。


「思い出してよ、ジン! 約束したじゃないか! 世界が平和になったらボクと一生を共に過ごすって」


 やっぱりこのパターンじゃねぇか!


 過去の俺はまた無責任なことを言ったのか、クソ! 


 思い出せ、思い出せ……! アキラとの出会いから、会話までちゃんと記憶を遡って……。遡って…………。


「なぁ、アキラ」


「ボクたちの愛の蜜時を思い出してくれた……?」


「やっぱりそんな記憶ないんだけど……嘘ついてないか?」


「そんなっ……! ジンはボクを疑うの?」


「じゃあ、アキラはいつだったか言えるか? より明確にしてくれたら俺も思い出せるから」


「……チッ。涙でごまかせなかったか」


「アキラさんっ!?」


 今までなついてくれた弟分のような存在が初めて見せる怖い部分に動揺が隠せない。


 ずっと小動物みたいで、アキラにはそんなずる汚い面なんてないと思っていたのに……。


「やだやだやだ~! ジンはボクと結婚するの! ボクはジンじゃないと嫌なの!」


 終いには外聞など関係なしと言わんばかりにジタバタと暴れ始める。


 これが由緒正しき王族の姿か?


 ウルヴァルト様も頭を抱えているし……。


 とにかくやめさせよう。こんな姿を他の人にでも見られたら大変だ。


「ほら、アキラ。ちゃんと立って。せっかく綺麗な服が汚れちゃうだろう」


「じゃあ、結婚して?」


「それは難しいかな。王国の法律でも許されていないし」


「なら、ボクが王様になって法律を変えるから! おじいさま! ボクにその座を譲って!」


「ワシは普段構ってくれないアキラより、会うたび優しくしてくれるジンの肩を持つ。よって却下じゃ!」


 そんな対応をするからアキラの態度も軟化しないんですよ、ウルヴァルト様。


「おじいさまの役立たず! もういいです。こうなったらボクも好きにやらせていただきます」


 立ち上がったアキラがさした指は真っ直ぐ俺――ではなくリュシカを貫く。


「ボクが君たちがちゃんとジンにふさわしいお嫁さんか見極めさせて貰います!」


「えっ」


「ジンをボクよりも愛していると認めた場合は諦めましょう。ですが、あなたたちの愛が中途半端なものだったら……ボクがジンを幸せにします!」


「えぇっ!?」


「おじいさまもいいですね!?」


「いや、せっかく戦争も終わったのじゃから四人にはゆっくりと」


「いいですね!?」


「……うむ」


 アキラのすごい剣幕にあっさりと押し切られるウルヴァルト様。


 こうして急遽、王族による新婚夫婦テストが行われる運びになったのであった。

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