Life2-7 可愛い孫がいたら国王様だって甘やかす(※孫じゃない)
魔王という人類の敵を討伐するにあたって国との協力は不可欠だ。
レキだって【勇者】という強力な加護を持っているが、元は田舎村の女の子。
戦闘の勘だってないし、そもそも武器の扱い方だって知らない。
国が学びの場を与え、研鑽し、ようやく戦場に立つ戦士となる。
もちろんそれだけではない。
魔族との苛烈な争いをするために必要な最適な武器、防具。旅の道中で必要な金銭。
全てを国が負担した。
そして、それらを用意してサポートしてくれた今代国王のウルヴァルト・メ・オーンは間違いなく善良な王様だと言える。
「ウルヴァルト様にはいっぱいお世話になったからなぁ」
俺が勇者パーティーの一員としてレキに付き添えたのもウルヴァルト様が反対派を押し切ってくれたからだ。
ウルヴァルト様は一人の少女にかかる重圧を正しく理解していた。
【勇者】としてレキを見るのではなく、 【勇者】の加護を持ってしまった女の子として接してくれ、「彼女の心の支えであるお前が必要だろう。限界を感じたなら辞めても良い。ただ今は共に歩んでやれ」と俺に告げてくれた。
そういう経緯があったからか、俺はかなりウルヴァルト様に恩を感じており、戦いの傷を癒やすために王城にいたときは積極的にお手伝いをしたものだ。
「確かにあの国王でなければ私たちの魔王討伐はもっと遅れていたかもしれないね」
「ラインゴット帝国は【竜騎士】や【大剣士】を筆頭に魔王討伐を試みたけど失敗したんだよなぁ」
帝国はあらかじめ一年しか支援するつもりがなく、彼女らは急速での魔王討伐が求められた。
そのせいでろくな休息も取れず、疲労困憊なまま彼女たちは魔王幹部との決戦に臨み、当然十全の力を発揮できずに敗北した。
不幸中の幸いは俺たちが合流できたこと。
いろいろとあった末に彼女たちは魔王討伐の役目を俺たちに託し、帝国から離れてそれぞれの故郷へと帰っていった。
「元気かな。【
「私たちの結婚式が終わったら、また顔を見せに行けば良いさ。きっと喜んでくれるよ」
「そうだと嬉しいよ。それにビックリするだろうな、俺たちがみんな夫婦になっているだなんて知ったら」
「違いない。……いろんな意味でね」
いろんな意味? それはどういうことだろう。
俺が尋ねる前にリュシカはツンツンと俺の胸元をつついて、言葉を続ける。
「と、ところで、ジン? 私はいつまでこの態勢でいれば……?」
「…………」
「……ジ、ジン?」
「……このままウルヴァルト様に見て貰おうと思うって言ったら?」
「そ、それはそれは……恥ずかしさで死んでしまうかもしれない……」
リュシカは凜々しい顔が幸せにとろけているところを手で覆って全然見せてくれない。
こんなにも可愛いから隠さなくて良いのに……。
このままリュシカを抱いたまま正門から不法侵入! というわけじゃない。
これもまた配慮から用意された俺たち専用の入り口がグルリと一周した裏側に設置されている。
えっと、確かこのあたりに……おっ、あったあった。
「【
城の壁で一つだけ色がわずかに違うレンガに触れながら、一部しか知らない呪文を口にすると空間がぐにゃりと歪む。
現れたのは人一人が通れるほどの小さな暗闇の空間。
事情を知っていなければ触れるのさえためらってしまうほどの漆黒。
「リュシカ。入るからね」
腕の中の彼女に告げて、一歩踏み込む。
俺たちの体が全て暗闇に溶け込むと、床に描かれたリュシカ特性の転移魔法陣が発動。
視界が黒に染まっていたのも一瞬で、すぐに開けた場所に出る。
あの暗闇は魔法陣の存在を隠すためのカモフラージュというわけだ。
――と、そんなことはどうでもよかったな。
俺たちが転移したのは王城の中央。心臓と言っても過言ではない。
国王様と謁見する大広間。
床には歴史を感じさせる真紅のカーペットが敷かれており、それが伸びる先にはこの国の主のみが座ることが許された椅子がある。
そして、今もまたそこには金と紅と碧の宝石で装飾された冠を被る人物がいた。
「……よく来たのう、ジン。リュシカ」
その低い声には人に頭を垂れさせるだけの重みと威厳があり、間違いなくこの方こそが国王だと認識させるには十分だった。
鋭い三白眼は俺たちを捉え、立ち上がったご老体は慌てることなく、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
この後、自分が何をされるのか悟った俺はリュシカを下ろして直立不動のまま彼と相対した。
「お久しぶりです、ウルヴァルト様。ジン・ガイスト。無事、帰還のご挨拶に参りました」
「おうおう……まったく……」
ウルヴァルト様の強く、暖かい手が頭に乗せられる。
数回なでられると、そのまま腰へと回り――
「本当によく帰ってきたのう~!! 会いたかったぞ、ワシのかわいいかわいい心の孫よ~!!」
――強く強く抱きしめられた。
先ほどまでの威厳は霧散し、ただ孫をかわいがるおじいちゃんが現れる。
当然、俺は孫なんかではない。だけど、この人はいつも俺を心の孫と呼ぶ。
この人こそがウルヴァルト・メ・オーン。
「話は聞いておるぞ~。結婚するんじゃとな? 家はどんなのが良い? ワシが何でも買ってあげるから遠慮せずに言いなさい」
俺たちが暮らすメオーン王国の現国王である。
◇登場人物、みんな優しい世界。次回あたり、もう一人新キャラ出るかも。
口の名前に「・」が入っていないのは脱字じゃないです。 ◇
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