第二章 結婚生活の準備をしよう!

Life2-1 関係は変わっても中身はいつものみんな

 俺の気持ちを告げ、みんなの本心を知った昨晩。


 夜が明け、目を覚ました俺たちは食卓を囲んでいた。


 父さんと母さんは先に食事を済ませて二度寝を決めている。


 ちょうど俺たちしかいないタイミングだったので、いちばんに改善しなければならないと思った話題を切り出す。


「ここで生活するために俺たちの家を作ろうと思います」


 すると、三人の視線がこちらに集まる。


 レキは口元についたジャムをチロリと舐め取ると、素朴な意見をぶつけてきた。


「なんで? 私は今のままでいい」


「みんなと寝てる姿を親に見られるのが恥ずかしいからだよ!」


 ドンと思わずテーブルを叩いてしまう。


 そう、また見られたのだ。


 三人に抱きつかれながら寝ているところを母さんたちに。


 しかも、なぜかレキもユウリもリュシカも服がはだけてるの!


 なんで!? そんな寝相悪くなかったじゃん、みんな。


 親に察せられて、ニヤニヤした表情を向けられるのがどんなに辛いか……!


「そもそもいつの間にベッドに入り込んできてたんだよ……」


「ユウリにやろうって誘われた」


「あっ!? 私を売りましたね、レキちゃん! みんなで仲良く潜り込んだじゃないですか! 同罪です、同罪!」


「罪は認めるのか……」


「二人とも静かに。騒ぎすぎると迷惑だろう」


「冷静に諭してるけど、リュシカも悪いことしてるからな?」


 どうやら三人に反省した様子はない。


 ……いや、それはいい。俺も女の子に囲まれて寝られるなら本望だ。


 問題なのは父さんたちに気を遣われることだから。


「というわけだから、今日から俺たちが暮らす家を作ろう」


「もちろん構わないよ。では、私が簡単に設計図を引こうか」


「いずれは愛の巣が必要になりますし。私もお手伝いします」


「そうだね。将来的には子供部屋も欲しいところだ」


「二人だけに任せるの怖くなってきた……」


 しかし、あいにく俺には設計に関する知識がない。


 正直そんな立派なものはいらなくて、生活するのに困らない程度で問題ないと考えていたんだが……。


 せっかく二人がやる気を出してくれているんだし、口を挟むのはよくないだろう。


 もう結婚するのは確定なんだし……奥さんのどんな姿でも受け入れるのが夫の役目。


「じゃあ、こういうプレイ専門の部屋も導入して……あっ、よだれでてきちゃいました」


「なら、浴槽でも一緒に入れるように……ん、体が熱くなってきてしまった……」


 そう……どんな姿でも……!!


「ジン、唇噛んでどうしたの?」


「いや、少し自分の葛藤と戦っているだけさ」


「そう……。ごちそうさまでした」


「もういいのか?」


「うん。それより私もやりたいことを思いついた。ちょっと森に行ってくる」


「そうか。気をつけてな」


「大丈夫。魔物の方が逃げ出すから」


 それもそうか。


 魔物だって『格』の違いくらい理解できる。


 魔王を滅ぼした歴戦の戦士であるレキの雰囲気に当てられたら、即座に尻尾を巻いて逃げ帰るだろう。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 レキはブンブンと腕を振り回しながら家を出た。


 ずいぶんと気合いが入っている――と思ったら、ズズゥゥンと大きな音があたりに鳴り響いた。


 わずかに遅れて地面も揺れる。


 導き出される結果はただ一つだ。


「……うん、なにも聞こえなかったことにしよう」


 思考に蓋をして、現実逃避する。


 かといってユウリとリュシカの会話に入るのも違う。


「私……たまに思ってしまうんです……椅子になってみたいって。普段優しいからこそ、ジンさんに嫌な顔されながら座ってもらいたいんです」


「ユウリはそっちか。私は逆にジンにとことんトロトロに甘やかされてみたくて……」


 なぜなら、彼女たちの会話からも逃避したいからだ。


 なんで家の話からエロ談義になってるんだよ。


 そして、俺も絶対に巻き込まれている。だって、名前が会話中に出てきていたから。


「ふぅ……」


 ……全くユウリとリュシカもお茶目だな。


 結婚が決まってはしゃいでくれているのだろう。


 冒険中には見られなかった彼女たちの素顔が垣間見えて、ちょっと嬉しい。


 そう思わないとやってられない。


 ……大丈夫。ちゃんと受け入れるよ。


 二人がどんなに特殊性癖だとしても俺は結婚相手として尊重する。


「……うん、空気が美味しい」


 だけど、今はちょっとだけ休ませてください。


 朝から胃がキリキリと締め付けてくるんです、お願いします。


「おかしい……こんなの俺が思っていた新婚生活と違うよ……」


 安息の地を求めて、俺は庭へと逃げるのであった。

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