Life-10 両親公認ハーレムになりました

 告白を受け、体が火照った俺たちは飲み物を求めてまた居間へと戻ってきていた。


 互いに一瞬で飲み干し、置かれたコップは空。


 カチカチと秒針が時を刻む音が鳴る。


 普段は気にならないそれがやけに大きく聞こえるのは静かな空気に包まれているからだ。


「「…………」」


 一言で言い表すなら、すごい気まずかった。


 だけど、嫌な居心地ではなくて。


 こう……初めてキスしたことで照れと恥ずかしさと喜びが入り交じって、なんとも言えない気持ちになっているのだ。


「…………っ」


 そっとレキを見やれば、向こうもこちらの様子をうかがっていたのか目と目が合い、即座に顔を背ける。


 さきほどキスした際は大人の雰囲気を漂わせていた彼女だったが、やはりまだ精神は成熟しきっていない。


 レキが背伸びして頑張っていたんだとわかると可愛く思えるし、その事実が嬉しくもある。


 いつもは表情の変化に乏しい彼女だが、きっといま胸の内では様々な感情が暴れているのだろう。


 俺でさえまだ落とし込めていないのだから、レキは仕方ない。


 だから、彼女が慣れてくるまで待っておこうと思って特にアクションを起こすわけでもなく、ゆっくりとしていた。


「ただいま戻りました~……あれ? もしかして一線越えました?」


「疲れた~。ジン、慰め……え? なにこの空気?」


 二人が同時に帰ってきて、俺たちの様子を見るなり怪訝な表情を作る。


 緊張で固まっているレキに代わって、俺が説明することにした。


「ははっ……まぁ、ユウリやリュシカと同じってことだよ」


「あぁ、なるほど~。レキちゃんも年相応なところがあったんですね~」


「私がいない間に……でも、頑張ったじゃないか、乙女なレキさん?」


「うぅ……」


 二人はレキの髪の毛をわしゃわしゃとなでている。


 レキは抵抗もせずに頬を赤くしてうつむくばかりだ。


 うつむきすぎて額がテーブルにめり込んでいる。


 やばいやばいやばい、ミシミシいってるって……!


「うぅ……っ!?」


「あっ」


「レキちゃん!?」


 バキンと大きな破砕音がすると共にテーブルが真っ二つに割れた。


 レキの頭は床にめり込み、ユウリは唖然としている。


「ハッハッハ。【勇者】の力を暴走させてしまったようだね」


 最近は見かけなくなったが、昔はよく力加減が上手くいかずに物を壊してしまっていた。


 おそらくリュシカとユウリにからかわれた恥ずかしさが勝ってしまったのだろう。


「うぐぐっ……思ったよりも深くはまっていて抜けません……!」


「ははっ、ユウリは力がないからな。俺がやるよ。レキ、ちょっとだけ我慢してくれるか?」


「ジンはダメ!」


「え、なんで?」


「……素足に触れられるのは、なんだか恥ずかしい……」


 キスの方が恥ずかしくない? という奴は乙女心を全くわかっていないバカだ。


 あれはやっぱり勇気を振り絞って、彼女の長年を想いをダイレクトに伝えてくれたのだろう。


 確かに今までのレキの言葉なら無視しただろうが、彼女の気持ちを知ってしまったからには無下にはできない。


 ……となれば、対処できるのはレアなレキの姿を見れて上機嫌なリュシカだけ。


「いやぁ、あんなに張り切っていたレキもやっぱり子供というわけか。うんうん、初々しくて良いじゃないか」


「ジン好き好き歴3年以下のリュシカクソ雑魚は私の気持ちがわからない。黙ってて」


「頭だけ床に埋まっている状態で言っても全く怖くないぞ。いいのか? そのままにしておいてもいいんだぞ?」


「その場合、暴走状態の私が力尽くで無理矢理自力で抜ける。――家が倒壊しても良いの? 未来のお義父さんとお義母さんが悲しむけど?」


「脅迫の仕方が新しすぎやしないかい?」


 レキの斬新な脅しに、リュシカは一つ息を吐いて、小さな木の杖を取り出した。


「そう怒るな。ほら、テーブルも直してあげるから」


「……うん、お願い」


 ふぅ……これで一件落着か。


 後はこの現場を誰にも見られずに済んだら完璧……だったんだが。


「ただいま! はっはっは、今日は宴だからな! お父さん、張り切っちゃったよ!」


「いや~、まさかジンがお嫁さんを三人も連れて帰って来るだなんて、お母さんうれし――修羅場?」


 気分よさげに帰ってきた両親から笑顔が消える。


 この惨状を目の当たりにすれば、そう勘違いしても仕方ない。


 床に突き刺さったレキ。杖を持ってレキに近づいているリュシカ。息を荒くして座り込んでいるユウリ。


 だがしかし、俺たちの仲は良好だ。


「すみません、お義父さま、お義母さま。少々騒がしくしております。すぐに片がつくので家の外でお待ちいただけますか?」


 違う、リュシカ! いや説明的には違わないんだけど……!


 言葉が足りなくて『片がつく』が『レキを始末する』の意味に聞こえてるから!


「も、もしかして、三人とも仲が良くなかったり……?」


「いいえ、苦楽をともにしてきた仲ですから、とっても仲良しです! ね、レキちゃん? リュシカさん?」


「うん。二人は替えのいない世界で大切な友達」


 そう言ってレキは唯一自由に動く足を広げて、二人の前に差し出す。


 意図を察したのか、レキとリュシカは握手するように足を握った。


 仲良しアピールでもそうはならなくない……? 


 いや、これは逆に仲良しに映るのか……?


「そうなのねぇ。レキちゃんも新しい友達ができて良かったわねぇ」


「そうかそうか。それなら安心したよ」


「うん、おばさん、おじさん」


 どうやらセーフらしい。


 実親に雑に扱われていたレキは我が家で実の娘のように育てられてきた。


 そのおかげで親バカ補正が入って助かった……。


「あっ、もうお義母さん、お義父さんって呼んだ方がいい?」


「どっちでもいいわよ~。レキちゃんも本当にジンのお嫁さんになるのね……おばさん、なんだか嬉しいわ」


「レキちゃんだけではありませんわ、お義母さま」


「私たちもジンの妻として精一杯努めさせていただきます」


「ふふっ、そうだっだわね。でも、ジンは一人としか結婚できないと思うのだけど……大丈夫なのかしら」


「もちろん、そちらについても問題は解消済みです。あとでお二方にも説明させていただきます」


「あらあら、頼もしい」


「全員きれいで、賢くて、頼りになる……うちの倅にはもったいない子たちばかりだ。捨てられるんじゃないぞぉ、ジン」


「みなさん、私たちの息子をよろしくお願いいたしますね」


「安心して。私たちがジンを見捨てるわけがないから」


「もちろんです! 早くお義母さまたちに孫の顔をお見せできるように頑張りますねっ!」


「長命のエルフの身ですが、私の人生において伴侶にするのは彼だけと誓いましょう」


 ハッハッハと俺以外の笑い声が響く。


 ……とりあえずレキを床から抜いてから話さない?


 そんなことを言えない雰囲気のまま、両親への挨拶が終了した。







◇あと1~2話で第一章『結婚承諾編』が終わります。第二章は『ハーレムのんびり生活始動編』です。

 今日、明日、明後日と仕事が詰まっているので感想は隙間時間に返させていただきます……!タイミングがバラバラになりますがご了承ください。いつも楽しく読ませていただいております、本当にありがとうございます!!◇

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