第19話

 ある日~パパと~ふたりで~語り~合ったさぁ~


 まあパパじゃなくて、ボッチリオさんだけど。特にやることもないし、他のプレイヤーも来ないので、それはもう長時間語り合った。


 ちなみに昔、グリーングリーンをネットで検索したことがある。小学生のときに音楽の授業で習ったんだけど、妙に歌詞が大人っぽかったから気になったんだ。


 それによると、日本語の歌詞は原詞の直訳じゃなくてオリジナルらしい。しかも頻繁に出てくるパパは原詞で一切登場せず、出てくるのはママだけだという。


 アニメや漫画で例えると、原作を元にした二次創作を描いた人がオリジナルキャラを作って勝手に暴れた感じだ。まさに怖いものなし。原作者? 著作権? まとめて、かかってこい! の世界。


 それは置いておいて。最初は他愛もない話しかしなかったんだけど、さすがに十時間以上も喋ってたら変なテンションになるわけで。だからかどうかは分からないけど、いつの間にかボッチリオさんは自分語りを始めてしまった。



 タイトル:ボッチリオ物語


 僕はね、今まで期待なんてされずに育ったんだ。家はそこそこ裕福で、兄は一流企業に務めるキャリア。姉は有名政治家と結婚して跡継ぎもしっかり産んでる。


 そんな中で僕だけが、落ちこぼれだったんだよね。学校では虐められたし、成績も良くなかったし、何の取り柄もないクズだったんだ。でも唯一、ゲームだけは上手かった。


 学校にも行かずゲーム三昧の日々を送って、そのうちプロゲーマーになってたよ。収入も兄より多いし、社会的な有名度も姉の結婚相手より高くなっちゃって。まあ、だからって部屋に引きこもってゲームばっかりの生活だから、名声はあれど信頼とかはゼロなんだけどね。


 今回プレイヤーに選ばれたのは、自分を変えるチャンスだと思った。ゲームを仕事としてプレイしないのは、いつぶりだろう。しかも同じようなゲーム好きが100人もいる。これはもう、友達を作るチャンスだと思ったね。


 でもいざ参加してみるとPK推奨。そんな殺伐とした設定で、まともな友達なんて、できるはずがない。だから僕はモンスターだけを倒してレベルを上げる、消極参加をすることにしたんだ。


 味方陣営が勝とうが負けようが興味なし。敵陣営を攻撃する以外に、何か目的を見つけたくてウロウロしてる。笑うだろ? こんな中途半端な奴。



 ――みたいなことを延々と数時間。動けない僕の前で語り続けた。もう、お前、ゾーンに入ってるだろ! と疑うレベル。そのうち涙とか流すんじゃないだろうなと、本気で心配しながら話を聞いてた。


「まあ僕の話はこんな感じだよ。ゴメンね、熱くなっちゃって」

「大丈夫だよ」


 全く大丈夫じゃなかったし、途中で寝たけど、それでも彼の存在はありがたいので邪険にすることもできない。PKが嫌いなのは僕もそうだし。もうすでに、ひとりキルしてるけど。


「結晶化が解けるまで、あとどのくらい?」

「6時間かな」

「そっか、じゃあ次は違う話題を……」


 いやいや、もう大丈夫だから。何も喋らず静かにしていてほしい。僕の側から、付かず離れずで警護してください。


 でも動けないから、結局彼の話を時間いっぱいまで聞く羽目になった。その頃にはもうボッチリオマスターになってたし、何なら自分のこと以上に彼のことを知ってる感覚に陥っていた。


 すでに呼び名も【さんくん付け】じゃなく、こしあん、ボッチリオと呼び捨てだ。これはある意味、友情なのかな。

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