第11話
このゲームに招待されている日本国民は僕を含めて百人。先進的なVR-MMORPGとはいえ、要は非公式なものだと言える。そんなゲームにおける、見つけちゃいけない系の資料が置いてあるこの部屋は一体何だって話。
乱雑に置かれてある宝箱の中には蓋が開いてるものもあって、それに触れると当たり前のように中身がインベントリに収納された。この機能が適用されるってことは、つまりゲーム内での正当な行動だと思って良いのかな?
うん、良いはず。良いよね、良いとしよう。
それにしても今季の冬イベントか。多分、VR空間を利用して運営的な立場の人が事務所として使ってる場所なんだろうけど、プレイ初日の参加者に見つかるとは、セキュリティーが甘すぎる。罰として貰ったものは返さないでおこう、うんうん。
そんなことを考えながらフワフワ漂っていたら扉が開き、入ってきた人物とバッチリ目があった。
「こしあん……さん?」
「あっはい、お久しぶりです卑弥呼さん。ちょっと見ない間に大きくなられて」
その人物はチュートリアル担当の卑弥呼さんだった。しかも巨人みたいに大きい。彼女と並んだ場合、僕の身長は脛の辺りになるだろう。
「えっと、こしあんさんが小さいのだと思いますが……そんなことより、ここで何を?」
「そんなこと? 僕が小さいっていう重大事実を前にそんなことって」
「ごめんなさい、事実ですから。あれだけ個体選びには気をつけるよう忠告したのに、よりにもよって妖精系とは……しかも幼体ですね」
「恥ずかしながら、頑張ってキャラクターメイキングしたらこうなりました」
この部屋が大きいのではなく、僕が小さかった事実。それに加えて妖精の、しかも幼体とかだという真実。この大きさじゃ、どう考えても普通にゲームを出来そうにない。
「はあ……それは分かりました。そういう種族もメイキングできるようプログラムしたのは私たちですから。で、こしあんさんはどうやってこの場所を突き止めたのでしょうか。理由如何ではゲームから退場していただきますよ?」
「スタート地点が土中だったんです。それで地上に出ようと掘り進んだらここに……」
「本当ですか?」
「嘘じゃありません」
「確かに妖精のスタート地点は土中や炎中や水中ですが、それにしても……。こしあんさん、ステータスを覗かせていただきますね」
そう言うと卑弥呼さんは、グッと目力を強めて僕を凝視してきた。巨人だけどかなり可愛い人(?)なので照れてしまう。
「ああ、浮游で方向感覚が……。そして吸収で魔力も……」
「どうでしょう? 疑いは晴れましたか」
「はい、明らかにこちらの落ち度です。まさか突然変異を三回重ねて、しかも想定外の固有スキルを組み合わせて、さらに土属性の妖精個体でメイキングを完了できる人がいるなんて思いませんでした」
褒められてるような、貶されてるような。でも疑いだけは晴れたようで良かった。
「こしあんさん、ここで見たことは他言無用でお願いします。そうして下さるなら、引き続きのゲーム参加を認めましょう」
「もちろん、誰にも言いませんよ。ボッチだし……じゃあ僕は改めて地上を目指します。では!」
できるだけキリッとした顔でサムズ・アップし、何もなかったように開けた天井の穴へと上昇する。これ以上ここにいるのは何となく気まずい。
「ええ、そうしてください。まっすぐ500メートルも掘れば地上に到着すると思います。ではまた」
「は~い、ではまた~」と手を振り返して僕は穴に飛び込んだ。目指すは500メートル先の地上。
え? 500メートル?
この小さな体で、無意識にそんな距離を進んできたのか。それともスタート地点がやたらと深かったのか。そもそも妖精だからって何で土中スタートなのか。木とか花とかから生まれる的な、そんな演出じゃないのか? これだとまるでセミじゃないか――、まあどうでもいいけど。
さてでは、気を取り直して地上に向かおう。レベルもステータスも上がってないけど、面白いアイテムだけはたくさん増えた。
やわらかい土✕99✕8
圧縮魔石✕21
石灰岩✕6
鉄鉱石✕6
銀鉱石✕5
金鉱石✕3
木の根✕3
古い骨✕3
古い鍵✕1
力の極意書✕99
魔の極意書✕99
レンジの書✕99
威力の書✕99
経験の書✕99
この小さな体には不安しかないけど、むしろそれはハンデだと思えるお宝ばかり。これだからゲームって本当に面白い。
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