第12話

 VR空間なのに、九割以上の時間を暗闇で過ごしてるのは誰だ!


 僕です。


 掘っても掘っても地上に到着しない。妖精の体が小さすぎるからだけど、スタート地点が地中深すぎたのだと思う。卑弥呼さんも想定外だったらしいけど、これについては僕のほうが納得いかない。でもそのおかげでスタートダッシュ用のアイテム(違う)を見つけられたからオールオーケー。


 まあとにかく掘る方向も分かったから、掘り続けるしかない。こんなゲーム、昔どこかで見たような。今日喋ったのが、プレイヤーでもなくNPCでもなく運営的な人だけって……。僕もみんなみたいに普通のゲームがしたい。


 それにしても今回は、土の中に色々隠し過ぎだと思う。おかげで鉱石やら魔石やら謎のアイテムやらが、掘り進むだけでどんどんインベントリに貯まっていく。大半は何に使うのか分からないものばかりだけど、データとして存在するんだから有用なアイテムだと思いたい。


 掘って掘って、また掘って休んで掘って。正直飽きたから、もう今日はログアウトしよう。僕はこんなことをするために、このゲームをしてるんじゃない。じゃあ何をするためにしてるんだと聞かれたら返答に詰まるけど。


 言えるのは、このままだと桜田長官が提示してくれた報酬に釣り合う働きができないということ。さすがに敵の一匹も倒してないんじゃ話にもならないだろう。


 まあでもそれとは関係なくログアウトするけどね。



「ふう……」


 仮想空間から現実世界へ戻ってきたらホッとする。暗闇で過ごす時間は、かなり精神的によろしくないようだ。見える、聞こえる、匂いがする喜び。この狭い部屋が、今は楽園にも等しく感じる。


 少し気持ちを落ち着けて、色々と考えてみよう。


 今回参加してるのは、日本の命運をかけたゲーム。それは桜田長官も言ってたから間違いない。でも、どうやったらメイダスに勝てるのか、どうすれば日本を守れるのか、そんな肝心なことが何ひとつ知らされていない。


 日本政府側も知らないらしく、ゲーム内でその方法も探ることになるらしいけど。それって、本当か?


 大事なことだ。何をおいても優先すべき大事なことのはずだ。なのに知らされてないってのは、かなりおかしい気がする。実は知っているけど、あまりにもヤバすぎてプレイヤーに言えないだけなのでは……。そうだとしても僕にできることなんて全くないけど。


 あとはゲームシステムについて。今回はシーフが活躍できる感じのキャラメイキングじゃなかった。シーフというか、職業自体が存在しない。前回のレガリアワールドオンラインは、各職業が力を合わせてようやく成り立つような構成だった。だから検証ばかりしてた僕でもフレンドができたし、それなりにやり甲斐も見つけられた。


 でも今回のレガリアワールドオンライン2はどうだろう。まだ一度も敵と遭遇してないどころか、最初の拠点にも行けてない。スタート地点にも立てていないからなんとも言えないけど、ステータス画面を見る限りロール役割があるゲームとは思えない。


 じゃあプレイヤーと協力しなくて大丈夫なのかと問われると、絶対にそんなことはないと思う。冬イベントの企画書なんてものがあったから、力を合わせてイベントを乗り越えなければならないはずだ。


 前作のギミックは全ての職業が、その役割を果たすことで攻略できるというものだった。なかなか難しかったけど、分かってしまえば『なるほど』と思える内容だ。メイダスはそんな感じの、分かりにくいギミックを好む傾向にあると考えられる。だから今作にも何かしら地雷が用意されているはずだ。


 そこまでは分かるんだけど、その後がさっぱり分からない。ひとえに僕が土の中にいるせいだけど、情報が少なすぎて考えようのない事実。


 となれば、やはり早急に地上へ出るべきだ。でも穴掘りは飽きるんだよね。突然変異を重ねた特殊な個体だからって、穴掘り強要とかやめてほしい。もうホント、前回も今回もキャラクターメイキングには良い思い出が全くない。

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