Life2-4 結局、揚げ物が最強なんだよ

「それで? どんなお昼ご飯を作ってくれるの?」


「う~ん、そうだな……」


 魔法収納マジック・ボックスを覗きながら、材料を漁る。


 う~ん、これなら……そうだ、あれがいいな。


四肢鳥ししちょうの衣揚げにしようかなと思ってる」


「やった! レキ、それ、好き!!」


 あまりの嬉しさに語彙力が破壊されるほどにレキは喜んでくれた。


 証拠にもう口からよだれが垂れている。


 この子は本能に従って生きすぎて旦那として少々心配だ。


「はいはい、レキは座って待っていようね」


 リュシカママがハンカチで拭ってあげて、椅子に座らせた。


 四肢鳥はその名の通り、鳥なのに四本脚で歩く。


 四肢鳥は飛べないのだ。


 なら、なぜ鳥と呼ばれるのか……多分、前脚に翼が付いているからだと思う。


 逆に言えば、それだけ。あと、鶏冠とさかもあるか。


 しかし、四肢鳥は長距離の移動もその太い四本脚で行う種族なので筋肉が発達していて肉つきもよく、柔らかさも絶品。


 そんな四肢鳥を使った料理でも特に人気なのが香辛料で味付けした肉をカラッと揚げた衣揚げだ。


火種ファイア。こちらは任せてください、ジンさん」


 ユウリが魔法で火をつけて、油を入れた鍋を熱していく。


 その間に俺は下ごしらえだ。


「まずはスジを切り落として……と」


 四肢鳥のもも肉を食べやすいように一口大に切って、深皿に入れる。


 上から塩、こしょうの調味料を振りかけて……。


「このままでも美味しいんだけどガリックの実をすりつぶして入れると、もっとうまみが増すんだよな」


 ちゃんと肉の中まで味がしみこむようにしっかりもみほぐす。


 さらに四肢鳥の卵を落として、トロロイモから作った粉、小麦からできた粉と一緒に混ぜ合わせていく。


「よぉし、あとはユウリ。任せて良いか?」


「もちろんです。愛の共同作業ですねっ」


「ハハッ、夫婦だからな。これから何度もしていくことになるさ」


「夜の共同作業も毎日しましょうね。活きが良いか確かめておかないと」


「こら待ちなさい。どこ触ろうとしてる。食材を触るんだからやめなさい!!」


 体を近寄らせ、腕を組んだ彼女がとんでもないところに手を伸ばそうとしたので必死に制止する。


「むぅ……仕方ありません。今度の楽しみにとっておきましょう」


 激しい攻防の末に諦めたユウリは頬を膨らませて、調理に戻る。


 火加減を魔法で調整しているユウリはもも肉をそっと油の海に入れていく。


 パチパチと小気味いい音と、色が変わっていく様子が食欲をそそって俺までつまみ食いしたくなってきた。


「すごい良い匂い……」


「我慢、我慢だよ、レキ」


「うぅ……」


 リュシカがレキを必死になだめている中、いよいよ衣揚げは完成の領域へ。


「最後は強火で一気に! 油の音が変わってきたら――」


 目を閉じ、集中モードに入ったユウリ。


 俺たちも彼女の邪魔にならないように静かにする。


 そして、彼女の耳はささいな音の変化を危機のがさなかった。


「ここです……!!」


 ユウリは目にもとまらぬ速さで衣揚げを箸で掴み、鉄皿の上に並べていく。


 このざるは特別な素材でできていて、余分な油を吸い取ってくれるのだ。


 その分、お値段も少し高かったが良い買い物だったと思う。


「はい、ユウリ。ここに並べていって」


 彼女が揚げているのをただぼうっと見ていたわけではない。


 しっかり実家で採れた野菜を敷き詰めていたのだ。


 ユウリは油でギトギトになっていないのを確認すると、一つずつ並べていって――


「完成です!」


「四肢鳥の衣揚げ!」


「「わ~い!」」


 パチパチと鳴るレキとリュシカの拍手。


 レキは辛抱たまらんとフォークとナイフでとんとんと机を叩いているが、空腹を我慢しているのは俺たちも同じ。


 盛り付けられた緑の葉の上にさんさんと輝く黄金色。


 ゴクリとつばを飲んだのは一人だけじゃなく、全員かもしれない。


「では、みなさん。食材に感謝を捧げて」


「「「「いただきます」」」


 久しぶりに【聖女】らしい一面を見せたユウリの言葉に続いて、食前の挨拶を済ませると俺たちは思い思いに衣揚げに飛びつく。


「うん! 美味い!」


 カリッとした衣とジューシーでプリッとしたもも肉。


 噛んだ瞬間、あふれ出てくる肉汁にうまみが凝縮されていてたまらない。


 あまりの量に口の中がやけどしてしまいそうなくらいだ。


「んん…………!!」


 レキはそのおいしさを噛みしめているのか、無言で咀嚼を続けている。


 ただとろけた表情を見るに、ご満悦な様子だ。


「あんなに美味しそうに食べてもらえたら作った側としても嬉しくなりますね」


「ああ、作りがいがあるってもんさ」


 実際、魔族との戦いで精神が摩耗する中、少しでもレキの喜ぶ顔が見たくて料理の腕を磨いたっていうのもあるしな。


 こうして彼女のためになっているなら俺の努力も報われるものだ。


ふぃんジンもっふぉらへらいもっと食べたい


「こら、レキ。行儀が悪いから一気に食べるのはやめなさい」


「大丈夫ですよ。おかわりならまだありますから」


「旅の道中で食材はいつも多目に買っていたからね。もう必要ないだろうし、せっかくだ。贅沢もいいじゃないか」


「ジン……ユウリ……リュシカ……らいすき大好き


 頬を衣揚げでいっぱいに膨らませながら、グッと親指を立てるレキ。


 そんな彼女を見て笑う俺たち。


 こうして平和でのどかな昼食の時間を過ごしたのであった。









◇そうだよ、この作品スローライフだったよ。と思い出したので、のんびりさせました◇

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