Life-Interval まだ見ぬ恋敵たち【Side:リュシカ】

「ふふっ、可愛いですね。ジンさん」


 ベッドで眠るジンの髪をユウリがなでる。


 包帯が全身に巻かれているが永眠じゃない。


 少し魔法に巻き込まれて怪我を負ってしまっただけだ。


 完治したあとに【回復魔法】が得意じゃないレキが自分も仕事をすると包帯を巻きまくった結果、顔以外がぐるぐるになったジンが出来上がった。


 私たちの喧嘩を命がけで止めた勇敢な彼はスヤスヤと寝息を立てていた。


「ああ、普段は凜々しいのに寝ているときは子供みたいだ」


「ええ、本当に子供みたいで……子供……」


「ん? どうかしたか?」


「急に母性が湧き上がってきました。おっぱいあげた方がいいんでしょうか?」


「お前って年中発情しているのか?」


 世界を救ってからの仲間のはっちゃけぶりのすごさに頭を悩ませる。


 ユウリの見た目は十人が見れば十人とも清楚可憐な女の子だと答えるだろう。


 毛先の隅々まで美しいし、透き通る瞳は同じ女でさえ魅了される。


 にも関わらず、口を開けばこれだ。


 女神様はユウリのどこに惹かれて【聖女】の加護を授けたのか、ぜひとも聞いてみたいところではある。


「失礼な。ジンさん限定です」


「年中発情確定させるの辞めてくれないかい? ジンとは三年間一緒だったんだから」


「まぁ、このあふれる母性は今度バブみプレイで発散するとして……」


「教会に帰ってお前は一回清められてこい、発情魔」


 ……おっと、いけない。


 つい汚い言葉を吐いてしまった。


 ジンの前では到底言えない。引かれてしまうからね、気をつけないと。


「ん。二人とも何の話してたの?」


 ユウリと口合戦を繰り広げていると、お花摘みに行っていたレキが戻ってくる。


「ああ、ユウリが変態というのを少し」


「なんだ、そんなこと」


「レキちゃんも大概ですよね、私への反応」


 心外とばかりにユウリが頬を膨らませる。


 今さら可愛らしさを取り戻そうとしてももう遅い。


 そもそもジンが見ていないところであざとさを出しても意味がないだろうに。


「はぁ……。だって、仕方がないじゃないですか。昔から大人たちのゲテモノ濃厚プレイの相談を受けていたんですから。性癖が歪むのも当然です」


「そんな悲しきモンスターの誕生秘話みたいに語られても……」


「全く心に刺さらない」


「もう! 酷い人たちですね! 私を慰めてくれるのはやっぱりジンさんだぐえっ……!」


「そうはさせない」


 流れに乗ってジンに抱きつこうとしたユウリの首根っこを捕まえて、レキが自分の隣に座らせる。


 彼女の怪力にはユウリであっても逆らえない。


 喉を押さえて咳き込みながら恨めしげにこちらをにらんでいた。


「いいじゃないですか、ちょっとくらい」


「ダメ。少しも許されない」


「やだやだやだやだ!」


「ユウリもパーティーに加わった時はこんなおかしい子じゃなかったのに変わったよね」


「……その通り、狂わされてしまったんですよ、私たちは。ジンさんに」


「急に冷静になるな。……だが、言いたいことはわかる」


 ジンに出会い、諦めかけていた結婚への想いを再燃させられ、結婚ゴールまでこぎ着けた。


 毎日に充実感が出たのもジンとの時間という新たな楽しみを得たからだ。


 そう考えればここにいるだけでもジンによって人生を変えられた人間が三人。


「思ってしまったんだが……ジン、絶対他にも堕としている女がいる」


「一緒に途中まで旅したのは竜人族のフロリア、獣人族のルティー。あとは……不死人族アンデッドのリリシュナとかも」


「……よくよく考えたら魔王軍の幹部リリシュナを寝返らせてるのもおかしな話だ」


「天性の人たらしですもん、ジンさん。女性に限らず男性もいると思いますよ」


「……男なら一人いるじゃないか、あの厄介な奴」


 きっと私と同じ人物を浮かべていたのだろう。


 あ〜、と納得の表情をしていた。


「しかも、なまじジンさんとも仲がいいから離せないんですよねぇ」


「……まぁ、悪い奴ではないんだけど」


「私たちとの結婚に反対しそうなのが……」


「ハハハ。容易に想像できてしまうね」


「その時は私がグーで黙らせるから安心してほしい」


「うん、レキちゃんが原因の本元だからね? しちゃダメだよ?」


 ユウリの言葉には同意しかない。今まで何回暴力を振るってきたと思うんだ。


【勇者】じゃなかったら処刑されていると思う。


 向こうはめちゃくちゃえらい立場なのに。


「……とにかく魔王討伐の一報が届けば、それぞれがお祝いとかいろんな名目で訪ねてくるでしょう」


「みんな、族長だったり責任ある立場の人たちばかりだったからね。間違いない」


「つまり、ジンにも接触してくる」


「……結婚式の邪魔だけはさせない」


「絶対に守ってみせる」


「ええ、ジンさんの初めては私たちのものです」


「「…………」」


「初めての結婚式って意味ですよ? ジンさんが受け入れるなら後から奥さんになるのは止めません。だから、侮蔑の入った視線を向けるのは辞めてくれませんか?」


 最後に少し揺らぎかけたが最終的には同じ意思を持って、確かめるように頷く。


 結束を深めた私たちはそれぞれ仲良くジンのベッドに潜り込むのであった。

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