第20話
パリンッ――
と、ガラスが砕けるようなエフェクトを伴って結晶化が解除された。ボッチリオは「ふつくしい……」とか言いながら見てたけど、僕は男だからな。逆に男と分かっててその発言だったら怖いわ。あ、分かってるのか。めっちゃガクブル。
「新生こしあん、無事に進化終了いたしました!」
ノリで、ピシッと右手をこめかみに当てて敬礼。「うむ、ご苦労」とノッてくれるボッチリオ。なんやかんやで、気楽に話せる関係になったのは嬉しい。
「進化して何か変わった?」
「ちょい確認してみるわ」
こしあん
HP201 MP14000
個体 ΓΒΩ-Earth-King LV1/99
戦闘 近◎/中◯/遠◎◎◎◎◎
支援 治◯/バ◯/デ◯
生産 武◯/道◯/他◯
固有スキル1 飛翔LV1 吸収MAX 傀儡LV3
固有スキル2 SP増量LV5 超メテオLV−−
一般スキル 雷光LV3 錬金LV3
SP 0
「MPがめっちゃ増えてる。個体名がΓΒΩ-Earth-King(妖精王)になった。不得意分野がなくなった。固有スキルが増えた。そのくらいかな……」
「普通に強そうだね。レベル上限は?」
「99だけど、これはまあ一般的な感じかな」
「いやいや! 普通は高くても80だよ」
天井がLV99なのはRPGのお約束かと思ってたけど、このゲームでは違うらしい。何だか特別って感じがする。
「しかも個体名に『王』が付くとか、最高じゃないか!」
「最高なんだ?」
「王の付く個体は激レアで強いからね」
「ソースはどこ?」
「色んなゲームの攻略サイト。メイダス人なら常識でしょ」
あれっ? 今なんか聞いちゃいけないような単語が……。『メイダス人なら』とか言ったよこの人。もしかしてボッチリオはメイダス側? それならここはメイダス側の町で、周囲のプレイヤーは全員メイダス人みたいな流れ?
それって敵陣真っ只中、レッツ・キル待ったなしじゃん!
「そ、そうだね、知ってた。当たり前じゃないか」
「こしあんみたいな強い味方がいれば心強いよ」
「あはは……まあ、頑張るよ。うんまあ、そこそこ頑張ろうかな……」
ヤバいヤバいヤバい。ボッチリオには悪いけど、早くここから抜け出さなければ。地球人だとバレたら即殺される未来しか見えない。
「よし! こしあんの進化も終わったし、僕はログアウトしようかな」
「え、あ、おお。ありがとうな。誰も来なかったけど、とにかく感謝してる」
「良いって。僕たちはもうフレンドじゃないか。あ、フレンド登録しよう」
「そうだな、それはしておこう」
《ボッチリオさんからフレンド申請が届きました。 承諾する/絶対イヤ》
承諾するをタップすると、フレンド欄に彼の名前が白字で表示された。このゲームで初めてのフレンドが敵側プレイヤーとか微妙すぎる。
「じゃあまた」
サッとメガネを外して掲げ、反対の手でバイバイをするボッチリオ。そのポーズに何か意味があるのかと思っていたら、メガネが光の粒子になって消え去った。あとに残ったボッチリオの瞳から光が消え、その場で硬直している。え、何、どういうこと?
「おーい、ボッチリオさんや~」
返事がない。まるで抜け殻だ。お前、ログアウトするんじゃなかったのか。何で寝てるんだよ。フレンド欄の表示を見ると、白かった彼の名前がグレーに変化している。これはログアウトしてる証。
「……ってことはまさか」
メイダス人ってメガネなのか!
【メガネが本体】を地で行く種族なのか!
そしてこの目の前で鯖のような目をしてる人間チックな肉塊は、ただの乗り物なのか!
呆気に取られると同時に、ちょっと羨ましいと思ってしまうこの感情は何だ。僕はメガネが好きだけど、メガネになりたいなんて考えたことは一度もない。さすがにそれはマニアックすぎるだろうと、心のどこかでストッパーがかかっていたからだと思う。
でも今、目の前でメガネな宇宙人を発見してしまった。フザケた感じだし色々ムカついてたけど、この状況を見せつけられると戦意なんて消失してしまう。だって、メガネと戦うなんて、僕には、僕には……。
まあ、できるけど。
衝撃的な事実を知ってしまったが、今はここから逃げるのが先決だ。マップを確認しながら迷宮を出て、それから町も飛び出してフィールドへ。地球側の陣地がどこにあるのか分からないけど、とにかく探すしかない。
飛翔で登った空から眺める景色は、PKありきのゲームとは思えないほど長閑だった。
三章 勘違いでオンライン 了
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