Life-11 これからの幸せをみんなと共に
両親への挨拶も終わり、国王への魔王討伐報告も完了。
現状、やるべき事は全て終わった。
……いや、俺はまだ一つやり残している大切な役割があるか。
とにかく堅苦しい業務はもうないのだ。
となれば、こんなめでたい日を祝わない理由がない。
「息子のジンとレキちゃん、ユウリちゃん、リュシカちゃんの結婚とジン・ガイスト男爵の誕生! そして、憎き魔王討伐を祝って――かんぱ~いっ!!」
「「「かんぱ~いっ!!」」」
父さんの号令を皮切りに村のみんなが酒の入ったコップを掲げた。
こんなにも賑やかな故郷は見た覚えがない。
テーブルには色とりどりのサラダにこんがり焼けた鳥の丸焼き、スパイスのきいた鉄串焼き、山菜を炒めたもの……。様々な料理が所狭しと並んでいる。
酒は高級品だし、香辛料だって安い品物じゃない。
けれど、こんなに豪勢になっているのは俺たちが王都で買い込んできたからだ。
リュシカの魔法があれば移動は一瞬。
ならば、せっかくの宴をよりより思い出にしたいとパーティー全員の意見が一致するのは当然の帰結だった。
ちなみに、あの後の両親への説明はというと――
「国王に内々に認可を頂きましたので近い将来、ジンには男爵位とこの村を中心とした領地が与えられ、今後は貴族扱いになります」
「魔王を討伐したパーティーの一員として活躍した実績を考えれば妥当なところです。領地も周囲を森に囲まれた交通の便も乏しい場所。反発も少ないでしょう」
「私たちもいる。他の貴族もうかつには手を出せない」
「ですから、安心して村長の役目は彼に引き継いでもらって」
「息子さんを私たちにください」
「いぇーい」
――という感じで、話はまとまった。
なんとも頼もしいお嫁さんたちである。
……そう。頼もしすぎて、ここまで俺は身を流れに任せていた。
「……どうしたの、ジン? お腹痛い?」
「いや、そうじゃないよ」
「じゃあ、これ食べる? 美味しい」
両手に持っていた串焼きの片方を差し出してくれるレキ。
「お酒に酔ってしまいましたか? 私が介抱しますよ」
心配して俺の背中をゆっくりとさすってくれるユウリ。
「無理はしてはいけないぞ。薬なら以前調合したものがある。飲めるか?」
キリッと引き締まった表情に戻り、水と調合薬を取り出してくれるリュシカ。
みんながそれぞれ魅力的で、三年一緒にいても飽きないくらい個性的で、いつまでもそばにいたいと思える素敵な女の子。
そんな彼女たちに求められたら返事なんか決まっている。
受け入れる一択だ。
あれだけの「好き」をぶつけられて心揺さぶられない男がいるだろうか。
俺も漢を見せなければならない。
「いいや、そうじゃないんだ。……みんな、ついてきてくれるか?」
そう言うと、三人は嫌な顔ひとつせず、何も聞かずに従ってくれた。
喧噪から離れて、俺の部屋へ。
座ってくれと手でジェスチャーすると、みんなはベッドの上に腰を下ろす。
「……で? 私たちを呼んだ用件はなんだい、ジン?」
話の口火を切ってくれたのはリュシカだった。
彼女はおそらく察しているのだろう。昨晩に気絶する前、彼女にだけは誤解であると伝えていたから。
……ここまで進んだからには、もう覚悟を決めないといけない。
レキを一人にさせまいと死を覚悟して、一緒に旅に出る決意をしたあの日と同じ。
今日は新たな俺の人生の門出だ。
パンと両頬を叩き、気合いを注入する。
「まず、一つ謝らせてほしい。……ユウリが語ってくれた俺からのプロポーズの言葉……そこに異性的な好意の意味は含まれていないんだ」
そう告げるとユウリはきょとんとした表情を浮かべている。
「レキに関しても……思い出したよ。討伐前に言っていた約束って、小さい頃にした結婚についてだったんだよな……ごめん。あの時、俺はレキがここまで想ってくれていると知らないまま、言葉を返したんだ」
レキもまたユウリと似たような反応を示す。
これは怒りか? それとも悲しみか?
どんな罵倒でも受け入れよう。
ちゃんと自分の想いを伝えられた後なら。
「だけど、戦いが終わって今までと違う立場でみんなと接して……三人を異性として意識し始めた。一緒に食卓を囲んで笑い合ったり、思い出を共有したり、俺たちパーティーで死ぬまで過ごせたらとずっと思っていたんだ……!」
額を床につけて、できる限りの誠意を見せる。
「絶対に幸せにしてみせるから……本当に優劣がつけられないくらいレキもユウリもリュシカも大切なんだ! だから、こんな俺でも良かったら……結婚してください!!」
言い切った……。
ずっと彼女たちからの好きはもらっていたけれど、俺はそれに対して返事をろくにできていなかった。
きっとこのまま触れずに結婚式を迎えても三人とも許してくれるのだろう。
だけど、それは狡い。レキ、ユウリ、リュシカの気持ちから逃げる一手だ。
だから、こうして俺は自分の気持ちを三人に伝えようと行動に移したのだ。
「…………」
叫んだ後だから、静寂が余計に重くのしかかる。
そんな重苦しい空気を破ったのは、三人の堪えきれないといった感じに漏れ出た笑い声だった。
……え? あれ?
「な、なんで笑ってるんだ、二人とも? 俺はひどいことをして……」
「あはは、ごめんなさい! だって、ジンさんがとっても真剣だから何だと思ったら……」
「そんなのとっくに気づいてる。ジン好き好き歴10年をなめないで」
「それに私も教えておいたしね。告白する前に注意だよって」
レキはベッドから降りるとしゃがみ込み、ツンと俺の額を指で押す。
「……確かに約束を忘れてたのはひどい。減点」
「うっ……面目ないです」
「よろしい。……でも、それを差し引いてもジンは私の中で100点満点。ずっと募らせてきた『好き』が、これくらいで冷めるわけがない」
ニコリと笑ったレキはぎゅっと俺の頭を抱きしめる。
「この村を出ることになったとき、ジンがついていくと言ってくれて私、とても嬉しかった。私の心にぬくもりをずっと注ぎ込んでくれたのはあなたなんだよ、ジン」
「私もです。ジンさんの言葉が私の心を深い海底から救い出してくれた。この事実には変わりありません」
レキだけじゃない。ユウリもまた聖女の名にふさわしい微笑みを浮かべて、俺の頭をなでてくれた。
「だから、返事はあなたを好きになった日から決まっているのさ」
最後にリュシカが前へ進むために、うつむくのではなく上へと顔を向かせてくれた。
「「「はい、喜んで」」」
「……ありがとう……ありがとう……!」
こんな俺を受け入れてくれた感謝を。
これから俺の人生は、俺を愛してくれる人たちのために使おうと誓う。
笑顔でくれた彼女たちの返事に俺は涙を流しながら、ありがとうを言い続けた。
「ジンの涙で服べちゃべちゃ」
「す、すまん……! 新しいの買ってやるから……!」
「ふふっ。ジンさんの泣いているところは初めて見ました」
「どんなに辛い状況でも弱音を吐かなかったのがジンだったからね。貴重な一面を許してくれたのも、また愛の証なのかな?」
「……感激したら泣いたりするだろ、普通」
「あ、すねてる。珍しい」
「ハッハッハ。これ以上からかうともっとすねそうだから話題を変えようか」
いちばん大人のリュシカがフォローを入れてくれる。
それに乗っかったのもまた他人の感情に敏感なユウリだった。
「でも、本当にやるんですね~、王城で結婚式! 私、実は憧れがあったんです!」
「私もまさか白無垢に身を包めるなんて……故郷で天変地異とか言われているかもしれないね」
「私はずっとジンと結婚する気満々だったもん」
「ははっ、俺もだんだん楽しみになってきたよ」
たくさんの人たちに祝福されて、王城に敷かれたバージンロードを歩む。
スーツなんて着たことないから似合うか心配だな。
ちゃんとそれまでに体型を維持しておかないと。
みんなもそれぞれで衣装を選ぶらしく、華やかさに目も幸せになりそうだ。
そういえば……。
「入場する順番はどうするんだ? あまり前例がないから自由に決められると思うんだけど……」
隣に並ぶ人物を思い浮かべようとして、思いついたことをついポロリと口から出してしまう。
すると、みんながクスクスと笑みを漏らした。
「ジンも面白い冗談を言う」
「ここまでの功績を考えれば一択しかないじゃないですか」
「そうだよ、ジン。衆目を集める中、誰があなたの隣にふさわしいかなんて考えるまでもないことさ」
「私に決まってる」
「私に決まっています」
「私に決まっているじゃないか」
「「「…………」」」
「「「……あ?」」」
へぇ……。女の子って本当に譲れないものがある時、こんな怖い顔するんだ。
新たな学びを得た俺は喧嘩を止めるため、満身創痍になるのを覚悟で魔法を唱え出す三人の間に飛び込んだ。
◇これにて第一章・完!!
なんだか完結みたいな引きでしたが、第二章へと続いていきます。もしかしたら幕間を挟むかもしれません。
一つの区切りということで、よろしければフォロー、☆、応援コメントなどいただけたら嬉しいです♪(欲張り)
今後とも引き続き応援よろしくお願いいたします!!
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