第18話

《ΓΒΩ-EarthはLV10になりました。進化しますか? はい/いいえ》


 迷宮のワープ地点を幾つも経由した先で、僕はようやく腰を落ち着けた。ここに来るプレイヤーは少ないみたいだし、それより何よりここ以上に安全な場所を知らない。


 はい、を選択すると前回同様に体が発光を始め……たんだけど、急激な変化はない。あれ、おかしいな。ちょっとビビりすぎてたかな。と首を傾げていると足元からクリスタルが立ち上がり、体全体を呑み込まれてしまった。


 ナニコレ。前回の蛹化より、さらに身動きが取れないんですけど……。


 透明なクリスタルの中で、カチンコチンな僕。外から見たビジュアルは、水晶に閉じ込められている、いかにも助けたら仲間になりそうな妖精さんだろう。もはや立ち位置はNPC。何度も言うけど、僕もみんなみたいに普通のゲームがしたい。


「くっそう……」


 殺られたわけでもないのに、そんな呟きが出てしまう。手も動かせないからメニューボタンを操作できない。操作できないから現状の確認もできない。できることは視界に映るHPMP表示と生存数表示を、ボーッと眺めることだけ。それも変化がないから、見てる意味がないけど。


 そんなこんなで悲観にくれていると、ようやく視界にメッセージが。


《現在結晶化状態です》

《この状態で破壊されると死亡が確定します》

《結晶化解除までの残り時間 23:59:03》


 どうやら丸一日、この状態が続くようだ。妖精種ってみんな蛹化とか結晶化とかになるのかな? もしそうなら、この上なくスキル強奪に良いカモだ。何か……何か自衛方法はないものか……。


 あったわ。傀儡。

 これはスキルだから使おうと思うだけで、その使い方が頭に流れ込んでくる。


 よし行くぞ。傀儡人形、出てこいや~!


《傀儡人形の材料を指定してから召喚してください》


 そんなメッセージが表示されて、インベントリが開いた。でも手が動かせないから材料をタップできない。結果、召喚不可能。なにこのジレンマ。


 雷光を使おうとしてみたけど、こちらも《現在使用できません》ときたもんだ。まあ使ったからって、どうにもならなさそうだったから気にしてないけど……くっ。


 これはもう、何もかも諦めてログアウトすべきかな。うん、すべきだ、そうしよう。そしてここでも問題が。手が動かせないので、ログアウトボタンを押せないという。丸一日もこんな状態だったら、僕の膀胱が大変なことになるじゃないか。このゲームを作った奴は、絶対に頭おかしい!


「あれ? こんなところに妖精さんが」


 心が荒んで、メイダス絶対殺すマンになりかけていたら聞き覚えのある声が。


「あ、ボッチリオさん」

「もしかして、こしあんくん?」

「そうそう。紛うことなく、こしあんです」

「久しぶり……でもないか。こんな場所で何してるの? それに姿も随分と変わったようだけど」

「姿が変わってます?」

「うん、少しだけ大きくなったかな。しかもさらに容姿が整って、まるで妖精のお姫様みたいになってるよ」

「僕、男ですけど」

「じゃあ王子様かな。面倒くさいから、どっちでも良いけど」


 容姿の問題は結構大事なのに、面倒くさいで片付けられてしまった。まあでも自分ですら考えるのが面倒なことだから、その気持ちも分かる。


「もしかして、動けないの?」

「うん、しばらく動けない」

「じゃあ、殺され放題だね」

「残念ながら、そのようだわ……」


 ニヤッと笑うぽっちゃりメガネに対し、僕は最期を覚悟した。


「よし、僕が護ってあげるよ!」

「へ?」

「だって動けないんでしょ? 妖精種って変体時に弱体期間があるから、不人気なんだよね~。でもあえてそれを選んだその嗜好、嫌いじゃないからさ」

「そ、そう? ありがとう」


 あえて選んだわけじゃないけど、別にちっちゃい妖精が好きな嗜好でもないけど。それでもここは彼に感謝したい。


「ボッチリオさんは何で、こんなところに?」

「ゲーム参加者に選ばれはしたけど、僕はPKとか嫌いなんだよね。で、あんまりフィールドには出ないんだ。この場所は数日前に見つけたから、探検しようかなと」

「何もないけどね、ここ」

「何もないの?」

「驚くほど」

「……そっか~。じゃあマップだけでもあとで完成させておこうかな」

「それなら僕が完成させてるし、結晶化が溶けたらデータで送るよ」

「おお! それはありがたい。だったら頑張って護らないとね」


 PKが嫌い。普通の感覚ならそうだと思うんだ。ボッチリオさんが普通の人で本当に良かった。

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