Life2-3 誰がまな板だ!!ちゃんとあるから!!

「はい! そこまでです! イチャイチャの波動を感じて、見に来たらやっぱり楽しんでいましたね!」


「抜け駆け禁止! 抜け駆け禁止!」


「どんな波動だよ」


 家から飛び出してくるなりデモを始めるユウリとリュシカ。


【聖女】と【賢者】の面影はなく、子供みたいに禁止! 禁止! と叫んでいる。


「……良い雰囲気だったのに、邪魔が入った」


 レキは唇をとがらせて不満顔だ。


 それも当然か。気分良くゆっくりしていたのに、いきなり騒がれては小言の一つも言いたくなるだろう。


「邪魔だなんて……ギルティですよ! ギルティ!」


「はいはい、落ち着いて。そもそも二人が俺たちをおいて熱中しだしたのが原因だろ?」


「うぐっ……それはそうなのですが……」


「……で、話は進んだのか?」


「はい! やはりジンさんに耳元で愛をささやかれながら抱かれるシチュが王道で至高という結論に到りました!」


「お前らの方がギルティだよ」


 少しあきれ気味に言葉を返した。


 ユウリはもっと淑女らしさを兼ね備えていると思っていたが、最近はずいぶんとはっちゃけている。


 これも【聖女】としての偶像を求められた結果、抑圧されていた欲があふれ出てしまっているのかもしれない。


 いやいや、これで幻滅なんてしたら上辺でしか判断していない奴らと同じではないか。


 ……どんな姿でも受け入れてこそ旦那だろう。


 それに俺にしか見せてない一面と思えば可愛いものだ……多分。


「でも、ジンさんはこんな私を見捨てたりしませんよね?」


「……これくらいで嫌いになるならプロポーズなんてしないさ」


「ジンさん好き!」


「ダメ。許さない」


 キスの雨を降らしてくるユウリだったが、その全てをレキが手で防ぐ。


 手の捌きは見事でリュシカがパチパチと拍手していた。


「やっぱり体術ではレキに敵いそうにないね」


「当然。ジンもひぃひぃ言わせてみせる」


「こら、レキ。ユウリみたいなこと言うんじゃないぞ」


「あれ? 私の名前が悪口になってます?」


 最近の行いの結果だと思う。


 今までは少し遠慮をしていた部分があったが、彼女たちがこうやって距離を詰めてきてくれたから攻めることにした。


「それで【性女】様」


「リュシカさん? 聖教会に怒られますよ?」


「崇めているトップに君臨している奴がこんな煩悩まみれな方が怒りと悲しみですごいことになると思うぞ」


「暴動が起きそう」


「安心してください。私は結婚と共に隠居する予定ですから、バレることはありません」


 手を合わせて、ニコリと微笑むユウリ。


 彼女もきちんと分別はつけているようで安心した。


 とんでもない爆弾を共に抱える羽目になりそうなのは……夫婦になるのだから受け入れようじゃないか。


「……と話が逸れてしまった。ユウリ、ジンに設計図を見せよう」


「そうでしたっ。猥談は事実ですが、きちんと完成もさせたんですよ」


 そう言ってユウリは間取りが描かれた紙を広げる。


 ……想像以上に広い。ていうか、子供部屋がなんで10もあるの? 気が早すぎないか?


「この周りは木材が豊富ですから、立派なものができると思います」


「うん、それはいいんだけど……人手が足りないんじゃ……」


「そこに関しては心配いらない。これがあれば解決さ」


 リュシカの手のひらには八つの黒い骨片が転がっていた。


 彼女はパンと手を重ねると、骨をひねり潰すようにねじればパラパラとすりつぶされた骨の欠片が大地に落ちていく。


「【召喚サモン狂骨竜人アンデッド・ドラグナー】」


 地面に魔法陣が展開され、骨は成長して八匹の狂骨竜人となった。


 彼らは本来ならば倒すべき魔物に属する生き物だが、黒骨片を媒体にリュシカが呼び出したものなので彼女の支配下にある。


 全員が整列し、主人リュシカに向かって片膝をついた。


「狂骨竜人は疲れを感じないし、細かな指示を理解する知能もある。こういう作業にはピッタリだろう」


「ああ、とても助かるよ。ありがとう、リュシカ」


「フフッ、夫を支えるのは良き妻の役目だからね。気にしなくていい」


「……私もいる。私も良妻賢母の素質あるから」


「それでしたら私だって。ここまではふざけていましたが、ちゃんと働きますからね!」


 クイクイと両袖を引っ張るレキとユウリ。


 二人も負けじとやる気にあふれている。もちろん俺だってそうだ。


「よし、そうと決まれば早速組み立てに取りかかろう――」


 ――ぎゅるるるぅぅ……。


 ひときわ大きな音に全員の視線が1カ所に集中する。


 みんなから見つめられた彼女は少し恥ずかしげに己のお腹を両手で押さえた。


「……私が十全の力を出すために、まずジンはご飯を作るべき」


「ははっ。それは腕によりをかけて作らないといけないな」


「たくさん働くためにも美味しいものを作りますね」


「よく考えれば時間も良いところだしね。そうだ。天気も良いし、外で食べようじゃないか」


「なら、俺とユウリは調理班。レキとリュシカはテーブルとか移動させてくれ」


 そう告げると、各員が己の仕事をこなすために動き出す。


 この役割分担は旅の時と一緒だから、みんなテキパキと作業をこなしていた。


「ユウリ。悪いけど、まな板取ってきてくれないか? 外で乾かしていると思うから」


「わかりました! えっと、まな板、まな板、まない……あっ、リュシカさ~ん」


「待て。なんで私を呼んだのか理由を聞かせてもらおうか?」


「他意なんてないですよ? ただリュシカさんの近くに洗い終えた調理道具一式があっただけで………」


「……まぁ、いい」


「ありがとうございます、まな板さん」


「やっぱり故意じゃないか!!」


 そんなツッコミが背中の後ろから聞こえた気がした。






◇ごめんなさい!!大スランプでした!!

 納得いかず消して書いてを繰り返した結果、ここまでお待たせすることになって済みません。更新再開していくので、またお付き合いいただければ幸いです!

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