第30話

 アパートまで走って帰り、ダイブ専用シートに接続しているタブレットの電源をオンに。


 急いだけれど味つき炭酸水を購入するのは忘れなかった。だって二円引きだからね、このチャンスは見逃せない。まあチャンスでも何でもないけど。何ならこれからずっと二円引きがデフォルトだけど。


 フリーのデザインツールをダウンロードして、タブレットに保存してあった三つの画像を開く。レガリアワールドオンライン2で見つけた不思議な迷宮。その完成マップ画像だ。


 マッピングし終わったとき、どこかで見た記憶があると感じてたんだよね。でもそれが何なのか思い出せなかった。それに、ひとつのマップだけ見ても『それっぽい』ってだけで、それじゃなかった。


 でもこうやって、三つの画像に透過処理をして重ね合わせてみると……。見紛うことなきQRコードが完成したじゃありませんか。


 そのままの状態を保存して、ひとつの画像に。それをスマホで読み取ると、予想通りURLに飛べる仕掛けだった。メイダス人って、ホントに意地が悪い。こんなもの、わざわざ三つに分けるとかRPGじゃなくてパズルゲームの領域だ。しかもそれだけのために迷宮を作るとか、思考回路が謎すぎる。


 ページに辿り着いた瞬間、パッパラー、パン、パン、パン! と、祝福の音楽とクラッカーが鳴り響いた。音デカっ、耳壊れるわっ。



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《このページにアクセスした君へ》


 やあ、はじめまして!

 メイダス軍・地球侵略無敵艦隊の艦長だよ。


 敵をキルした、味方がキルされた。


 生存数に一喜一憂している、そんな貴方に朗報です!


 なんとこの隠し要素を見つけた君に、大量虐殺の権利を与えちゃいます。下記の項目から、実行したいものを選んでチェックしてね。


 ◯ メイダス側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる。

 ◯ 日本側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる。

 ◯ 生存数を無視してドローゲームとする。

 ◯ 今はまだ選ばない


 尚、この方法でロストさせたプレイヤーの固有スキルも問題なく入手できます。英雄となるか悪魔となるか、はたまた……。


《さあ、君の手でゲームの勝敗を決定しよう!》


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 前も思ったけど、ノリが軽すぎる。人の命を何だと思ってるんだ……あ、データだった。ちょっと熱くなりかけたけど、これは所詮ゲームの話。だったら、これくらいの軽さでも良いのか。


 ……って、良くないわ! 何が悪いのかは漫然としてるけど。メイダス人には侘び寂びがないのかな。侘び寂びの意味はふわっとしか分からないけど、とにかく日本人が考える様式美とはかけ離れてる。まあ僕も日本人の何たるかは知らないけど。


 この隠し要素は、以前ゲーム内メールで読んだアレのことだろう。それを偶然見つけてしまったわけだけど、さてどうしたものか。


 普通に考えれば、【メイダス側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる】……これしかない。むしろこれ以外にあり得ない。僕たちは日本の命運を背負ってゲームに参加してるんだ。選べば形勢は一気にこちら側へ傾く。でもボッチリオさんがロストする可能性も……。


【日本側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる】……これを選んだときの利点は固有スキルが大量に入手できること。でも、現状の味方生存数を考えると選ぶ気にはなれない。


【生存数を無視してドローゲームとする】……ドローゲームとは即ち引き分け。結果を求められるゲームで、この選択肢はいささかネガティブな感じがする。ドローゲームになればどうなるのだろうか。勝敗が決しないから、メイダスの侵略を遅らせることができるとは思うけど、それはただの一時しのぎ。問題を先送りにするだけで、何も解決できてないのと同義だ。


 ただ深読みすれば、有利にすすめるカードがあるにも関わらず、敢えてドローゲームを選ぶことに意味があるのでは? とも思ってしまう。


 どちらにせよ、今すぐには決められない。【メイダス側のプレイヤーをランダムで30人ロストさせる】も、【敵の生存数:79】以下にならないと確実性に欠ける。


 日和見だけど、ここは【今はまだ選ばない】にチェックを入れておこう。

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