Life-4 二人きりで迎える朝の権利争奪戦
「ユウリ、どう?」
「ジンは無事なのかい?」
私たちは真剣な面持ちで、目を閉じたジンさんを見つめていた。
人を癒すことが本職の私が対応に取りかかり、手首を握りながらそっと胸元に耳を当てる。
万が一のことがあってはならない。
念には念を重ねて、ジンさんの無事を確認した。
「……ふぅ。これで終了です」
ジンさんが気を失ってしまったので、揉めるのを一時中断して本職である私が【回復魔法】の最上位級である【癒やしの唄】により治療を施した。
私の報告を聞いて、二人はホッと胸を撫で下ろす。
「よかった……ジンが無事で」
「ったく……みなさん、もう少し落ち着きを持ってください」
「この状況を作り出したお前がよく言えたな、その台詞……」
あきれた風に肩をすくめるリュシカさん。
あなたが抜け駆けしようとしなければ起きなかったんですよ?
こんなきれいに返ってくるブーメランがあるでしょうか。
レキちゃんがそんな彼女を問い詰めるように距離を詰める。
「そういうリュシカこそ、あんなに顔近づけて何をしようとしていたの」
「うぇっ!? そ、それは、その~~」
「そもそもリュシカさんが最初に抜け駆けしたんじゃないですか。私たちに魔王討伐を押しつけて……!」
「だ、だって、仕方ないじゃないか! この機を逃したら次に二人きりになれるのはいつかわからないし……」
「知識でしか知らない年増エルフが手を出せるわけないんですから大人しくしておいてくださいね」
「は? じゃあ、ユウリは経験あるのか?」
「……? ないですけど?」
なぜかリュシカさんが信じられないほどのバカを見るような視線を向けてきた。
ひどい人ですね。
私は信者の方々の生々しい経験談を数え切れないくらい耳にしてきました。
本を読みふけってばかりのリュシカさんとは違うんですよ、リュシカさんとは。
「というわけで罰として、討伐の報告はリュシカに任せる」
レキちゃんは魔王の魔石をリュシカさんに渡すと、ジンさんをお姫様抱っこした。
「ちょ、ちょっと待て。勇者のレキがいないとダメに決まってるだろ! お前もついてこい」
「嫌だ」
「いいえ、リュシカさんの言うこともごもっとも。ジンさんのお相手は私がしておきますのでお二人は気にせず、王都へと向かってください」
「……淫乱聖女」
「……胸に栄養が全部いった女」
「脳筋勇者とまな板エルフの戯言は全くもって聞こえませんね」
「リュシカ、まずはユウリでちょっと運動しない?」
「奇遇だね。私もちょうど新しい魔法の試運転がしたかったんだ」
笑顔なのに言っていることが物騒すぎません?
三年も一緒に旅をした仲間の絆はどこにいってしまったんでしょうか。
「そもそもリュシカさんは瞬間転移の魔法があるんですから、一瞬じゃないですか」
「その一瞬で何をしでかすか危惧しているから嫌なんだ」
「私をサキュバスか何かと勘違いしてません?」
「ん? 何か間違っているか、【性女】様?」
「……一度みなさんとは決着をつける必要があると思っていたんですよ、私」
「二人ともいい加減にして」
レキちゃんの怒りをはらんだ瞳が私たちを貫く。
真剣味を帯びた顔を見て、ハッとさせられた。
……そうだ。ジンさんを気絶させて、挙げ句の果てに醜く言い争って……私たちは何をしているんだろう。
私たちはただ彼と一緒に笑い合えたらそれでよかったのに……あの楽しい時間をまだまだ分かち合いたくて……。
今のままじゃダメだ。しっかり反省して――
「このままだと私がジンと夜を共にする時間が少なくなる」
「――はいはい! もうジャンケンです、ジャンケンで決めますよ! 勝った人が残る! いいですね!?」
二人も平行線が続く論争にうんざりしたらしく、素直にうなずいた。
それぞれが腕を高く掲げると私が火蓋を切った。
「では、いきますよ。ジャーンケン」
「「「ポン!!」」」
直後、一人の野太い喜びが詰まった雄叫びが村中に響き渡って、しばらく魔物が出たのではと噂になったらしいです。
誰のことでしょうね、うふふっ。
◇書いている途中で一話分の中で視点変更が多くなったので短いですが区切りました。
2日は一日中、私用があるので次話は【3日の朝7時】に投稿されますので、楽しみにお待ち頂けるとうれしいです!もう原稿は書き終わっているので安心してください♪
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